「・・・・・なんっだこりゃっっ!!!」


 そう叫んだ俺様が踏んでるのが犬のフン…とかだったら、確かにアンラッキーかもしんねぇけど、まぁ…、そんなコトあると言えばある。
 誰でも人生のウチ、一度くらいは犬のフンを踏む。
 犬のフンじゃなけば、猫のフンとか馬のフンとか、とにかく一度は踏む!
 ・・・・・・・たぶん。
 けど、今の俺が踏んでるのは、犬のフンなんて生やさしいモンじゃなかった。
 もちろん、落ちている確率がものすっごく低いにも関わらず、誰もが踏んだら滑るって思ってるバナナの皮じゃない。つーか、無敵の俺様だったら、バナナの皮くらいじゃ意地でも転ばねぇし、転んでたまるかってぇのっ。

 ・・・・て、そんなコトはとりあえず置いといてっ!!!

 とにかく、今の状況を…っ、この足元にあるモノをなんとかしなきゃならないっ!
 でも、あまりのショックに、俺の足は動かないっっ!
 足どころかカラダも動かないぃぃ…っ!!


 ぎゃあぁぁぁっ…っっ!!!


 心の中でめいいっぱい叫びながら、俺はこの不幸の始まりを…、
 アンラッキーな一日を振り返ってみる。
 ・・・・・・・心なしか遠い目で。
 すると、始めに今日の朝、目が覚めた瞬間に見た光景が目蓋の裏に浮かんだ。
 明け方までゲームしてた俺が目覚めたのは、いつものようにお昼近く。
 ぼんやりと薄目を開けると、そこには当たり前のように久保ちゃんがいて俺を見てた。昼メシどうするって、たぶん起きる頃合を見計らって聞きに来たんだと思うけど、久保ちゃんは寝起きの俺のカオじゃなくて…、もっと下を…、
 もっと下の・・・・、俺の意思に反して先に起き上がってた部分を見て…っ!

 「・・・・オハヨ」
 「って、一体、どこにアイサツしてんだよっ、このドヘンタイっ!!!!!」

 ヘンタイを速攻で蹴り飛ばしてトイレに駆け込んだけど…、見られたっ。
 よりにもよって、久保ちゃんに見られたっっ。
 うわぁぁ…っ、もうマジ最低っ!!!!!!
 そのあまりのショックに衝撃に、頭の中でガーンとかベタな効果音が鳴る。
 そう思えば、それが俺のアンラッキーの始まりだったっっ!
 ううう、誰に言ってんのかわかんねぇけど、とりあえず言っとくけど…っ!
 断じて、ヘンな夢とか見たからじゃねぇからなっっ!!!
 ご、誤解すんなよっ!!!
 アレは男のやむを得ない…、じ、事情ってヤツなだけだっっ!!
 ・・・・そんなワケだから、とりあえずコレは忘れよう速攻でっ!

 削除、削除…。
 
 そんでもって、久保ちゃんのカオを見ないようにしながら昼メシをくった俺は、一人で出かけるコトにした。朝の出来事を早く忘れるためにも、とりあえずゲーセンにでも行って、パーッと気晴らしすっかって思ったんだ…けど…っ、

 ・・・・・・・サイフ忘れた。

 うわぁぁーっ、もうマジ最悪っ!!!!
 ゲーセンにたどり着いて、ゲーム台に金入れる段階になって気づくなんてアリかっ!? 途中で気づけよっ、途中でっ!!!
 そう自分でココロの中で自分にツッコミを入れたけど、そんなのを入れたトコロで俺のポケットに金やサイフが湧いて出てくるワケもねぇっ。だから、今度はツッコミじゃなくて苦情を、ココロの中で久保ちゃんに言った。
 
 ・・・・・・今度から、エロ親父って呼んでやる。

 あ、コレって苦情じゃなかったけど…、まぁいいや。
 苦情でもなんでも、アンラッキーの始まりが久保ちゃんで、久保ちゃんがドヘンタイのエロ親父なのは、ほぼ決定っ! 決定の前にほぼってついてんのは、まぁ…、残り1パーセントくらいは、エロくないトコロもあるかもなぁって、俺様のホトケゴコロってヤツ。
 だけど、そんなホトケゴコロを出しても、俺様のアンラッキーは終らない。

 くそぉっ、俺が一体何をしたっ!!!

