朝、目が覚めたら、足と腕んところを二つ蚊に刺されてた。 正直言って、かなりかゆい…。 っていうか、めちゃくちゃかゆいんだってのっ!!!! くっそぉぉぉっ、なんで二つもさされてんだよっ! 「久保ちゃんっ!!!」 「ん〜?」 まだ起きたばっかだから、俺も久保ちゃんもベッドん中にいる。 だから、隣で寝たままセッタ吹かしてる久保ちゃんを呼んだけど、久保ちゃんはまだ眼鏡もかけてない状態でぼ〜っとしてる。 …相変わらず寝起き悪すぎ。 けど、俺の言ったことは聞こえていたみたいで、ぼんやりとした声が返事した。 「そんな大声で呼ばなくても聞こえてるケド?」 「二つも蚊に刺されたっ!」 「ふーん」 「ふーんってなんだよっ! ヒトが苦しんでんのにっ!!」 「苦しいんじゃなくて、かゆいだけでしょ?」 「かゆいから苦しんでんじゃねぇかっ」 「あっそう」 「…俺様がかゆくて狂い死んたら、久保ちゃんのせいだかんなっ!」 「そうなの?」 「そうなのっ!」 べつに蚊に刺されたのは久保ちゃんのせいじゃねぇけど…。 とりあえず久保ちゃんのせいにしとく。 だってさ、ヒトが苦しんでる横で、のんきにセッタ吸ってんのってムカツクじゃんかっ! なんて思いつつ久保ちゃんを睨んでると、まだぼんやりしてるカンジだったけど、久保ちゃんは天井から視線を俺の方に向けた。 「そんなにかゆいの?」 「かゆいっつったら、かゆいに決まってんだろっ!!」 「だったら、ちょっとさされたトコ見せてくれる?」 久保ちゃんに言われて腕と足の刺されたトコ見せると、久保ちゃんは赤くなった部分をちょっと眺めてから、そこの上に爪で×印の跡をつけた。 なんなんだよっ、コレっ!! 「…なんでバツなんかつけんの?」 「ん〜、なんとなく」 「なんとなくでつけんなっ!!」 「かゆみがなくなった気しない?」 「こんなんでするかっ!!」 「おかしいなぁ」 「真剣に悩むなっつーのっ!!」 爪でバツつけたからって、かゆみがなくなるワケねぇじゃんかっ!! ったくっ、良くわかんねぇことすんなってのっ!! う〜、ますますかゆくなったような気ぃする。 ぐわぁぁぁっ!!もうダメっ!! 「そんなに掻いたら血が出るよ?」 「かゆいんだから、しかたねぇだろっ」 「…しょうがないなぁ」 爪でがーっとさされたトコかいてると、久保ちゃんがベッドから起き上がって部屋を出てった。 しょうがないって言われても、こんだけかゆかったらガマンできねぇつーのっ!! あっけど、なんかちょっと痛いかも…。 くそぉっ、蚊見つけたら、ぶっ潰してやるっ!! なんて思ってると、久保ちゃんが部屋に戻って来た。 右手に薬、左手に熱が出た時に使うアイスノン。 久保ちゃんは蚊にさされたところに薬を塗ると、その上にアイスノンを乗せた。 「どう?ちょっとはかゆくなくなったでしょ?」 「…なんとなくマシになってきたかも」 「こうしててあげるから、かかないでガマンしなさいね?」 「うん」 さっき久保ちゃんのせいなんて言ったのは、撤回。 かまれて赤くなったトコがひんやりとして気持ち良くて、かゆいのもなおってきた。 …なんかこうやってっとホッとする。 けど、それはかゆくなくなったってだけじゃなくて、なんとなく…。 「時任は体温高いから、刺されちゃうんだよねぇ」 「久保ちゃんは刺されてねぇの?」 「ないけど?」 「ずっりぃのっ」 「しょうがないっしょ?」 「くっそぉ、俺も体温低けりゃよかったっ」 久保ちゃんみたく体温低かったら刺されるなかったかもなぁって思ってると、久保ちゃんが俺の手を引っ張った。そしたら、俺の身体がすっぽり久保ちゃんの腕の中におさまる。 それはいつもより、もっと優しくて柔らかいカンジの抱きしめ方だった。 「時任の体温はこのままがいいなぁ」 「夏は暑いし、蚊に刺されるから良くねぇじゃん」 「刺されたら、またこうしててあげるから」 「久保ちゃんだって、こうやってっと暑いんじゃねぇの?」 「暑くないよ?」 「ウソばっかっ」 「ウソじゃないよ? 時任にあっためてもらわないと、俺は夏でも凍っちゃうから…」 「久保ちゃん?」 「だから、このままでいてね?」 「・・・・・・うん」 言ってる意味は良くわかんなかったけど、久保ちゃんがこのままがいいって言うなら、このままでいいかもって思った。 蚊に刺されたって、すぐなおるからヘーき。 寒い冬でも、暑い夏でも、久保ちゃんが凍らないですむなら…。 こうやって久保ちゃんに体温伝えられんなら、やっぱその方がいいに決まってる。 久保ちゃんの体温と、俺の体温。 体温が違うから、抱きしめられた時に気持ちいいのかもしんないって思った。 |