ゲームしてたら、横から久保ちゃんの腕が伸びてきて抱きしめられた。
 ったく、何も言わねぇで突然すんなっての!
 久保ちゃんはぜんっぜんヘーキかもしんねぇけど、そーいうコトいきなりされっとなんかやっぱビックリするし…。
 ココロの準備っつーか、そういうのがないとドキドキが止まんなくなるから…。
 
 「どしたの?」
 「なにが?」
 「ん〜、いつもと違っておとなしいから」
 「…俺様だっておとなしい時くらいあるっ」
 「それはそうかもだけど、なんとなく物足りないかなぁって」
 「なんじゃそりゃっ」
 
 何が物足りないだっ、ヒトで遊んでんじゃねぇっ!
 そのせいで、いっつもバカみたいに赤くなったりしてる俺の身になれっつーのっ!
 
 「キスしていい?」
 「んなコト聞くなっ!」
 「聞かなくていいってことは、していいってこと?」
 「…いい加減にしねぇと殴るぞっ」

 ほんっと、久保ちゃんてわかんねぇ。
 突然、こーいうコトしてくるかと思うと、今みたいに聞いてきたりする。
 抱きしめていい?
 キスしていい?
 抱いてもいいか…って、じっと俺が返事するの待ってたり。
 返事なんかしてやんねぇって思ったりするけど、抱きしめて欲しくて、キスして欲しくて…。
 抱いて欲しくて、そのキモチに逆らえなくて結局いつもうなづいてた。
 けどそーいう時、久保ちゃんがちょっとだけ嫌いになる。
 だってさ、俺がうなづかなきゃそのままってカンジじゃんかっ。
 俺がすんなって言ったら、久保ちゃんは何もしねぇのかなぁって…。

 だったら、なんかすっげぇイヤかも。

 いきなり抱きしめられてドキドキして…。
 キスしていいかって聞かれて、ちょっとだけ胸が苦しくなる…。
 ドキドキと苦しいカンジが一緒になって、自分のキモチがわかんない。
 なんかヘンじゃん…。
 好きなのに…、それだけ想ってられないなんて…。

 「なに考えてんの?」
 「べつにっ」
 「なんか怒ってる?」
 「怒ってねぇっ!」
 
 ホントは怒ってなかったのに、怒ってるって聞かれたら怒ってるカンジの声が出た。
 なんで、こんな怒ったみたいな声でしゃべってんだろ?
 久保ちゃんは悪くねぇのに…、俺ってなに怒ってんの?
 抱きしめられてドキドキしてたはずなのに、今は苦しいのだけが残ってる。
 苦しすぎて…、好きなのに、好きって言えない。

 「俺のコト嫌いになった?」
 「・・・・・・」
 
 …違うに決まってんじゃんっ。
 そう思ってんのに何も言えなかった。
 喉に声がつまって、何も出てこなかった。
 好きだって言えなかった。

 「時任が俺のコト嫌いでも、俺は時任のことが好きだから」
 「・・・・・・・」
 「だから、離してあげられないから…、ゴメンね」
 「・・・・・・」

 久保ちゃんはヘーキな顔して抱きしめて、簡単に好きだって言う。
 俺はいつも思ってても言えねぇのに、当たり前の顔して…。
 そういう久保ちゃんのコトが好きで…、嫌いだった。
 簡単に好きだって言う久保ちゃんが、スゴク嫌いだった。

 久保ちゃんが好き…、大好き。

 そう素直に言えたら…、ぜんぶ好きで一杯になって…。
 そしたら、好きだけ想っていられる?
 久保ちゃんが言う好きの重さを、軽いなんて想わずにいられんの?
 
 「好きだよ、時任」

 好きなヒトに、好きだって言われて抱きしめられて、キスされて…。
 なのにココロがユラユラしてる。
 まるで、片想いしてるみたいに…。
 
 久保ちゃんのコトが好きで、久保ちゃんも俺のコトが好きで…。
 なのになぜか、今はまだ片想いだった。

                            『片想い』 2002.8.25更新

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