 そんなカンジで続く、次のアンラッキーは人込みの中を歩いてる時に起こった。
 俺がはぁあぁ〜…っとため息をつきながら歩いてると、前から歩いてきたコドモとすれ違った瞬間に…、こう…、持ってたアイスがべたぁ〜っと俺のお気に入りのパーカーに…っ!!! うわっ、もうあり得るけど、やっぱあり得ねぇ…っっ!!
 あまりのアンラッキー続きに、俺は混乱して両手で頭を抱える。
 そして、何すんだよ!…って怒鳴りかけたけど、ウルウルとした涙目で見上げられて…、止めた。アイスが付いたのは確かにムカツクけど、そんな目でごめんなちゃい…とか言われたら、怒るに怒れねぇだろっ。
 あぁ…ったく、もうっ、しょーがねぇなぁ…っ!
 
 「ベツにコレくらい洗えば落ちるし、ダイジョウブだから、そんなカオすんな。もうあやまらなくていいし、許してやっから、今度から気をつけんだぞ?」
 「うん」
 「ほら、あっちから来てんの、お前の親だろ? 早く行けよ」
 「うん、ありがとう、お兄ちゃんっ」

 ベタベタするパーカを着て、笑顔でバイバイと手を振る。
 そしたら、親っぽいヤツが俺の方を疑うみたいな目つきで見たけど、俺は何もしてねぇ…つーか、された方だっつーのっ。でも、そーいう目で見られても、パーカーがベタベタでも、あのコがさ…、泣かなくて良かったよな。
 相変わらずアンラッキーだけど、お兄ちゃんって呼ばれて笑顔で手を振ってくれてるのを見るのは、ちょっとだけラッキーな気がする。だから、コレで朝から続いてるアンラッキーも終りだろうな…って思いかけたけど・・・、

 俺サマが甘かった…っ!!!!!!

 コレくらいで、エロ親父がかけたアンラッキーの呪いが解けるはずもなかった!!
 そうだ、これはただのアンラッキーじゃないっ。
 こんなに続くんだから、呪いだっ、呪い! ぜってぇっ、そうだっ!
 そんなカンジでアンラッキーに呪われた俺は、フラフラと来た道を戻り。
 ようやく、マンションに帰りついたんだけど、401号室の前に立って気づいた。
 そう、自分がサイフだけじゃなくて・・・・っ、

 ウチの鍵もケータイも、何も持ってないコトに…っっ!!!

 思い出してみれば、確か…、出かける前にエロ親父がバイトに行くから、鍵忘れるなとか言ってたような気がする。けど、俺はとにかく早くウチから出たくて…でないと、カオとか色んなトコから火が出そうで、ムシって玄関を飛び出した…、
 …んだけど、はぁ〜…、こんなコトならムシらなきゃ良かった。
 こればっかは、自業自得だよなぁ…。
 ・・・・・・・・・。
 とりあえず、久保ちゃんが帰ってくるまで待つしかねぇか…。
 自業自得な俺は、ドアの横に腰を下ろし座り込む。そうして、ベタベタになったパーカを見て、軽く息を吐いてから目を閉じた。
 あーあ…、早く帰って来ねぇかな…。
 そんで、今度は昼ん時みたいじゃなくて、ちゃんとカオ見てメシくって…、
 けど、やっぱさすがに、久保ちゃんも怒ってっかなぁ…。
 蹴りとか見事に、脇腹入ってたし…。
 なーんて、考えながら帰りを待ちつつ…、およそ一時間。
 ようやく、俺の耳に久保ちゃんの声が聞こえてきた…けど…、
 それは・・・、なぜか…っ、

 部屋の外からじゃなくて、部屋の中からだったあぁぁぁ…っ!!!

 「・・・・・・お前、そんなトコで何やってんの?」
 「…って、そういう久保ちゃんこそ、なんで部屋の中から出てきてんだよっ!?」
 「何でって言われても…、部屋に居たから?」
 「いつから? バイトは!?」
 「あー…、バイトは鵠さんから連絡があって、お客サンの都合とかで今日はナシ。だから、最初から居たんだけど」
 「・・・・・・最初から、居た? んで、どっっこにも出かけてねぇの?」
 「うん、ソファーで本読んでたし」
 「・・・・・・・・・・・」
 「…で、お前は?」
 「〜〜〜っ!!!」


 俺サマ、アンラッキィィイィィィィーーーっ!!!!!


