テレビの前に寝転がって、いつも見てるバラエティー番組見て笑ってたら、久保ちゃんがなんの前触れもなく突然、 「今日、女のコとキスした」 って、言った。 けど、それは全然驚くようなコトじゃなかったから、俺は「ふーん」とだけ返事して前に置いてたポッキーの箱からポッキーを一本取り出す。 ポッキーは大好きなイチゴ味だった 「こないだ買ったプリン味のポッキー、結構うまかったよなぁ」 そんなどうでもいいカンジのこと言いながらポッキーかじると、ヘンなところでポッキーが折れた。 しょうがねぇから、モグモグ口動かしてちょっと長めポッキーを食べる。 そしたら、手の方に残ってたポッキーを久保ちゃんが俺の手から直接食った。 「箱から出して食えっ」 「時任が持ってる方がうまそうだったから」 「どれも同じだっつーのっ」 さっきまでソファーにいたのに、久保ちゃんはすぐ隣で俺と同じようにテレビを見始める。 俺がもう一本ポッキーを口にくわえると、久保ちゃんは眼鏡をはずして床に置いた。 …眼鏡はずしたらテレビ見れねぇじゃん。 そう思ったけど言わないでいたら、久保ちゃんの顔が俺の顔に近づいてくる。 キスするから眼鏡はずしたんだよな、やっぱ…。 「…時任」 「なんだよっ」 「ポッキー食べるのあとにしない?」 「イヤだ、今食いてぇのっ」 俺が口にくわえたポッキーをちょっとずつかじってっと、その端を久保ちゃんがくわえた。 これって、むちゃくちゃハズカシイんじゃねぇの? ゲームとかそういうんじゃなくて、二人でやってんのって…。 俺が思わず口からポッキー離すと、ポッキーはあっという間に久保ちゃんが食っちまった。 ったく、なんのつもりだよっ。 俺が新しく箱からポッキー出そうとしたら、久保ちゃんに手をつかまれた。 「手ぇ放せっ」 「キスしてくれたら、放してあげるよ?」 そう言って俺の顔をのぞきこんできた久保ちゃんの顔見てっと、ムカムカしてくる。 俺がキスしたくないって知ってて。 その理由も知ってて…。 平気な顔して、キスしてくれたらって言うの見てたら殴りたくなってきた。 「・・・・・マジで放せ」 「なんで?」 「殴られてぇのか?」 「殴りたいなら、ガマンせずに殴りなよ」 ガツッ! 「久保ちゃんが殴れつったんだからな」 「うん」 久保ちゃんの頬は俺に殴られて赤くなってた。 殴りたくて殴ったのに、イヤなカンジのもやもやした気分しか残らない。 俺はまだポッキーの残ってる箱をぐしゃぐしゃにつぶして、久保ちゃんの頭に投げつけた。 「久保ちゃんなんか嫌いっ!嫌い嫌いっ、大嫌い!!」 嫌いだって叫びながら、ホントにホントに本気で久保ちゃんが嫌いだと思った。 女のコとキスしたの見てたの知ってて、ワザワザ言う久保ちゃんが…。 女のコとキスした唇とキスしろって言う久保ちゃんが…。 俺に自分を殴らせる久保ちゃんが、嫌いだった、本当に大嫌いだった。 こんなヤツ知るかってそう思うのに、ココロの中にある久保ちゃんへのキモチをぐちゃぐちゃにして捨てらんない。 嫌いって叫んでんのに、そう思ってんのに…。 なんで涙ばっかでてくんだろう。 「時任、ゴメンね」 「・・・・・・・」 久保ちゃんが自分からキスしたんじゃないって知ってる。 ホントはそんなの始めっから知ってる、事故みたいなもんだって。 けど、他のヤツとキスした唇とはキスしたくない。 他のヤツの感触を覚えてる唇とキスしたくねぇの。 だから、何も言わないでいて欲しかった。 他のヤツとキスしたなんて、聞きたくなかった。 見なかったコトにしたかったから…、そうしたかったから…。 「あやまったりすんなっ」 「どして?時任じゃない誰かとキスしたのに?」 「他のヤツとのキスなんかカウントすんなよ。他のヤツとのキスなんか、キスに入んないって言えっ!」 「キスはキス。してないって言ったら、ウソになるよ?」 「…ウソでもいい。俺とキスしたいなら他のヤツとなんかしてないって言えよっ!」 「時任…」 「俺はキスしたって告白なんか聞きたくねぇし、あやまってなんか欲しくなかった。なのになんで久保ちゃんは、俺に殴らせたりすんの? 好きなヤツ殴るなんてサイアクじゃん…」 久保ちゃんのことホントは殴りたくなんかなかった。 殴ったりしないで、女のコの唇なんか忘れるくらい、数えるのも面倒になるくらいキスしたかった。 嫌い、大嫌いだって言いながら、ホントは好き、大好きってココロの奥で叫んでた。 久保ちゃんにキスできないのはなんでだろう? もやもやして、イライラして…、どうしてもできなくて…。 涙が止まんない…。 「もう何も言わなくていいから、だから泣かないで」 久保ちゃんが指先で涙を拭ってくれてる。 そして、キスはしないでぎゅっと俺のコト抱きしめた。 「時任のことサイアクにしてゴメンね」 ゴメンねって、また久保ちゃんが俺にあやまってる。 悪くないのに…。 俺はあやまる久保ちゃんを見たくなくて、一度は拒んだ唇に、キスできなかった唇に、ぎゅっと胸の痛みに耐えて自分からキスした。 「時任?」 「…大嫌い」 好きだって思いながら、嫌いって言ってキスをする。 久保ちゃんは小さく繰り返してたキスを、強引に深いキスに変えてきた。 「好きって言ってくれるまで、キスやめないから…」 「久保ちゃんなんか、嫌いっ、大嫌いっ」 何度も何度もあきるくらいキスして、久保ちゃん。 何も考えられなくなるくらい…。 |