例えば…なんだけど、腹は減ったとしても食べたら満腹になるし…、 ある程度食べたら、ヒトによって違ってても限界ってのがある。 でも、腹じゃなくて胸の中をいっぱいにするのって、なんかムズカシイ…。 いっぱいだって思ってるはずなのに、気づくと足りないって思ったりして、限界が良くわからなくて…、すごく困る。今だってそういうカンジで、ぎゅーっと抱きしめられて、き、キスまでしたのに、なんか足りない気がして困ってる…。 なんだろ…、何が足りないんだろうって考えてると…、 何考えてんの?とか言われて、また、久保ちゃんにキスされた。 「キスの最中に考えごとしてたら、浮気のサイン…とかって、どこかで言ってなかったっけ?」 「ば…っ、そんなのどこでも言ってねぇしっ、う、浮気なんかしてるワケねぇだろ」 「・・・・・・・・・」 「なんだよ、その疑り深い目はっっ」 「別に疑ってないけど…、キスの最中に考えごとって、結構ショックだったり?」 「うぅ…っ」 「あ…、何かすごく落ち込んできた」 「…って、それくらいで落ち込むなぁっっ」 「ナミダ出そう…」 「えっ?!」 「・・・・・っ」 「ちょ…っ、くぼちゃん…っ!」 俺の肩に額を押し付けながら、久保ちゃんがナミダが出そうなんて言う。 そしたら、ホントに泣いてるみたいに震えてる振動が伝わってきて…っ! 俺は焦ったっ、かなり焦ったっ!! ちょ、ちょっとだけ、キスの最中に考えごとしただけなのに…っ、 何もそんなんで泣くコトねぇじゃんか…っつーかっ! うわっ、マジでどうすりゃいんだ…っ!! こ、こ、こういう場合は抱きしめるとかっ、背中を撫でるとか…っ、 うわーっ、もう泣くなぁぁ…っ!!! 初めて久保ちゃんに泣かれた俺は、どうしたらいいかわかんなくてパニック状態。 しかも、泣いた理由が理由だし…、あぁぁっ、もうっ! とりあえずゴメンってあやまって…っとか、真っ白になった頭で考えてると、久保ちゃんが肩と声を震わせながら、俺に要求をつきつけてきた。 「・・・・・・・・・・時任から、キスしてくれたらナミダ止まるかも?」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・。 その要求を聞いた瞬間、俺は悟った。 肩と声が震えてるのがなぜなのか、カンッペキに悟ったっっ。 そして、悟りを開いた俺は、こめかみをピクピクさせながら、右手をぎゅうぅっと握りしめて拳を作る。すると、久保ちゃんは何かに耐え切れなくなったかのように、ぐぐっと口を押さえた。 「てめぇ、実はウソ泣きだろ?」 「・・・・・・うん」 ドカッ、バキ…ッ!!!! 「ドメスティックバイオレンスはんたーい」 「何がドメなんとかだよっ!! くそぉっ! もう3発殴らせろっ!!」 「うーん…、愛って痛いモノだぁね」 「痛いのは愛じゃなくてっ、てめぇだぁぁ…っ!」 そんなカンジで、久保ちゃんを追っかけまわして…、 けど、別にホンキで殴るために追っかけてたワケじゃない。 ただ、俺が追いかけて、久保ちゃんが逃げて…、 今度は逆に俺が逃げて、久保ちゃんが追いかけたりして…、 そーいうのが楽しかったから、息切れして床に倒れるまでやめなかっただけ。 二人して床に倒れて笑いながら床の冷たさを堪能してると、こういうのも悪くないかもって思った。 「あ〜、疲れたっ」 「俺的には、もっと別なコトして汗流したかったんだけど…、ねぇ?」 「うっせぇっ、ウソ泣きするようなヤツは、コレで十分だってのっ」 「まさか、あんな泣きマネで引っかかるなんて思わなかったし?」 「〜〜〜〜っ! べ、ベツに最初からわかってたけど、久保ちゃんがカワイソウだから、わざと引っかかってやったに決まってんだろっ」 「ふーん、そうなんだ?」 「そうだよ!!」 ・・・・・・・・くそぉっ。 あんな泣きマネに引っかかって、焦ったなんて口が裂けても言うもんかっ! あぁ、もう…っ、心配して損したっ! …って思ってたけど、荒かった息を収めた久保ちゃんがポツリと言った言葉が、その決意を揺るがす。何かが足りないって、何か足りないってキスしながら考えてたけど、もしかしたら、久保ちゃんも同じかもしれないって気がして…、 俺は上向きで寝転がってた姿勢から腹ばいになると、上から久保ちゃんの顔を覗き込んだ。 ・・・・・・・泣いたのはウソだけど、キスして欲しかったのはホントなんだけどね。 そうポツリと聞こえた、久保ちゃんの言葉。 でも、それは小さくて俺にっていうより、ただ呟いただけってカンジで…、 聞いてるとなんかメチャクチャ顔が熱くて、正直逃げたい気分だけど…、 すごくキスしたい気分にもなってきて…、だから…、 俺はメチャクチャ熱い顔で、ムチャクチャなコトを久保ちゃんに言った。 「俺の名前…、百回呼んだらキスしてやる」 それは久保ちゃんじゃなくて、俺が足りないって想ってたコト。 ホントは名前じゃなくて、好きだって言って欲しかった…。 抱きしめてもキスしてても、最近、なんか言葉が足りない気がして…、 何回キスしても、何回抱きしめられても…、ずっと何かが不足してた。 でも、言えなくて名前なんてバカなコト言って…、 あぁ、俺のバカ…っとか心で叫んで、バカ正直に俺の名前を呼ぶ久保ちゃんに、今度は俺が肩を震わせて笑う。こんなバカなコトなのに、俺らじゃない誰かが見たら、絶対にそう思うに違いないのに、そんな久保ちゃんを二人で過ごす温かな時を、ぎゅっと強く抱きしめたくなった。 大きなコトだけじゃなくて、ほんの小さなコトでも泣いたり笑ったり、すねたり怒ったりして…、そういうのはすごく大変で…、 でも…、こういうのがなんとなくだけどさ…、 ・・・・・・・・・・・好きってコトなんだと思う。 |