 頭を抱えながら、ココロの中でそう叫ぶっ。
 うわぁぁぁ…っ、もうマジでっ!?
 一度くらいチャイム鳴らせよっ、俺…っ!!!
 久保ちゃんはずっと部屋に居たのに、居ないと思ってたから部屋の前で一時間。でも、久保ちゃんにはホントのコトはぜってぇっ言わないっ。
 言わないで、朝のがムカついてるから、中に入んなかったってウソついた。
 そしたら、久保ちゃんはそう…とだけ言って、バスルームへ消える。
 ・・・・・・もしかしなくても、なんか朝以上に気まずい雰囲気かも?
 けど、今はなんかもう、気力もやる気ゼロ。
 アンラッキーにパワーを吸い取られたカンジで、俺はリビングに入るとべったりのパーカーを脱いで、ぐったりとソファーに寝転がる。でも、バスルームに消えた久保ちゃんのコトが気になって、ふて寝も出来ない…、くそ…っ。
 だから、寝転がってたソファーから起き上がって、コーヒーでも入れようかと思ってキッチンに行った。
 そう…、そしてソコで最初に戻り、俺は踏んでしまったナニかに固まるっ!!!
 グシャッていうか、思い出したくない感触と一緒に、俺の履いたスリッパの下でつぶれてる何かは・・・、実はまだ少しだけ動いてた。

 うわっ、マジであり得ねぇえぇぇぇ…っ!!!!!

 あまりのコトに涙目になった俺は、ようやくバスルームから戻って来た久保ちゃんを見つめるっ。そしてっ、うわっ、ちょーど良かったとばかりに、足元のヤツをどうにかしてくれと、頼むつもりだったっ!
 地獄にホトケじゃなくて、キッチンにエロ親父っ!
 けど、救いを求めようとした俺に向かって、久保ちゃんの腕が伸びてきて…、
 なぜか・・・、ぎゅーっと抱きしめられる。

 ・・・・・・は? え…?

 いきなりでリアクションも取れず、俺様呆然。
 な、なんだっ、一体?!
 …って思ってると、耳元でゴメンねと囁く、久保ちゃんの声がした。

 「今朝はゴメンね。そんなにイヤだったなんて、思わなかったから…」

 久保ちゃんに抱きしめられながら、久保ちゃんの声を聞いてると足元の気持ち悪さがちょっとだけ薄らいでくる。そして、今度は朝みたいに、見られた時みたいに、カオが熱くなってくるのをカンジた…。
 久保ちゃんは本気で、ゴメンってあやまってくれてる。
 ハズかしくて思わず蹴飛ばしちまったし、エロ親父にもしちまったけど…、ホントはアレはなんつーか、不可抗力みたいなモンだし…、
 一緒に暮らしてっと…、仕方ねぇっつーか…、

 俺の方こそ・・・、ゴメンだよな…。

 けど、そんなコトを考えながら、久保ちゃんにぎゅーっとされてると、何となく前に同じようなコトがあった気がして…、うーんと唸る。
 ・・・・・いつだったっけっていうか、そんなコトあったっけ?
 今までの記憶を辿ってみても、久保ちゃんにこんな風にされたコトはない。
 そして、もちろん俺もしたコトない。
 でも…、ふいに息がかかるくらい近くで視線が合って・・・・、 
 いつもと違う…、妙な空気が俺らの間に漂って…っ、
 俺はそれがいつあったのか、いつのコトだったのかを思い出した。

 ・・・・・・・そうだ、夢だっ。

 俺が昨日見た夢。
 今まで忘れてたし、夢なんて見てなかったと思ったけど…、
 夢の中で俺は…、く、久保ちゃんと・・・っ!!!
 そう思った瞬間、夢が現実になって、俺はカオが熱くなるのをカンジた。
 うわあぁぁっ、信じらんねぇっつーか、なんでいきなりこんなになってんだっ、俺ら!? けど、久保ちゃんに抱きしめられんのも、キスされんのも…、イヤじゃないし…、
 気持ち悪いっていうより、気持ちいいっていうか…っっ、

 こ、コレってアンラッキー?! それともラッキー!?

 でも、そのどっちだったとしてもキスする前には、す、好きとか、それくらい言えよな…っとか思いつつも、俺も何も言えない…。
 今は・・・・、何も言いたくない・・・・。
 だけど、そんな俺が足元にある物体を思い出して、ムードも何もへったくれもなく叫ぶのは、キスが終った瞬間のコトだったっ。


 「ぎゃあぁぁぁっ!!ゴキブリぃぃぃっ!!!」
 「・・・・・・もしかしてだけど、ソレって俺のコト?」


 ユア、ラッキー? アンラッキー?

                            『アンラッキー』 2009.9.30更新

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