ミーン、ミンミンミン…ジー…。

 どこから飛んで来たのかしんないけど、ベランダの網戸のトコにセミがいて、さっきからうるさく鳴いてる。
 部屋ん中はキンキンにクーラー効いてっけど、なんかセミの声聞いてると暑い気ぃすんだよなぁ。
 なんでよりにもよって俺らの部屋にくんだよっ!
 よそで鳴けってのっ!
 そう思って俺がセミを追い払いにベランダに行こうとしたら、久保ちゃんに腕引っ張られた。

 「な、なんだよっ?」
 「やめときなよ」
 「やめときなって、何が?」
 「セミ、追い払うつもりだよね?」
 「ずっと鳴いてて、うるせぇじゃんかっ」
 「夏なんてすぐ終わるし、セミだってすぐに鳴かなくなるから。今くらい鳴かせといてあげない?」
 
 ミーン、ミンミン……。

 「べつにいいけど…」
 
 相変わらずセミはうるさく鳴いてて…、やっぱ暑いって思った。
 けど、久保ちゃんがやめとけって言ったからベランダに行くのをやめる。
 なんでやめろって言ったのかわかんないけど、久保ちゃんが言ったみたいに夏が終わったらセミはいなくなるのは確かで…。
 そう思ったら、鳴いててもいいような気ぃしたけど。
 なぜか、ちょっとだけさみしくなった…。

 「セミはさ…」
 「うん?」
 「夏が終わるコト知ってんのかな?」
 「…さあ、どうだろうね?」
 
 セミはあんなに鳴いてたってただの虫だし、知ってるかなんて聞く方が間違ってんのかもしんない。
 けど、久保ちゃんがすぐに終わるからなんて言ったせいで、突然、夏が短くなったみたいにカンジしたから聞いてみたくなった。

 終わりを知ってんのかって…。

 久保ちゃんは俺の横で新聞読んでたけど、なんとなくじっとセミの声を聞いてるみたいに見えた。
 もしかしたら、さっきからずっと聞いてたのかも…。
 だから俺の腕をつかんだのかもしれなかった。
 
 ミーン、ミンミンミン…ジー…。

 「なにしてんの?」
 
 そう言ったのを無視して、自分でもなーにやってんだろうなぁって思ったりしながら、新聞読んでる久保ちゃんの後ろに回って両手で耳をふさぐ。
 そしたら、久保ちゃんは耳ふさいでる俺の手に自分の手を重ねてきた。
 だから手ぇはずされんのかって思ってたのに、その予想はなぜかハズレで…。
 久保ちゃんはそのままの状態でじっとしてた。
 
 「久保ちゃん?」
 「・・・・・・・・」
 「やっぱ聞こえてねぇの?」
 「・・・・・・・」
 
 話しかけても返事なかったけど、ホントに聞こえてねぇのかどうかはわかんなかった。
 だから、久保ちゃんの背中に頭くっつけてしゃべった。
 聞こえてても聞こえてなくっても、どっちでもいいって気分で…。
 網戸に張り付いて鳴いてるセミみたいに…。

 「何もかも全部に期限ついてんのかもしんねぇけど、いつか終わりが来るのかもだけど…、そういうの考えたりすんなよ、久保ちゃん。」
 「・・・・・・・・」
 「そういうことばっか考えてっと、夏が短くなるみたいに何もかも短くなっちまうかもしんねぇじゃんか…。そういうの俺はイヤだし、絶対にダメだかんなっ! ゆるしてやんねぇからなっ!!」
 「・・・・・・・・」
 「絶対にダメ…、だかんな」
 「・・・・・・・時任」
 「久保ちゃん?」
 「晩メシの買い出しに行こっか?」
 
 そう言った久保ちゃんがどんな顔してたのか、ホントに俺の言ったコトとか聞こえてなかったのか、ぜんぜんわかんなかった。
 けどなんとなく、聞こえてたような気ぃした。
 あんなにうるさかったセミが…、気づかない内にどっかにいなくなっちまってたから…。

 「今日はどしたの?」
 「いいからっ、気にすんなっ」
 「俺はうれしいから、べつにいいけどね」
 「…やっぱやめる」
 「今さらそれはないっしょ?」

 近くのコンビニまで歩きながら、暑い日差しの中で手ぇつなぐと汗がにじんでベタベタになる。
 そんなのはわかってて、当たり前で…。
 それでも今日は手を離さないでいたかった。

 耳について離れないセミの鳴き声がしなくなるまで…。

                            『蝉』 2002.7.31更新

                        短編TOP