「なぁ〜、すっげぇタイクツ〜」 「ふーん…」 「タイクツだっつってんだから、ちゃんと返事しろっ!」 「って言ってもね。さっきからそれしか言ってないよ?」 「タイクツだから、タイクツしか言えねぇの」 「あっそ」 せっかくの休みをのんびり過ごしてるのに、時任がさっきからタイクツを連呼しててうるさい。 独り言ならそのままほっとくケド、時任は退屈なのを俺にどうにかしろって言ってる。 することないなら、寝てるとかしてればいいんじゃないの? なーんて言った日には、当分口聞いてくれそうにないし…。 どうしよっかなぁ。 遊んであげるにしても、ここでできることなんて決まってるしね。 ん〜、けどさ。 あんまり退屈、退屈って言われると俺といるのが退屈だって言われてるみたいで、ちょっと傷つくんですけど? それわかって言ってる? 時任。 「タイクツすぎて死にそう…」 「・・・・」 「久保ちゃんが冷たいっ!」 「そう?」 さっきからタイクツだっつってんのに、久保ちゃんが俺のこと無視する。 朝から本ばっか読んでてちっとも話してくれないどころか、こっちを見てもくんない。 ずーっと、セッタ吸ってるから、部屋中がケムリでいっぱい。 それが煙くて俺が顔しかめてても、久保ちゃんは全然気づいてねぇし…。 そういうのって、俺のことがうっとおしいって言われてるみたいでなんか傷つく。 それがわかってて言ってんの? くぼちゃん。 「…俺、どっか外に遊びに行ってくる」 なんとなく、ここにいるのがちょっとイヤになったから、外に遊びに行くことにした。 別に誰かと約束があるワケじゃねぇけど。 久保ちゃんにうっとおしがられてるより、全然マシ。 けど、そんな俺を久保ちゃんが呼び止めた。 「時任」 「なんだよっ!」 そう言って久保ちゃんの方を振り返ると、久保ちゃんがポンポンと自分の膝を叩いてた。 なんなんだ? 一体。 「ここにおいで、時任」 「なんで?」 「いいからおいでよ」 俺が有無を言わせない調子でそう言うと、時任はしぶしぶ俺の前までやってきた。 なんだかちょっとしょんぼりしちゃってるカンジ。 さっきまでの元気がなくなってる。 俺はおとなしくなった時任に腕を伸ばすと、強引に自分の膝の上に座らせた。 「な、なっ、何すんだよっ」 「たまにはこういうのもいいなぁ、なんて」 「良くない」 「誰も見てないんだからさ。たまにはずっとくっついてたいしね」 俺が時任の耳元でそう言うと、時任の耳と顔が赤く染まる。 ほんっと、いつまでたってもカワイイよね。 そーいうトコ。 俺には絶対マネできない。 まあ、できても困るけどね。 「そんなに退屈なら、退屈しのぎに俺に抱きついててよ」 「退屈しのぎになるかっ、んなもんっ」 「時任は俺といると退屈? 俺は時任といる時、退屈だって思ったことないけど?」 「ち、違うっ。そーじゃなくて…」 「そうじゃなくて?」 「久保ちゃんといんのがタイクツなんじゃなくて、久保ちゃんが俺のことほっとくからタイクツってだけだっつうのっ。だからそこんとこ勘違いすんなよっ」 そう言った時任の顔を覗き込むと、俺はその唇に小さくキスした。 短い一瞬のキス。 スゴク短いけど、こういう穏やかな日には、長い激しいキスよりこの方が似合ってる気がする。 なんかいいよね、こーいうの。 身もココロも洗われるカンジがして…。 「ちゃんと抱きしめててね」 「つって俺に言いながら、自分は本読んでんじゃんかっ! 俺のことうっとおしいなら、一人で読んでろよっ」 「うっとおしいなんて思ってないよ? うっとおしいの逆だったりはするけどね」 「あっそっ」 「信じてないの?」 「ぺっつにぃ」 久保ちゃんにうっとおしいって言われなくて俺はホッとした。 いくら俺でも、うっとおしいって言われて一緒にいられねぇじゃん、やっぱ。 とかなんとか言いつつ、やっぱ離れられないんだろけどな。 でもさ、それでいいんだよな、俺らって。 そうだろ、くぼちゃん。 「放せ、降りる」 「そんなにイヤなら逆にする? 俺が時任の膝に乗るから」 「・・・・・ぜってぇ、やだ」 「そう?」 すっげぇ天気良くて、空も青くて、陽射しも暖かくって。 何にもないけど、ありきたりだけど。 久保ちゃんがいて俺がいたら、それで十分だから、そういう日もやっぱり大好きな日になる。 俺は久保ちゃんの膝に座って、一緒に久保ちゃんの本を読みながら、ほんのり柔らかく暖かいキモチでタイクツな一日を過ごした。 タイクツってのは、もしかしたらちよっとゼイタクなのかもしんない。 |