「さわんなっつってんだろっ!!」

 時任の肩に触れようとした手が、パシッと手ひどく叩き落された。
 う〜ん、叩き落された理由知ってても、ちょっとねぇ?
 あんまりのような気がするんですけど?

 「そばに来んなっ」
 「そんなに俺が嫌いなの?」
 「好きとか嫌いとか、そんなんじゃねぇっつーの!」
 「ちょっとくらいガマンしなよ?」
 「ぜぇってぇ、嫌だっ!」
 
 実は朝からクーラーが故障してたりするんだけど。
 時任はさわるだけじゃなくて、俺が半径一メートル内に入ることも許してくれない。
 体温は俺よか、時任のが高いのに…。
 
 「…時任」
 「な、なんだよっ」
 「時任の希望通り離れててあげるよ」
 「えっ?」
 「だから時任も、俺に近よらないでくんない?」
 「く、久保ちゃん?」
 「室内別居ってことでヨロシク」
 「ちょっ、ちょっと待てっ!」
 「じゃあね、時任」

 一度言ったからには俺からは絶対に行かないよ、時任。
 仲直りしたいなら、自分からおいでね?
 なーんて言ってても、きっとガマンできなくなるのは俺の方だってわかってる。
 こういう時って、ホント振り回されてるカンジするけど、べつにイヤってワケじゃない。
 
 俺ってやっぱ…、かなり重症だったりする?



 クーラーがなぜか全部故障しちまってて暑くてたまんなかったから、伸びてくる久保ちゃんの手を叩き落した。
 だってしょうがねぇじゃんっ!
 イヤだっつっても聞いてくんないし、何回言ってもダメだし…。
 けど、室内別居って久保ちゃんに言われた瞬間、暑さが一気に吹っ飛んだ。
 別居ってなんだよっ、別居ってっ!!
 
 「久保ちゃんっ!!」

 久保ちゃんのコト呼んだけど無視られた。
 バタンってドアの閉まる音したから、外には出なかったみてぇだけど…。
 今、ベッドのある部屋って蒸し風呂状態じゃなかったっけ?
 そんなトコにずっといたら、もしかしたらヤバくねぇ?
 暑くなったら出てくるかもと思って、廊下でドアが開くの待ってたけどやっぱ開かない。
 窓開けてたら平気かもしんねぇけど、なんか開けてない気ぃする。

 ドンドンドンっ!!
 「久保ちゃんっ!!」

 ドア叩きまくって久保ちゃん呼んだけど、やっぱ返事がない。
 倒れてたりとかしてそうで、なんか心配になってきた。
 久保ちゃんて自分のコトに無頓着だし、無関心だし…。
 やっぱダメ…、このままにしとけねぇし、しときたくない。
 
 俺は行くトコねぇからここにいるんじゃなくて、久保ちゃんがいるからココにいるだけだから。
 だから、別居とかして平気なワケねぇじゃんか…。




 ドアの外からと時任の声がする。
 俺のこと呼んでるけど、返事はしてやらない。
 別居中だから…。
 けど、時任の声が俺のコト呼んでるのを聞くとどうしても行きたくなる。
 ドアを開けて、時任を抱きしめたくなる。
 別居中なんてホントに口だけだから、時任と離れてて平気だなんて強がりは言えない。
 ふれていたいのも、キスしたいのも…。
 何もかもが時任だけだから…。

 「入るぞ、久保ちゃん…」

 別居って言ったのに、時任が部屋の中に入ってくる。
 俺はベッドに寝た状態のまま、時任がそばまで歩いてくるのを待った。
 時任からこちらに歩いてくるのを…。
 そしたら時任は、ベッドの脇に立ったままで俺の顔をのぞき込んできた。
 
 「この部屋暑すぎ…」
 「別居するって言ったっしょ?」
 「…ホンキで言ってんのか?」
 「そうだけど?」
 
 あくまでも別居するって言うと、時任は鋭い目付きで俺のコト睨みつけてきた。
 何かを伝えようとしているみたいなカンジの強い瞳で…。
 時任らしい感情をあらわにした綺麗な瞳で…。
 俺がその瞳をじっと見つめ返していると、ふいに時任の顔が俺の顔の上に降りてきた。
 
 「触れたら暑いよ?」
 「…知ってる」
 「修理のヒト呼んでるから」
 「それも知ってるってのっ」
 
 重なった唇はやっぱり熱い。
 けど、時任も俺も離れたりしないで、深く激しくキスした。
 夏の大気よりも暑いこの部屋で…。

 「これ以上やったら、暑くて死ぬかも」
 「汗まみれで?」
 「…なんかすっげぇイヤな死に方じゃんかっ」
 「そう?」
 
 時任も俺もすでに額に汗がにじんでた。
 けど、一度火の付いた身体はこの暑さでも止められない。
 時任の肌をすべっていく汗が、俺の付けた跡の上を行くのをじっと見つめながら…。
 いつもより熱い時任の身体を抱いた。
 まるで、灼熱の恋に焼かれていくみたいに…。

 ピンボーン…。

 「…あっ、く、くぼちゃん」
 「もうちょっと、夏を満喫してからね」
 「くっ、あぁ…、もうじゅうぶん…してるって…」
 
 結局、その日はクーラーがなおんなかった。
 久保ちゃんのせいで、修理のヒトが帰っちまったから。
 ・・・・・・・・やっぱ、クーラー直るまで別居しよっかなぁ?
 そしたら今度は久保ちゃんが、俺のトコまで来んだからなっ!!
                            『故障中』 2002.8.2更新

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