自分のするコトに理由とかワケとか、全部にいちいち考えたりはしてない。
 だから、こうやってソファーの前に座って新聞読んでた久保ちゃんの背中に自分の背中くっつけて座った理由も考えたりはしてなかった。
 ただソコに久保ちゃんの背中があったから、そうしてみたくなっただけ…。
 何もしないで久保ちゃんの背中に寄りかかってボーっとしてたら、久保ちゃんがそのままの姿勢で話しかけてきた。

 「もしかして、寝てる?」
 「…起きてる」
 「声は眠そうだけど?」
 「眠いんじゃなくて、キモチいいだけ…」
 「何が?」
 「久保ちゃんの背中」

 久保ちゃんがしゃべると背中に声が振動してくるカンジがして、なんかオモシロイ。
 聞こえてくる声がオモシロくて、キモチいい…。
 だからもっと声が聞いてたくなったから、振り返って久保ちゃんの背中に抱きついてみた。
 背中ってあんまりじっと見たりとかしねぇけど、時々、後ろから見たりすると…。
 やっぱ俺よか広いなぁって思って…、そんでちょっといつもより別人に見える。
 久保ちゃんだってわかってて、でも久保ちゃんじゃないカンジ…。
 
 「なにやってんの?」
 「べっつに」
 「・・・・・・重いんだけど?」
 「どいてほしいワケ?」
 「うん」
 「だったら、どいてやんない」
 「あのねぇ…」
 「ヒマだから、なんかしゃべってろ」
 「重い、苦しい、くすぐったい」
 「なんだ、ソレ」
 「今の心境」
 「…じゃあさ、今、ほかになに思ってんだよ?」
 「うーん、そうねぇ。どうせなら前から抱きついて欲しいなぁ、とか?」
 「それだけ?」
 「エッチしたい」
 「却下っ!」
 
 いつもみたいに話して、色々話して…。
 けど、背中から抱きついてるから、久保ちゃんの顔は全然見えない。
 伝わってくる振動は相変わらず気持ちいいケド、ちょっとだけ物足りない気分になった。
 それがなんでなのかって、そんなのはわかんねぇのに…。
 なんて思ってっと、久保ちゃんが強引に振り返って腕の中に俺の身体を捕まえた。

 「抱きしめてくれてんのはうれしいけど、この方が落ちつくかも?」
 「カオが見えねぇから?」
 「抱きしめられても、抱き返せないから…」
 「それって、問題?」
 「好きって言われても、好きって言い返せないみたいなモンでしょ?」
 
 そう言って久保ちゃんにぎゅっと抱きしめられたから、負けないようにぎゅっと抱きしめ返した。
 まるで競争するみたいに…、抱きしめてキスして…。
 そんなコトしてる理由もワケもやっぱ考えたりとかしてねぇけど、たぶんちゃんとわかってるんだろうなって思う。
 背中を見て別人みたく見えるのは…、 自分のコト見てくれてない気がするからで…。
 振り返ってくれないと抱きしめてもらえないって知ってて、それを寂しいってカンジてるからで…。

 だから振り返ってほしくて、背中に抱きつきたくなるのかもしんない。

 理由なんてワケなんて…、わかってしまえば簡単で単純なのかもだけど…。
 でもカンジてることとか、思ってることのワケや理由なんて…。
 きっといくら考えたって、わかるのはほんの少しで…。
 だから何も自分の思い通りになんかならない、きっと…。

 突然ワケも理由もなく、好きのキモチが始まるみたいに…。


 「好きって言ってくれたら、離してあげるよ?」
 「…ぜったいに言ってやんねぇ」
 
                            『背中』 2002.10.3更新

                        短編TOP