・・・・・何かが落ちてくる。 ぽつりぽつりと落ちてきて、視界も悪い。 止めどなく、止めどなく、降り落ちてきて止まらない。 それはとても雨に似ていた。 空から降り落ちてくる…、雨…。 それは天候で天気で、誰かの意思にも感情にも関係がない。 ただ水蒸気が集まって雲になって、粒になり落ちてくるだけの自然現象。 だから、たぶん…、コレもそう。 自然現象ではないけれど、生理現象には該当する。 寝起き、欠伸、玉ねぎを切った…、何かが目に染みた。 いずれかの何か…。 目から落ちる塩気を含んだ水は、俺にとってはそういうモノだった。 「・・・・・・なんか、怖い夢でも見たのか?」 ふいに横から声がする。 だけど、あり得ない言葉に、ゆるく首を横に振った。 「ちょっち目に染みたのかも?」 「…って、何が?」 「んー…、なんだろう? 欠伸でもしたかな?」 「自分のコトなのに、なんで疑問系?」 自分のコトなのに…、そう言われて、胸の中で同じコトバを繰り返した。 自分のコト、自分ゴト…。 だけど、何度繰り返してもわからない。 自分のコトって言われると、確かにそうだけど、わからない。 わからない、知らない…、コレは雨みたいなモノだから…。 悩むようなコトじゃないし、どうせすぐに止んで乾く。 でも、そんな雨に今度はコトバじゃなくて、指先が伸びてきて…、 拭うようにたどるように触れられて、くすぐったいよと小さく笑って軽く身をよじって…、 けれど・・・・、その瞬間、俺はあまりのくすぐったさに目を開けた。 すでに開いているはずの目を・・・・、開けてしまった。 開いてるから、二度も開くコトなんて出来ないはずの目を…。 すると、そこにはさっき見ていたのと同じ天井が…、同じようにぼやけていて…、 止めどめなく落ちるモノが、頬を伝っていた。 ソレを感じながら、横に伸ばした手は…、何にも触れるコトなく…、 止めどなく落ちるモノと同じように、パタリと白いシーツの上に落ちた。 「・・・・・とても怖い夢を見たよ、時任」 とてもとても怖い夢…。 だから、早く目を覚まさなきゃ…ね、雨が止めどなく降ってるってのに…、 欠伸もできないし、玉ねぎ切ってカレーも作れない…。 目を二度も開くなんて出来っこないし、コレは夢だから…、 うん…、きっと、もう一度目を閉じれば良いだけ…。 ゆっくりゆっくりと目を閉じて、それから目を開ける頃にはきっと止んで乾いてる。 悩むようなコトじゃない。 伸ばした手で冷たいシーツを撫でながら、俺はそう思い目を閉じた。 ・・・・・・・怖い夢から、目を覚ますために。 |