そうすることにどんなワケがあるかとか。
 そうしたいってことにどんな理由があるかなんて、そんなのどうでもいいって思う時がある。
 そんなコト考えたりする余裕なんてないから、ワケなんか知らない。

 「どしたの?」

 テレビ見てた久保ちゃんにいきなりキスしたら、そう言われた。
 けど、なんかそれに答えんのもメンドくて…。
 ちょっと驚いてる久保ちゃんの唇に、もっかいキスした。
 いつも久保ちゃんがしてるのマネして、何もかも奪うみたいに舌を割り込ませて、逃げられないように深く深く…。
 いつもされてるコトするのって、なんかヘンな感じ。
 こうしたらさ、いっつも俺がカンジテルみたいにカンジたりすんのかな?
 
 「ん…」
 「…久保ちゃん」
 
 長いのか短いのかわかんないキスやめて、久保ちゃんの顔みたら、久保ちゃんも俺の顔を見てた。
 ちょっとだけいつもと違うカンジの瞳で…。
 ちゃんと欲情してくれてる?
 ちゃんとキスしたいって、抱きたいって思ってくれてる?
 おざなりじゃなくて…ホンキで…。
 一緒にいるから好きになって、したくなったんじゃなくてさ。
 好きだから一緒にいたくて、したくなったって…。
 そんなの聞く必要なんかねぇし、久保ちゃんも言う必要ないって思ってるかもだけど。
 
 ・・・・・時々、スゴク怖くなる。
 
 きっと何言われても、ココロがゆらゆらして…。
 何度も何度も好きって言われても、それでも胸の奥がキリキリしてくる。
 だからそういうのを壊したくて、めちゃくちゃになってく。
 いつもは絶対しないのに、自分から服脱いで久保ちゃんにすがって…。
 首筋とか耳元とか、色んなトコにキスした。
 
 抱いてくれってコトバで言うかわりに…。

 「なに、あせってんの?」
 「・・・・・」
 「今日はやめにしない?」
 「…なんで?」
 「そんな顔してる時任は抱けないないから」

 自分がどんな顔してんのかなんて知らない。
 けど、抱けないって言われたことがすごくショックで…。
 脱いだ服をぎゅっと腕の中に抱きしめるみたいにして、久保ちゃんから顔をそむけた。
 服脱いであんなコトしたから、あきれられたんだろうな…。
 だってさ…、インランっぽいし…、バカっぽいし…。

 もう、ヤバいじゃん…、俺。
 
 久保ちゃんに見ていられたくなくて、こんな俺を見られたくなくて、とりあえずリビングから出でこうと思った。
 これ以上何か言われたら、たぶんダメなカンジだから…。
 何か言われる前にいなくなろうって…。
 やったコト後悔はしたけど。
 でもあの時は、どしても抱かれたかった…、久保ちゃんに。
 なのに…。

 「ゴメン、久保ちゃん」

 それだけやっと言って、久保ちゃんのそばから離れようとする。
 けど、抱けないって言ったくせに、久保ちゃんが俺の腕をつかんでた。
 
 「放せっ!!」
 「放さない」
 「なんで? 俺のコト抱けないって言ったじゃんっ!」
 「言ったよ?」
 「だったら放せよっ!」
 
 放せって叫んで、久保ちゃんの腹を思い切り蹴った。
 久保ちゃんはさすがに苦しそうにうなってたけど、それでも腕を放さない。
 そしたら、俺の腕つかんでる久保ちゃんの手ぇ見てたら、なんかたまらなくなってきた。
 なんでこんなコトしてんだろう…。
 どうして、久保ちゃんのコト蹴ったりしなきゃなんないのかって…。

 好きなのに、スゴク好きなのにどうしてだろうって…。

 「…痛い」
 「うん、俺も痛い」
 「痛いのに、なんで放さねぇの?」
 「放したくないから、どんなに痛くても…」
 「・・・・・・・」
 「抱けないのは、時任が泣きそうで痛そうだったから…。だから、欲情だけで時任を犯したくなかった」
 「…ホントはバカみたいなコトしてて、あきれてたんだろ?」
 「俺がどれくらいガマンして言ったか、教えてあげよっか?」
 「うわっ、バカっ! ドコさわらせんだよっ!」
 「この方がわかりやすいかなぁって」
 「・・・・・・・っ!」
 「わかった?」
 「…う…ん」

 久保ちゃんがちゃんと抱きたいって思っててくれたことがわかって、ちょっとだけホッとした。
 なんかホッとしたけど、まだ何かがユラユラしてて、やっぱり胸の奥がギリギリする。
 久保ちゃんがいてさ、そばにいてくれてさ…。
 それなのに、なんでこんなのカンジなきゃなんねぇの?

 「なんでそんなに緊張してんの?」
 「わかんねぇよ、そんなの…」
 「時任」
 「なに?」
 「抱きしめててあげるから、ゆっくり身体の力抜いて…」
 「けど…」
 「いいから」

 久保ちゃんの腕がゆっくり俺のコト抱きしめてきて…。
 胸の中でギリギリしていたものがぎゅっと押し出されるみたいなカンジがした。
 そのカンジが息がつまりそうなくらい苦しくて…、久保ちゃんの背中にしがみつく。
 そしたら久保ちゃんが、頭を撫でてくれた。

 「ずっとこうしてるから、抱きしめててあげるから」
 「・・・・・・・・」
 「時任も俺のコト抱きしめててね」
 「くぼちゃ…」
 
 久保ちゃんに抱きしめられながら、久保ちゃんを抱きしめながら、理由とかワケとかそんなのなにもわかんないのにいつの間にか泣いてた…。
 ずっとずっと…、知らない内に好きだってココロの中で叫びながら…。

                            『衝動』 2002.8.14更新

                        短編TOP