久保ちゃんが晩メシで使った皿を洗ってる間、俺はリビングに寝転がって雑誌めくって読んでた。けど、この雑誌は俺が買ってきた覚えないから、たぶん久保ちゃんが買ってきたヤツかもしれない。 久保ちゃんは電車の棚にあるヤツとか読みかけると、そのまま持って返ってくるクセあるから、もしかしたらコレもそうなのかもしれなかった。 どの記事が気になったから読んでたとかそんなのはわかんねぇけど、たぶんあったのかもって思って探そうとしても…。 それがなんなのかってのは、読んでもみてもいつも全然わかんなかった。 なに読んでかって聞いてみたら、きっとクダラナイことだって気もするけど…。 こうやってあんま興味ない雑誌めくってるのはたぶん、そのクダラナイ理由を知りたいせいかもしれなかった。 「なぁ…」 「ん?」 「久保ちゃんの幸せって、なに?」 「・・・もしかして、その雑誌になんか載ってた?」 「うん、コレ」 「ふーん、なるほどね」 俺が妙な質問したのは久保ちゃんが言った通り、めくってた雑誌に『あなたの幸福度チェック』っていうのが載ってたせいだった。 そのチェックの質問をしないでストレートに幸せは何かって聞いたのは…。 たぶんこんなチェックなんか意味ねぇって思ってたのと、こんなのでも久保ちゃんが幸せじゃないって出るのはイヤだったのと…、それが半分ずつあったせいなのかもしれない。意味なくてくだんないって思ってんのに、イヤだってのはムジュンしてるって思うけど…。 だから、今幸せかっていうんじゃなくて、久保ちゃんの幸せがなにかって…、どうでもいい雑誌をめくりながら聞いた。 「俺様が聞いてんだから、早く答えろってのっ」 「両手の皺を合わせてシアワセとか?」 「…古りぃよ、久保ちゃん」 「そう?」 「そーいうんじゃなくて、なんか一個くらいあるだろ?」 「うーん、じゃあさ。そういう時任のシアワセって、なに?」 「えっ?」 「一個くらいあるんでしょ?」 「う〜っ、一個くらいって…、そんなのあったっけ?」 自分のした質問を逆に久保ちゃんに言われたら、何も浮かばなかった。 一個くらい浮かぶだろうって思ってたのに…。 雑誌には幸せだって思えないことが、すっげぇ問題みたいに書かれてて…、だからコレってもしかして問題アリだったりすんのかなって思った。 幸せとかそうじゃないとか、答えられなくても問題なんかねぇのに…。 そんな風に思いながらじーっと雑誌眺めてたら、背中が急に重くて温かくなった。 それは片づけが終って俺の上に乗っかってきた、久保ちゃんの体温と重さで…。 一瞬、暴れて落としてやろうかと思ったけど、久保ちゃんが俺のコト押しつぶさないようにゆっくり乗っかって来てるのが、なんとなくおかしかったからやめた。 「く、久保ちゃん…、重い…」 「体重、そんなにかけてないんだけど?」 「…とかいいつつ、上に乗るなっ!」 「あったかくていいっしょ?」 「あったかくても、重いっつってるだろっ!」 「じゃあさ、時任が上に乗りなよ」 「うわっ、ちょっと待てっ!」 久保ちゃんはうまく俺を自分の背中の上に乗せると、何事もなかったようにさっきまで俺が読んでた雑誌をめくり始める。だからなんとなく俺も久保ちゃんの背中に乗ったまま、久保ちゃんが読んでる雑誌を上から見てた。 おんぶの時みたいに両手で首の辺りにつかまって、ページをめくる音を聞きながら…。 そうしてたらスゴクあったかくて…、気持ちよくなってきて眠くなってきた。 さっきまで幸せがどうとかって考えてたけど、眠くてもうどうでもいいカンジで…。 今度は背中じゃなくて、まぶたが重く重くなってく。 だから、こうやってあったかい久保ちゃんの背中に顔をくっつけて、肩にぎゅっと抱きついてたら…。 幸福度チェックで不幸せって出ても、これで十分だからもういいって思った。 「あれ、もしかして寝ちゃった?」 俺が目を閉じて背中に完全に体重を預けたら、幸福度チェックのページも止まらずにめくってた久保ちゃんの手が頭を撫でくる。頭を撫でられるとちょっとくすぐったいけど、撫でてくれてる手が優しいから、久保ちゃんに撫でられるのは好きだった。 幸せとか不幸とかそんなのはぜんっぜんわかんねぇけど…。 こうしていられれば、わかんなくったってそれでいいんじゃねぇかって思う。 久保ちゃんがそばにいるなら…、どんなでも関係ねぇからそれで…。 幸せがなんなのかって自分のじゃなくて、久保ちゃんのだけはちょっと興味あったけど…。たぶんきっとそれも…、どうでもいいことなのかもしれなかった。 「おやすみ…、久保ちゃ…」 「…うん」 見えない幸せを計るよりも、今ここにいる君の温かさを抱きしめていたい。 幸せなんてドコにあるかわからなくて、見えるはずなんかなくて…。 そんなモノがなんだって騒ぐよりも、きっと君と手をつなぐコトの方が大切だから…。 計測不能な幸せと不幸せの真ん中で、君と今をその温かさを抱きしめていよう。 たぶんそうすれば…、大事な何かをなくさずにすむかもしれないから…。 |