時任の視線はいつでも真っ直ぐで、その瞳は何があってもそらされることがない。 いつも生き生きしてて、綺麗で、潔くて、そんな瞳が好きだとそう思う。 けど、そんな瞳が俺以外の何かを、誰かを、見つめている時、俺はとてもたまらない気持ちになる。 俺に向けられるその瞳が、他の誰かにも向けられている事実が苦しかった。 「久保ちゃん」 「なに?」 「さっきから、俺のコトずっと見てるだろ?」 「うん」 「なんで?」 「さあ、なんでかなぁ?」 好きだからずっと見てたかったなんて言ったら、お前はどうするだろうね? やっぱり、いつもみたいに冗談だって思うのかな? 冗談だって、ふざけてる振りして、時任に触れて触って、そんなことしか出来ない自分に苦笑する。 俺って、こーいうヤツだったっけ? それすらも良くわからなくて、ただそういう自分が前より変わってしまったことだけを自覚した。 けど、それは不快なことじゃない。 時任が隣にいて、傍にいて、そうしたいと願ってる自分のことをわかっていないと、きっと時任を引き止めて置くことができないから。 だから、ちゃんと気づけて良かったと思ってる。 「時任」 「うわっ、いきなり何すんだよ」 「愛情確認」 「なんだそりゃ」 肩に触れて、腕をからめて、抱きしめて。 唇が触れそうなくらい近くに顔を寄せて、キスしたがってる自分をすんでの所で押さえる。 こういうのは、かなり自虐的。 時任は男とはキスしたくないって知ってるのに、あえてこういうコトしちゃうんだよね。 これ以上はダメだって距離、測るみたいに…。 「顔赤いよ、時任」 「そ、そんなことねぇよっ」 「誰かがココに入ってくるまで、こうしてよっか?」 「見られたら、ヘンだって思われるだろっ」 この距離が今の精一杯。 これ以上はもう一歩も進めない。 時任がこちらに手を伸ばしてくれないと、俺はその身体とココロを抱き寄せることができないから。 「今日は天気いいね」 「ごまかすなっての」 「そんなにイヤ?」 「…べつにイヤじゃないけど」 壊せない関係。 踏み込めない距離。 俺がすべてを壊してしまう前に気づいてよ。 ねぇ、時任? |