あったかいってコトは、シアワセってコトなのかもしれない。 そんな風に想ったのは、ふとした瞬間ってヤツで…、 その前までは、特に何も考えたり、想ったりなんかしてなかった。 だけど、両手の中に包み込むように持ったマグカップの中、茶色に揺れてるミルクココアを眺めて、それを少しずつ飲んでたら…、そんなコトバが…、 良くわからないシアワセって単語が、飲んだココアのぬくもりと一緒に胸の奥に染みてくのをカンジてた。 だから、なんでだろ、どうしてだろうって、首をかしげてココアを飲んで…、 マグカップを包み込んだ手に、ほんのちょっとだけ力を込める。 でも、自分でそう想ったクセに良くわからなくて、うーん…と少しだけ唸ると、ココア入りのマグカップを両手で包み込んでる俺を、後ろから両腕で抱え込んでる久保ちゃんが、なに?…って聞いてきた。 「ベツになんでもねぇけど…、ココアってあったかいよなぁってソレだけ。まぁ、お湯沸かして入れてんだし、当り前なんだけどさ」 「そう」 「うん」 「なら、今、俺も同じコト想ってたから、何気にシンクロ状態かも?」 「…って、久保ちゃんはココアとかコーヒーとか、何も飲んでねぇじゃんか」 俺がそう言うと、久保ちゃんは俺の肩にあごを乗っける。 それから、俺を抱えてる腕をぎゅって、少し力を込めた。 すると、耳に久保ちゃんの息がかかって、くすぐったくて首を縮める。 くすぐったいせいで力の入ってない声で、ココアがこぼれるからやめろって俺が笑うと、久保ちゃんもそのまんまの姿勢で小さく笑った。 「確かに時任みたく、マグカップ持ってないけど、マグカップ持ってる時任をこうしてるのってさ。なんとなく、似てるデショ?」 「似てるって、俺が久保ちゃんのマグカップってコトか?」 「マグカップより、あったかいけどね」 「それはねぇだろ。コレって沸かしてるから、温度的に…」 「うん、まぁ…、それはそうかもだけどね。俺にとっては、何よりもあったかいし」 「俺が?」 そう聞いたのに、久保ちゃんは答えない。 だけど、後ろから回されてる腕が、その答えを俺に教えてくれる。 ソファーじゃなくて、カーペットに座ってココアを飲んでから、読んでた新聞を置いた久保ちゃんが俺の後ろに回ってきて、そんでもって今の状態になって…、 やられた時は、ちょ、ちょっちハズいっていうか、なんかそんなカンジでうわってなった。でも、暴れるとココアが零れるし…とか、よっかかるとイスで楽みたいだし…とか、そんなコトを頭ん中に並べた。 でも、久保ちゃんにあったかいって言われて、声には出さずにココロん中で、あぁ…って思わず呟く。ココアも確かにあったたかったけど、マグカップを見つめながら想ったコトだけど、カンジてたぬくもりはソレだけじゃなかった。 あったかいってコトは、それだけで…。 シアワセって何かって聞かれても、きっと、何だろって聞き返す。 だけど、こういうカンジなんだろうって、俺をマグカップにしてる久保ちゃんには、今なら伝えられる…、伝わってる気がした。 ココアよりもカーペットよりも、陽だまりよりもあったかい…、 そういうぬくもりは、久保ちゃんに触れてる部分からカンジられて…、 まるで、ソコから言葉にできないモノが、言葉にするならシアワセって単語になりそうな何かが生まれてくる。抱きしめられて、すぐに何者かに預金口座を凍結されて、使えるのが手持ちしか無くなったコト。それから…、もしかしたら数日中に、ココも引き払わなくきゃならない可能性が出てきたコトも聞かされたけど…、 それでもぬくもりから、シアワセは生まれてくる。 久保ちゃんが居て、俺が居て…、ちょっと欲張って一杯のココアがあったら…、 きっと、俺はそのぬくもりをカンジながら、久保ちゃんの言うコタツのネコみたいに目を細めちまうんだろう。 あったかくて甘くて、そんなシアワセの中で…。 久保ちゃんとココアで引っ越し準備完了だなって、俺が笑えば…、 じゃ、俺は時任とセッタで準備完了って、久保ちゃんが笑う。 こんな時なのに切迫感も緊張感のカケラもなくって、マグカップの中のココアからも、そんなカンジの白い湯気が立ちのぼってた。 行く先も行く宛ても無いのに、白い湯気越しに見る世界は、まるで終わりなんて無いみたいに見えて…。どこまでもどこまでも続いてく明日を掴むように…、俺を抱きしめてる腕をマグカップを持ってない方の手で掴む。 そして、後ろを見るように首を曲げたら、唇に濡れた感触が降ってきた。 「・・・・甘い」 「こ、ココア飲んでんだから、当然だろっっ」 「うん…、けど、飲んでなくても甘いかもね。何度も何度もシたくなるくらい…、きっと」 「シたくなるって、さ、さっきの…?」 「・・・・・さぁ?」 あたたかいとカンジる。 あったかいと…、生まれてくる…。 久保ちゃん限定で、二人でいるならどこでも…、いつまでも…、 それは、誰の目にどんな風に見えてても目を細めたくなる…、抱きしめたくなる。 大切で大好きでたまらない…、そんな…、 そんな・・・・、二人きりの世界だった。 |