最初は、自分のひざをぎゅーっと抱きしめてた。
 けど、べつにすねてるとかじゃなくて、その姿勢が楽だったってだけ。
 ぼんやりテレビ見ながら、あー…、あのケーキうまそうとか、ラーメン食いたいとか思ってただけだし…。まぁ、しいて言えば、ちょっちヒマって言えばヒマだったかも?
 ウチにいる時はゲームしてるコトが多いけど、この前、買ったヤツはすでにクリア済。ゲーセンに行くには、外、寒すぎっ。
 今、見てるデパ地下特集の前にしてた天気予報で、明日は雪とか言ってたんだよなぁ。そのせいかもしんねぇけど、なんかすっげ風が吹いてて、時々、窓がガタガタ音する。
 そんな日に、ゲーセン行こう…なーんて、思うわきゃねぇ。
 だから、朝メシ件昼メシを食ってから、ひざを抱えてテレビ見てた。
 そんでもって、同じ部屋っつか、リビングに居る久保ちゃんは何してるかっつーと、さっきから俺と同じでテレビ見てる。少し前まで、も一つの部屋でなんかパソコンとかいじってたみたいだけど、飽きちまったのか用事が済んだのか、軽くアクビしながらリビングに来たかと思うと、俺の隣にストンと座った。
 そんでもって座ってから、また二度目のアクビ。
 だから、アクビすんならソファーよかベッドに行けよ…とか思わなくもなかったけど、俺もつられてアクビとかしちまったから、そう言って突っ込むのをやめた。

 「・・・今日の晩メシは?」
 「ん〜…、寒いし冷たくないモノ?」
 「すんげー大雑把な答え。つか、冷やし素麺とか作りやがったら、てめぇを凍らせるっ」
 「じゃ、冷やし中華とか…」
 「冷やしって付いてる時点で同じだろ…っていうか、今、売ってんのかソレ」
 「さぁ?」

 テレビ見ながらした会話は、そんくらい。
 それきり、二人で黙りこくってテレビ見てる。
 けど、ペツに気まずいとか、そーいうのは全然ない。むしろ、なんかマジで眠くなってくるっていうか、のんびりしてるっていうか、こういう時間は好きだった。
 見てるテレビもすごく面白いってワケじゃねぇけど、こういう時は肩とかだけじゃなくて、全身から力が抜けてくカンジ。そのせいか力を抜きすぎた俺は、ひざを抱えたままで横倒しになりかける。
 なんか、身体のバランスが取れなくなってグラグラして…、
 思わずひざを抱えてた腕を離すと、その腕で近くにあるモノにぎゅっと抱きついた。
 そしたら、ぎゅっと抱きしめたモノが、同じように俺をぎゅっと抱きしめてきて…、
 何も言わないで抱きついた俺を、何も言わないで抱きしめる。
 すると、嫌いなタバコの匂いがしてきて…、
 だけど、不思議と抱きしめた腕を離したいとは思わなかった。
 ひざを抱える姿勢が楽だったみたいに、今の姿勢はなんつーか…、あったかくて気持ちいい。だから、今日は寒いしとかココロん中で呟きながら、アクビをまた一つしてテレビの音声だけを聞いていた。
 そしたら、デパ地下特集がCMを挟んで、ニュースになって…、
 次にニュースがドラマの再放送になって…、
 でも、相変わらず俺も久保ちゃんも何も言わない。
 何も言わないで俺は久保ちゃんを、久保ちゃんは俺を抱きしめてる。
 その姿勢と状態が気持ち良いのは変わんねぇけど、時間が経つにつれて…、なんか抱きしめた腕のわずかな隙間から疑問が湧いて出てきた。

 アレ・・・、なんかヘンじゃね?

 グラグラして思わず抱きついちまったのは俺だから、俺を抱きしめてる久保ちゃんにアクビみたいにツッコミ入れそびれたっつーか…、気持ち良いし、まいっかとか思ってたのもあるけど…。無言で抱きしめ合ってるって、な、なんかヤバくねぇか?
 って思ってても、何がヤバいのかわかんねぇんだけど、さ。
 と、とりあえず、時間を確認しようと視線だけを動かして時計を見てハンパじゃなく驚いたっ。ものすんごく驚いたっ!!
 
  1時間も経ってんじゃねぇかぁぁーーっ!!!!!
 
 無言で抱きしめ合って一時間っ!!!
 えぇぇぇー…!!って、自分で驚いてどうする!?
 しかも、なんか驚いたせいか、心臓の鼓動がおかしくなってきた。
 バクバクするし、こ、呼吸もなんか苦しくなってきたし…っ、
 ぎゃーっと思って顔をあげると、久保ちゃんと目があった。

 「お前が離したら、離そうと思ってたんだけど…」
 「お、俺だって、久保ちゃんが離してたら一時間もしてなかったっ」

 一時間も抱きしめ合ってて、そういうのって…、なんかいつもとは違うカンジで、そうだって気付いた途端に心臓が破裂しそうになる。だ、だけど、心臓がドキドキバクバクしてても、なんか腕が離せない。
 きっと、一時間もしてたから、腕がしびれてんだっっ。
 そうに決まってるっっ!
 
 「だ、だったら、久保ちゃんが離せよ。そしたら、俺も離す」
 「イヤ」
 「イヤって、このままじゃトイレにも行けねぇだろっ」
 「なら、お前が離したら、俺も離すよ」
 「・・・・・・・とか、言ってる間に、マジでトイレ行きたくなった」
 「前言撤回…。お前が離したら、俺は離さない。んで、お前が離さなかったら、俺は離す」
 「…って、それでどうやってトイレ行くんだよっ!!!」
 「さぁね?けど、せっかく温めて孵したのに、離すなんてもったいないデショ?」
 「温めて孵したって、俺はタマゴかなんかかっ!?」
 「ま、似たようなモン。温め3分じゃなくて、温め1時間のだけどね」

 「ぎゃーーっ、孵ったのに更に温めんなっ!! それよかトイレぇぇぇっ!!!」

 久保ちゃんが何を温めたのか何が孵ったのかは、結局、殴り倒してトイレに直行した後も教えてくんなかった。くそぉっ、マジで間一髪でヤバかったしっ、この借りはいつかキッチリ返してやるっ!
 けど、そう思いながらも、なかなか借りを返せなかったのは…、
 それから後もドキドキして、それが止まらなくなっちまったから…。
 なのに、前みたいにテレビを見る時にひざを抱えるコトは少なくなった。
 ひざを抱える代わりに、ドキドキするモノをいつも抱えてる…、抱きしめてる。
 こうしてたら、慣れてドキドキすんのが治るかもとか思ったけど、ますます酷くなって…。でも、なぜかソレが離せなくなった。

 「どうしたら、治るんだ…っ、コレっ」
 「治さなくていいんでない。せっかく孵したし、これから育つんだし?」
 「育つ?」

 そう久保ちゃんに聞き返すと、耳元で好きだよって囁かれて…、
 俺は自分の中に孵ったモノをカンジながら、餌を与えられたヒナみたいに、また、カオが熱くなるのをカンジながら口をパクパクさせた。
 それは、囁かれた言葉への答えが、たった一つしかないって…、
 しかも、ソレがドキドキして言えないって…、気付いたからだった。

                            『孵化』 2010.3.10更新

                        短編TOP