風呂から上がって頭ふいてたら、久保ちゃんがあまり飲みたくねぇカンジの名前のジュース飲んでた。
 新製品なんだろうケド、なんであんなの飲んだりすんのかわかんねぇ。
 ぜってぇマズイもんな、アレ。
 なーんて思ってっと、ジュース飲んでる久保ちゃんの手が一瞬だけ止まった。
 あーあ、やっぱマズかってやんのっ。
 微妙に眉よってるし…。
 何もソコまでして飲まなくてもいいような気ぃするけど…。

 「久保ちゃん、風呂っ」
 「ん〜」
 「今飲んでるヤツ、うまい?」
 「いんや、マズイ」
 
 …だよなぁ、やっぱ。
 風呂上りに久保ちゃんをなんとなく観察してたら、それに気ぃついたらしくて、久保ちゃんがジュース飲みながら横目で俺のコト見た。
 なんか、ちょっとマジなカンジの目で…。
 たぶん意識なんかしてねぇのかもしんないけど、たまに久保ちゃんは俺のコトそういう目で見てる。
 そういうカンジの目で見られた時って…。
 ちょっと、ドキドキしちまったりとかすんだけどさ。
 たぶん、そういうの気づいてねぇんだろうなって思ったら、突然、口からこぼれ落ちるみたいに言葉が出た。

 「…好き」

 出たのはたった一言だけ。
 けど、言っただけですっげぇハズい。
 全身がムズムズするカンジ。
 やっべぇ、なんか顔とか熱くなってきた気ぃする…。

 「好きって?」
 「べっつに、なんでもねぇってのっ」
 「ふーん」
 「なに納得してんだよ!」
 「なんとなく、言ったこと後悔してるみたいだし? 言われてもホンキっぽく聞こえなかったから」
 
 …確かに後悔とかしてるけど、ホンキっぽくないって言われてムカついた。
 言うつもりなくっても、思ってねぇなら言わねぇよっ!
 ウソで好きとか言うワケねぇじゃんかっ!!
 久保ちゃんのアホっ!

 「久保ちゃん」
 「なに?」
 「好き」
 「どしたの? 普段は頼んでも言ってくんないのに」
 「・・・・・ホンキで言ってんだからなっ」
 
 ここから逃げ出したい気分でそう言ったら、久保ちゃんがジュースの缶をテーブルに置いて、らしくない挑発するみたいな目つきで俺のコト見た。
 けど、口元が笑ってる。
 なんかイヤーな予感したりして…。

 「ホンキで言ってるって証拠ないよね?」
 「んなもん、ふつーねぇだろ」
 「ないならホンキだって言えないっしょ?」
 「ヘリクツ言うなっ!」
 「ヘリクツじゃなくて、ホント。言った次の瞬間、ウソになる可能性あるし」
 「次の瞬間なんか知るかっ!!」
 
 今好きだから、好きって言って…。
 それで次の瞬間が好きじゃなくなってるなんて、そんなのあるワケねえじゃん…。
 って、ホントは言いたかったりするけど、カンペキそうだってのは言えねぇかもしんない。
 次の瞬間なんかわかんねぇから…。
 けど、それはそれでいいんじゃねぇの?
 
 「好き、大好き」
 「時任?」
 「久保ちゃんが好き」

 なんかすっげぇくやしくて、久保ちゃんにホンキで言ってないみたいに言われてすっげぇショックで…。
 久保ちゃんの顔を両手でガシッとつかまえて好きって言った。
 顔を近づけて目ぇそらせないようにして…。
 次の瞬間がわかんねぇなら、今も次の瞬間も好きって言ってやるっ!

 「好きっ、すっげぇ好きっ、めちゃくちゃ好きっ!」

 好きだってバカみたいに言ってたら、なんか泣きたくなってきた。
 俺ばっか好きって言ってて…、それは俺が勝手に言ってんだからいいけど…。
 やっぱ好きって言った分だけ、好きって言われたいって思う。
 それが、ワガママで正直な好きのキモチ。
 だから好きって言われたくて、好きって叫んだりする。
 久保ちゃんにそう言われたくって…。
 
 「・・・・・・・好き」

 何度目かの好きをなぜか哀しい気分で言うと、じっと近くで俺のコト見つめてた久保ちゃんの顔が、ゆっくり俺の方に近づいてくるのがわかった。
 逃げられない距離じゃないけど、逃げたくない…。
 久保ちゃんの唇の感触が俺の唇に感じられて…、短いキスが何度も何度も降ってきて…。
 それが気持ち良くって目をぎゅっと閉じてると、キスの合間に久保ちゃんの声が聞こえた。
 
 「好きだよ、時任…。すごく、とても、どうしようもなく…」

 好きって言われて、さっきよりもドキドキがひどくなる。
 そしたら、さっきまでの哀しいキモチはどっかに行っちゃって…。
 好きってキモチでココロが一杯になる。
 他にはもう何も入らないカンジ。
 ・・・・・・コレってもしかして、好きって証拠だったりする?
 
 「好き」
 「好きだよ」
 「大好き」
 「キスしたいくらい好き」
 「すっげぇ好き」
 「抱きしめたいくらい好き」
 「めちゃくちゃ好きっ」
 「エッチしたいくらい好き」
 「こ、このスケベ親父っ!」
 「好きなヒトとエッチしたいのは、基本だと思うけど?」
 「なんの基本だっ!」
 「恋の基本」
 「不純すぎっ」
 「エッチしたいから好きなんじゃなくて、好きだからエッチしたいんだから不純じゃないっしょ?」
 「知るかっ、そんなの!」
 「言葉だけじゃ足りないから、身体で好きってキモチを伝えてあげるよ」
 「うわっ、待てっ、ストップっ!!」

 「止まらないのが恋ってモンでしょ?」

 ココロも身体も止まらなくて、なぜかいつも暴走気味で…。
 キスして抱かれて、抱きしめられて…。
 ベッドの軋む音とか、自分の上げてるカンジてる時の声とか聞きながら、好きだって身体とココロで叫んでる。
 次の瞬間なんて考えずに今だけを追いかけて…。
 好きってキモチには今しかないから、証明できるのも今しかない。
 
 だから、今を…、好きだってカンジてる今を証明しよう。
 今日が終わって、明日が今日になっても…。
 
                            『証明』 2002.7.28更新

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