「時任、ゲームやめて休けいしない?」 「…今はやめんのムリ」 「昼メシは?」 「いらない」 「ふーん」 朝からずっと、リビングにエンドレスで同じ音楽が流れてた。 流れてる音楽は時任のやってるゲームの音。 いつもは気にならないケド、今日はなぜか耳障りなカンジがした。 ただの音楽なのに雑音みたいに耳に届いて…。 まるでその音のせいで、時任に俺の声が届いてないみたいな錯覚を起こしてる。 時任と俺を隔ててる音。 時任はその音だけ聞いてるみたいに、話しかけてもろくに返事しないし…。 朝もろくに食べてないのに、昼メシもいらないって言う。 もしかして、俺ってゲームに負けちゃってるかなぁなんて思ったりしてるんですけど? 「昼メシ食わないなら、晩メシもいらないよね?」 「…うん」 「あっそう」 う〜ん、この態度はさすがにちょっと、ねぇ? 昨日買ったゲームやってっと、久保ちゃんが話しかけてきた。 今いいトコだから、話しかけんなっつーのっ! 話すのに集中したら死んじまうじゃねぇかっ!! とにかく俺は、今日中にこれクリアするって決めてんのっ! 昼メシとか食ってる場合じゃねぇんだ! とか思いつつ、話しかけてくる久保ちゃんにテキトーに返事してたら、急に左のヒザが重くなった。 な、なんだっ!? 「おやすみ、時任」 ちらりと重くなったヒザを見てみると、そこに久保ちゃんの頭が乗っかってた。 しかも、ホントに寝ちまう気らしくて目ぇ閉じてる。 お、重いっ!! 「ここで寝んなっ!」 「ぐ〜…」 「久保ちゃんっ!」 「・・・・・・・・」 「起きろって!」 「・・・・・・」 何度も起きろっつってんのに、久保ちゃんはしぶとく俺のヒザの上で寝てる。 ったく、寝るならベッドに行けってのっ! 久保ちゃん、ジャマっ!! ・・・・・・・なんて始めは思ってたんだけど、目ぇ閉じてる久保ちゃん見てたら。 ・・・・・・・久保ちゃんの顔を見てたら。 強引にヒザから頭を避けられなくなった。 まつ毛が長くて、下唇が厚くて、鼻が高い…、毎日眺めてるスゴク好きな顔。 その顔がほんのちょっとだけ、微笑んでたから…。 それがスゴクうれしくなったから、寝てる久保ちゃんをこのまま眺めてたくなった。 今日だけだかんな! 今日だけトクベツ! ごまかすみたいにココロの中でそう言って、俺は自分にかけてた毛布を久保ちゃんにかける。 すると久保ちゃんは、安心したみたいなカンジで静かな寝息を立て始めた。 自分のヒザで寝てる久保ちゃん見てっと、なんかくすぐったい。 すっげぇ照れれくさいけど、ちょっと胸の中があったかくなるカンジがした。 …おやすみ、久保ちゃん。 ちゃんと見ててやるから、安心して寝ろよ。 起こさないように注意して久保ちゃんの頭を撫でると、俺は再びゲームをし始めた。 こっちを振り向いてくれないと、どうしても振り向かせたくなった。 ゲームと張り合うなんてバカバカしいけど、結構ホンキだったりする。 抱きついたりしてあらかさまに邪魔するよりもこの方が良さそうだったから、俺は時任のヒザに頭を乗せてみた。 すると、予想してた通り時任がじゃまだって怒鳴る。 それでも俺がどかなかったから、暴れ出すかなぁって思ってたけど、しばらくすると怒鳴ってたのが静かになって…。 それから、ふわっと優しく静かに、俺の身体に毛布がかかった。 叩かれるか蹴られると思ってたから、時任の行動にちょっと驚いて、それからスゴクうれしくなる。 ホントは寝る気なんかなかったケド、時任のヒザに頭預けて、かけてくれた毛布の暖かさを感じてると本気で眠くなってきた…。 身体の力が抜けていって、ゆっくり何かに引き込まれていくカンジ…。 気持ち良すぎて、それに逆らえなくて…。 どうしようかなぁなんて思ってると、時任の手が俺の頭を撫でてきた。 ・・・・・おやすみ、時任。 ・・・・・・・ホントにホンキで…、どうしようもないくらい好きだよ…。 |