今日、珍しく一人で買い物して歩いてたら天津甘栗が売ってた。 ぺつに甘栗は年中売ってっけど、秋になったらなくとなく食いたくなるから不思議だよなぁ。 やっぱ食欲の秋ってヤツかも…。 なーんてココロん中でぶつぶつ言いながら、甘栗を一袋だけ買った。 久保ちゃんが食うかどうかはわかんないけど一袋あれば十分だし…。 なくなったらまた買い来ればいいだけだから…。 でもこういう風に考えたりすんのっていいよなぁって、ほんっとに時々だけど思ったりする。 一人じゃなくて二人分のモノ買うと、二人で暮らしてんだなぁってカンジで…。 そういうカンジってくすぐったいけど、なんかちょっとうれしい。 久保ちゃんが俺が帰ってくんの待っててくれてんのも…、ぜったい言ったりしないけどうれしい。 だから急いで帰ろうって気になる。 ただいまって言ったら…、おかえりって言ってもらえるから…。 「ただいま、久保ちゃん」 「おかえり」 チャイム鳴らすと久保ちゃんが玄関を開けてくれた。 ちゃんと脱げって久保ちゃんがいつも言ってっけど、メンドいから靴をポイっと脱ぎ捨てて中に入ると、買ってきたモノをテーブルに広げる。 久保ちゃんのセッタと、あとお菓子とかカップめんとか色々あって…、その横に甘栗を置いた。 「それって甘栗?」 「食いたかったから、買ってきたっ」 「ふーん」 「久保ちゃんも食う?」 「残しててくれたら、後で食べるけど?」 「今、食わなきゃなくなるに決まってんだろ?」 「食うって聞いといて、それはヒドクない?」 「…ちょ、ちょっとだけなら残してやるっ」 「二、三個だったり?」 「ハズレっ、五、六個」 久保ちゃんが買ってきたモノ片付けてるのを見ながら、すぐに甘栗の袋を開ける。 そして中から栗を取り出すと、皮をむいて実を取り出そうとした。 けど、なんかわかんねぇけど、う、うまくムケない…。 袋んトコにムキ方書いてあって、その通りにやってんのにダメじゃんっ。 くそぉっ、なんでこんなに硬いんだよっ、すっげぇっムカツクっ! これじゃ一個食うのにかなり時間かかるし、指とか爪も痛てぇつーのっ! 「なに? もしかしてムケないとか?」 「べ、べつにそんなことねぇよ」 「苦労してるように、見えるけど?」 「してねぇよっ!」 うまくムケなくて苦労してたけど、久保ちゃんの言い方がムカツクから平気なフリしてた。 ぎゅっっと指に力入れて、ムリやり皮むいて…。 やっと皮がむけて一つ口の中に放り込んだら、その横で久保ちゃんが袋から栗を取り出した。 だから、久保ちゃんも苦労すりゃいいんだって思ってたのに…。 なんでかわかんないけど、栗はあっさりとムケた…。 俺はすっげぇ苦労してむいたのにっ!!!! 「やり方がマズいんだよねぇ?」 「どこがだよっ」 「ほら、ここんとこの真ん中に爪を立てると、すぐに割れるっしょ?」 「それならさっきからやってるってのっ!」 「うーん、もしかして不器用なだけ?」 「うっせぇっ!」 久保ちゃんが出来んのに、俺様が出来ないってどーいうことだよっ! くうぅっ、意地でもむいてやるっ! こうやって爪を立てて…、力入れて…。 ・・・・・・なんてやってもやっぱできねぇっ、なんでだっ!! 「時任…、時任」 「気が散るから黙ってろっ!」 「いいから、ほら…」 「あ?」 怒鳴ろうと思って久保ちゃんの方を向いたら、口の中に何か入って…。 最初はそれがなんなのかわかんなかったけど、舌に当たった感触でそれが甘栗だってわかった。 それはもちろん俺がむいた栗じゃなくて…、久保ちゃんがむいた甘栗。 俺が口に入った栗を食べてると、また久保ちゃんが新しい栗をむいてた。 「あまり爪に力入れると割れるしね…」 「もしかして、むいてくれんの?」 「うん、だから口開けて?」 「…これって、かなりハズカシクないか?」 「そういうセリフは、自分でムケるようになってから言いなね?」 「ううっ…」 なんてカンジに言われて納得したけど…。 久保ちゃんに食わせてもらわなくっても、皿かなんかの上にむいた栗置いてもらえばいいんだって気づいた。でもその時はもう半分くらいなくなってて…。 それにちょっとだけ食わせてもらうのも悪くないなぁなんて思ったから、結局何も言わなかった。 「うーん、なんとなくコドモ育ててる親鳥の気分かも…」 「勝手にコドモにすんなっ!」 「ま、コドモじゃないのは、よーくわかってるけどね?」 「…何の話してんだよっ」 買い物に行ったら、一人じゃなくて二人分の買い物をしよう。 それは二人分のモノがいるからっていうんじゃなくて…。 一緒に暮らしてる大切なヒトのこと考えてるってことで…。 そういうのがたぶん二人暮しってヤツだから…。 おかえりなさいと言ってくれるヒトのために、二人分の荷物を持ってその重さをカンジよう。 |