手を繋ぐ…、手を繋いで握りしめる。 そういうのを短い言葉で言うと、誰もが知ってるみたいに握手なんだけど…、 でも、漢字にすると二文字になる握手って言うと・・・・・ なんとなくだけど、しっくりと来ないカンジがして俺は床に座って後ろにあるソファーに背中を預けながら、右手の指先に視線を落とす。すると、隣に座ってる久保ちゃんの左手が、俺の右手の指先に触れてる指が目に入った。 俺が一番良く繋ぐ…、久保ちゃんの手と指。 少し骨ばってて筋張ってて、俺よりも大きい…。 それがちょっとくやしくて…、だけど久保ちゃんの大きな手と手を繋ぐとスゴクほっとして安心する。不思議なくらい、ほっとして何も怖くなくなる。 ベツに何かを怖いって思ってたワケじゃなくても、そんな気がする。 なんでだろ…、なんでかなって考えながら、じーっと久保ちゃんの手を見つめてると、その手がゆっくりと動いて人差し指と中指の二本だけが俺の同じ指に絡んできた。 「どうかしたの?」 指を二本だけからませながら、そう聞いてくる声に俺は首を横に振る。 さっきから手は見てたけど、別にどうかしたワケじゃない。 ただ…、ちょっと不思議に思っただけ…。 そして、二本だけからんでる今の状態って握手っていうのかな…って、またそんなコトを考えながら、じーっと俺と久保ちゃんの手を見つめてると…、 今度は三本目の指…、薬指が俺の指に絡んできて…、 次に四本目の指の小指が、久保ちゃんの指に絡んで絡めとられて…、 最後に親指がしっかりと固定するように、俺の手の甲に回されて…、 ソレを見てるとなんか…、なんでかわかんねぇけど、顔が熱くなってくる。 ただ、握りしめただけの手のはずなのに、絡む指がなんかハズい…。 少しだけ力を入れて…、ぐっと握りしめられると胸がドキドキして…、 親指で軽く手の甲を撫でられると、いつも手を繋いだ時と違う何か熱いモノが全身に走った気がした。 「・・・・っ! 久保ちゃんっっ!」 「どうかした?」 「なんかヘンっ」 「ヘンって何が?」 「手!」 「手?」 「手の繋ぎ方が、握手の仕方がなんかヘンだって!」 俺は手を離せって言いながら、繋いだ手を自分の方に引寄せようとする。 けど、そうしようとした瞬間、逆にぐぐっと手を引寄せられて…、 その反動で座ってる久保ちゃんの膝の上に、俺の上半身が倒れ込んだ。 「うわ…っ、なにすん…っ!」 「ねぇ、時任。お前がヘンって言った今の手の繋ぎ方、なんて言うか教えてあげよっか?」 「…って、手を繋ぐのに、べつに呼び方なんかっ」 「あるよ」 「え? マジで?」 「うん、あるよ…、この繋ぎ方の名前なら、ね」 久保ちゃんはそう言うと自分の顔を、倒れた俺に近づけてきて…、 くすぐったいって首を縮める俺の耳に、笑みを浮かべた唇を寄せてくる。 そして、いつも手を繋いでホッと安心してた俺にイタズラっぽく…、とても悪いコトを囁くように、親指で手の甲を撫でながら、今の手の繋ぎ方の名前を言った。 「こういう手の繋ぎ方って…、恋人繋ぎって言うんだって…」 「こ、恋人繋ぎぃぃ!!?」 「そ、だから…、ドキドキしない?」 「・・・・・っ!!」 耳元で囁かれて、指を絡めて手を繋がれて…、 久保ちゃんの言葉を聞く前から、心臓はドキドキで破裂寸前…。 絡められた指に熱をカンジて、こんなの握手じゃないって心の中で叫ぶ。 すると、そんな俺にトドメを刺すように、久保ちゃんが俺の耳に響きの良い低い声を注ぎ込んだ。 「ねぇ、ドキドキしてよ。安心されてばっかじゃ…、手だけしか繋げないから…」 「・・・・・・・・・・・あっ」 「いいね…、その声…。もっとドキドキさせてあげるから、もっと聞かせてよ」 「・・・・・・・っ!」 注ぎ込まれた声がゾクゾクと全身を駆け巡って、思わず口からヘンな声が出て…、驚いた俺は左手で口を塞ぐ。けど、そうしながら握手でしっくり来なかったワケを自覚した俺は、繋いだ手を振り解くコトができなかった。 ・・・・・・こんなの握手じゃない。 少なくとも俺にとっては、アイサツする時にするコトの多い握手とは違う。 求めて握りしめる手も、求めて絡みつく指も…、 ただ、そうたぶん…、ココロのままで…、 だから、絡みつく二人の指を見つめてる内に、久保ちゃんに左手まで奪われてしまった俺は、熱いカラダで自分のじゃないみたいな、自分のヘンな声を聞きながら…、 ああ、もしかしたら…、俺は久保ちゃんとは手を繋いでばっかで…、 一度も握手をしたコトがないのかもしれないって…、そう思った。 |