ケンカはしたくてするワケじゃないけど、一緒に暮らしてて毎日顔を合わせてたりすると、どうしてもそういうことになったりする。 特にケンカする理由がなくてもケンカになったりするから…。 やっぱり人間ってイキモノは、二人以上いればどうしてもケンカするものなのかもしれなかった。 「久保ちゃんは、大体っ、いちいちうるさすぎんだよっ!」 「そうでもないと思うケド?」 「そんなコトあるに決まってんだろっ!」 「じゃ、もういいよ返さなくて」 「ムカツクんだよっ、そーいう言い方っ!」 いつもはあんなにウルサイくらい喋るのに、ケンカすると途端に静かになる。 ついさっきケンカしたばかりだから、時任はそばに寄るなってオーラを俺に向かって出してた。 けど、いくら寄るなって言われても時任のそばから離れたいと思ったことなんかなくて…。 だからどうしてもケンカしてるって気分には、いつもなれなかった。 でも時任はそれが気に入らないらしくて、そういう気分になれないのは俺が時任のこと何もわかろうしてないからだって怒鳴られたことがある。 けど俺は今だってケンカなんかしたくなくて、早く時任が機嫌直して振り返ってくれないかって思ってるだけで…。 それがなんでわかろうとしてないなんて言われなきゃならないか、ホントに全然わからなかった。 今日、久しぶりに久保ちゃんとケンカした。 ケンカしたワケは、近くにあるコンビニの店員に賞味期限ギリギリのケーキもらって帰ったからなんだけど…。そういうことは別にめずらしくなくて、俺以外の客がいない時とかにいつも同じバイトのヤツがくれたりしてた。 けど、金払ってるワケじゃなくてタダでもらってんのに、久保ちゃんはいつもダメって言う。 だからそれで言い合いになったりすんだけど、結局、いつも折れんのは久保ちゃんだった。 もらったモノ返して来いって久保ちゃんがうるさく言ってきたから、俺はかなりムカついてる。 でもたぶん久保ちゃんはちっとも怒ってないし、言うこときかない俺にムカついたりもしてない。 俺の方が間違ってるって思ってても、もういいよって言って…。 いつもそこで久保ちゃんのケンカはおしまいだった。 やっぱ一緒に暮らしてたらケンカの一つや二つはするけど、それってぜんぜん意味がないってワケじゃなくて…。 わかって欲しいことがあるから、するんじゃないかって思う。 だから久保ちゃんにもういいってそんな簡単にあきらめられると、俺には何もわかって欲しいとか思ってくれてないって気がした。 「もうダメって言わないから…、機嫌直してくれる?」 「・・・・・・・・」 「時任?」 「久保ちゃんのバーカっ」 だってさ…、マジで久保ちゃんとケンカなんかしたいワケなんかねぇじゃんっ。 だからケンカした分だけ、今度はしたくてもケンカなんかできないように久保ちゃんのコトわかりたいのに…。 久保ちゃんは本気でケンカしてくれない、何も言ってくれない。 そんなんだったらケンカする意味なんて、なくなっちまうじゃんか…。 「じゃあさ、久保ちゃんは俺が今度もらってきた時はホントに何も言わねぇの?」 「言わないよ」 「なんで?」 「時任とケンカしたくないから」 「でも、俺がもらってくんのがイヤなんだろ? なのになんで簡単にあきらめんの? ちゃんとダメだったワケ教えてくれたら、やめるかもしんないのに…」 「どうしてもダメって…、そこまで止める権利なんてないから、だから言わない」 ワケを言えって時任は言うけど、自分の考えとかそういうのを押し付ける権利なんて俺にはない。 だから、時任がコンビニでモノもらってくるのをダメだってホントは言えないから…。 やっぱりもういいって言うしかない。 時任は時任だし、俺は俺だし…、それは仕方ないんじゃないかって思う。 一緒に暮らしてても別々の人間だし、ケンカしてるのがその証拠で…、だからしょうがない。 あきらめるしかないから…。 「久保ちゃん…」 「うん?」 「なんで権利ないとかって、そういう言い方すんの?」 「ないものはないって言うしかないでしょ?」 「・・・・・やっぱ俺のコトなんかどうでもいいんだ」 「どうしてそうなるの?」 「だって、俺が何したって止めてくんないってことじゃんかっ。権利とかなんとか言って、結局、俺のコト突き放してんのは久保ちゃんだろ?」 「…時任」 「もういいっ! 今からココ出てくから…、権利ないんだったら止めんなよっ! そこで一生そこでぼーっと突っ立ってろっ!」 時任はそう言ってから俺を睨みつけて、ホントに出て行こうとしている。 でも、時任が自分の意思で出てくって言ったんだから…、やっぱりホントにぼーっと突っ立ってるしかなくて…。 たぶんこのままサヨナラなのかなぁって思った。 一緒にいたいけど、時任が俺といたくないっていうなら仕方ない。 けど、そう思った瞬間、胸がスゴク痛くなって…、そしたら勝手に身体が動いて…。 止める権利なんてないのに、俺は出て行こうとしてる時任をぎゅっと抱きしめて引き止めてた。 「権利ないけど…、もういいって、さよならって言ってあげられない」 「・・・・・・・」 「…ゴメンね」 「なんであやまんの? ホントに止めてくんなかったら…、どうしようかって思った…」 「時任」 「権利とかってそんなの関係ないじゃん…。好きだから一緒にいたいって思ってて、わかりたいって思ってて…。だから、それだけでいいんじゃねぇの? それだけで十分じゃんっ」 どうしても離れたくないから、もういいなんて言えなかった。 時任の決めたことに口を挟む権利なんてないのに、どうしてもダメだった。 好きだからって理由ですべてが許されるワケじゃないけど…。 こうやって時任を抱きしめていたかった…。 権利なんて何も持ってなくても…、一緒にいたかった。 「なんでもらってくんのがダメなのか、ホントの理由って何?」 そう聞かれてホントのこと言ったら、時任はもらって来なくなった。 なんでかって理由聞いた時任が、俺のことバカだって笑ってはいたけどね。 「あのバイトの店員、時任のコト好きだからくれてんだと思うんだけど?」 「はぁ?あいつ男だぜ?」 「気づいてないかもしれないけど、いつも時任ばかり見てるし」 「それってマジなのか?」 「うん、だからもらって欲しくない」 「もしかして、ヤキモチ?」 「もしかしなくても、ヤキモチ」 バイトのヤツが俺のこと好きかどうかなんてわかんなかったけど、久保ちゃんがイヤだっていうならやめようって思った。 久保ちゃんがヤキモチ焼いてて、それだけでやめる理由は十分だから…。 「あんなヤツにモノもらったくらいで、好きになんかなんねぇっつーのっ」 「お前って、餌付けに弱いし…」 「え、餌付けって、人をドウブツあつかいにすんなっ」 「だって、ネコでしょ?」 「誰がネコだっ!」 ケンカなんてしたくないけど、ケンカしたらした分だけ抱きしめ合いたい。 そしたらケンカした分だけの何かがわかって…。 今度からケンカしなくても良くなるかもしんないから…。 だからケンカした分だけ、好きになれるように君と抱きしめ合おう。 |