マンションの部屋は…、今、居るリビングは狭くないと思う。 少なくとも、こんな風にピッタリくっつかなきゃならないほどには…、 うん・・・、どう見ても狭くはない。 だけど、時任は身体のどこか一部分、肩とか肘とか腕とか、とにかくどこかをくっつけるようにして俺の隣に座る。ご飯とゲームの時はベツだけど、大概の場合はそうだって気づいたのは、ごく最近のコト。 なんとなく、唐突にアレ、そういえばって気づいて…、 気のせいかもって観察してたら、ホントにそうだった。 でも、いつからそうだったのかって聞かれると良くわからない。 それにたぶん時任だけじゃなくて、俺も同じかもしれない。 ふと、気づくと当たり前みたいに、いつの間にかくっついてる。 だから、すぐには気づかなかった。 今もソファーに座る俺の膝に横から頭を軽く預ける感じで、カーペットの上に座り込んでる時任はどうか知らないけど…、ホントにいつの間にかだった。 「なぁ…」 「ん〜?」 「アレって、この前、久保ちゃんが買ってたヤツ?」 「あぁ、チョコバナナ味」 「ソレってウマかった? ウマかったら、俺も喰う」 「・・・・ほどほど?」 「じゃ、やめた」 「そう?」 テレビのCМ見ながら、ぼんやりと話しかけてくるのに答えながら、膝にある頭をよしよしと軽く優しく撫でてやる。 すると、嫌がる様子もなく、おとなしく撫でられて…、眠くなってきたのかアクビを一つ。その様子がどことなくオカシクテ、可愛くて、小さく笑うと下から上目づかいに睨まれた。 「・・・っ、なに笑ってんだよ」 「ベツに笑ってないよ」 「ウソだ、今、ぜっったい笑っただろっ」 「笑ってないよ」 「うーそーだぁぁっ」 上目づかいで睨むなんて、逆効果なのにねぇ…。 そう思いつつ、ちょっちイジワル加減に笑ったの認めないでいると、それで攻撃でもしてるつもりなのか、額をぐりぐりと膝に擦り付けてくる。その様子はまさに猫そのものってカンジで、どうしよっかなぁ…と不自然に伸びた手を誤魔化すように、こっちも頭をぐりぐりと撫でてみた。 「ちょっ、くすぐってぇよっ」 「ソレはこっちのセリフ」 くすぐったいのは膝なのか、それともベツのトコなのか…、 二人でくすぐったい、くすぐってぇな…とか言い合いながら、くすぐったそうに目を細めた。 それでも離れないでいるのは、くすぐったいのが平気だからっていうより…、 気持ち良いから…かなと、時任に触れられながら、時任に触れながら思う。 くすぐったいのも、伝わってくる体温もぜんぶ…、 うん・・・、気持ちいい。 ソレを確認するように、髪を撫でてた手で頬を撫でる。 すると、突然、時任の頬がほんのりと赤くなった。 「・・・・なんかさ、落ち着くよね」 「って、な、何が?」 「ん? こうしてると落ちつくなぁって…」 「こうしてるってっ、ちょっ、いきなりドコ触ってんだよ!」 「ドコって…、ドコだと思う?」 「自分で触っといて、なんで疑問形なんだっ! それに落ち着くって、何の話しだよ!」 「うん、だから、お前に触ってると落ち着くなぁってハナシ」 「とかいいつつ、セクハラすんなっっ、エロ親父―っ!」 「いいじゃない。触って減るモンじゃないし?」 「よ、よくねぇよっ! つか、コレで落ち着けるかぁぁっっ!!」 「アレ、まだ春まで少しあるけど、もしかして発情期?」 「春とかハツジョウキとかっ、ワケわかんねぇしっっ!」 「だって、さっきからネコみたいだったから」 「だーかーらっ、ことあるゴトに俺をネコ扱いすんなっつってんだろっ!!」 「脇をこちょこちょこちょ…」 「うにゃあぁぁーーー…っっ!!!」 俺にくっついてる時任は、ひなたぼっこしてるネコみたいで…、 だったら、俺もたぶん似たようなモンなんだろう。 少しでもちょっとでもくっついてたら…、あったかくて気持ちイイ…。 けど、何でもドコでも良いワケじゃなくて、それはきっと本能が知ってる。 そんなモノにすり寄ってくのは、きっと、ドウブツの習性。 あぁ、だからかと納得する頃には、くすぐってくすぐられて笑い疲れて…、 ソファーに寝転がった俺の腹の上に、時任のアタマ。 ケダモノになりかけながらも、ケモノのままで触れるぬくもりに微睡む。 そうしながら、視線を向けた先、ベランダの窓から見える空を眺めた後、大きなアクビをしながら、空も世界もこんなに広いのにね…と、時任を抱きしめる自分の両腕と俺を抱きしめる時任の両腕を見つめて…、ゆっくりと目を閉じた。 お互いの腕の中にあるぬくもりを、その中のちっぽけな箱庭のような楽園を…、 二人で守るように抱きしめながら…。 |
『箱庭』 2011.2.8更新 短編TOP |