とある日の夜…、その事件は起こった。 それはあるモノを、赤の他人のように引き裂く事件だった。 俺は今も、その事件を思い出すたびに叫ばずにはいられない。 アレは・・・・、そう、初めから赤の他人だったと…。 そんな事件の起こった現場は、マンションのリビングでもキッチンでもなく、脱衣場だった。 「・・・・・コレって、三枚で千円だったヤツだよな」 そう呟いた俺が今いる場所は、リビングでもキッチンでも寝室でもなく、脱衣場。 つまり、風呂入ってバスルームから出てきたトコ…なんだけどっ! 実は風呂に入る前に、あってはならないミスを犯したコトに気づいた俺は、思わず三枚千円をじーっと見つめちまった! 柄はどこでもありがちーなカンジで、シマじゃねぇけど、フツーっ。 なんだけど、問題は色だっ、色っ! 俺がじーっと見つめる三枚千円は青っぽい色のはずだったのにっ、なぜか黒っぽいヤツだった! ちがーうっっ、俺のトランクスは黒じゃなぁぁぁいっ!!! そうっ、三枚千円はアジの開きでもシャツでもなくて、トランクスっ! ちょっと前に俺が買ってきたヤツで、三枚は多いからって黒のヤツは久保ちゃんに履けよとかつって、やったんだったーっ! つーまーりっっ、これは久保ちゃんの黒トランクス! しかもっ、風呂あがったばっかは暑いからって、持って来てんのはシャツとトランクスだけだったりっ、うわ、もうサイアクっっ! 自分の取りに行けば済むだけのハナシって言えば、そうなんだけどっっ。 今、俺のトランクスのある場所には、久保ちゃんいるしっ! バスタオル巻けばとか思うけど、なんかマヌケだし、ぜってぇツッコミ入るしっ! 「と、とりあえず履ちまうか…、見られたりよかマシだもんな」 そんな風に呟いてると入れられんのは、ツッコミだけじゃないかもしんない気もしてきた俺は身の安全を図るために、そうだっ、とりあえず履いてさりげなーくっ、自分の取りに行こう。 うんうん、そうだっ、そーしよっ! ・・・・とか、10秒で決めて黒トランクスを掴んでみたっ!! がっ、しかーしっ!! いざ、履こうとすると耳元で聞き覚えのある声がして、背筋をぞくぞくするモンがっ!! 「ねぇ…、さっきからマッパで俺のトランクス握りしめて、なに赤くなってんの?」 ぎゃあぁぁぁぁーーっ!見られたぁぁぁ…っっ!! 衝撃のご対面をしたのは、俺と息子っっ。 見下ろす視線に、全身が熱くなるっ。 とっさにバスタオルで隠したけど、手遅れだったぁぁっ! オーマイガーっっっ!! 「な、なっ、なに見てんだよっっっ、久保ちゃんのヘンタイっ!ていうか、いつの間に入って来たんだよっ!」 「んー…、お前が俺のトランクスをじーっと見つめてた辺り? いつも早いのになかなか上がって来ないからさ、ちょっちのぞきに来たんだけど・・・・、相変わらずカワイイよね」 「…って、ドコ見て言ってんだっ!このヘンタイーーっっ!!」 ばきぃぃいぃぃーーっっ!!! カワイくないっっ、断じてカワイなぁぁぁいっ!!! バスタオルでガードしながら、ココロの中で絶叫するっ!! しかしっ、久保ちゃんのトランクスを見つめた上に握りしめたのは、紛れもない事実っ。 このままでは俺の方がヘンタイにされちまうと思った俺は、それを回避するためにトランクスを間違えて、とりあえず履こうとしてたコトを久保ちゃんに話した。 話しながら、そうだっ、良く考えりゃ同じ三枚千円だし洗ってあるし、そんな迷うコトなかったじゃんっとか思ったけど…、思っただけでダメだっっ。久保ちゃんが履いてるヤツとか思うだけでダメだっ、久保ちゃんじゃない他のヤツとはなんとなく違うイミでダメだった…っ! だ、だって…、なんか久保ちゃんのだって思うと妙な気分に・・・・、 とかって、まるでヘンタイみたいじゃんかあぁぁっっ!! トランクス一つでヘンタイの階段を登りかけた俺は、あわてて頭を左右に振る。 消えろっ、トランクスっっ! 悪霊退散っっじゃなくてっ、ヘンタイ退散っっ!! だけど、そんな俺の肩を元気づけようとするかのように、久保ちゃんが優しくポンッと叩く。そして、のほほんと微笑みながら・・・・、履いてるズボンを少し降ろした。 「そんな悩まなくっても、いいんじゃない? ホラ、俺も履いてるし?」 「履いてるし…って、ま・さ・か」 「たまに間違えるんだけど、履きかえるの面倒だしね。お前のだし、問題ないっしょ?」 「・・・って、問題ねぇワケねえだろっっ! 同じ釜の飯を食ってもっ、同じベッドで寝てもっっ、トランクスとパンツは赤の他人だぁぁぁっっ!」 「えー…、パンツも仲良くしようよ?」 「するかっっ、ヘンタイっ!!今度から混ざらないように、べつべつに洗うかんなっ! 干すトコもべつべつ…っっ!!」 「・・・・・思春期の娘を持つと、苦労するよね」 「誰が娘だっっ、誰がっっっ!!」 持ってんのは娘じゃなくて、息子だあぁぁぁっ!! そんな悲劇的な事件から、俺と久保ちゃんのトランクスは赤の他人になった。 三枚千円だけどっ、赤の他人っっ!!ぜったいに悲劇は繰り返さないっっ!! ふと、そんな悲劇を思い返しながら、俺は「トランクスは他人」と呟きつつ、ベッドの中でウンウンとうなづく。すると、久保ちゃんが「他はこんなにナカヨシなのにね…」と、クスリと小さく笑った。 |
『とある事件』 2011.2.1更新 短編TOP |