うあぁぁぁっ!!!サイアクだぁぁぁっ!!!!! 本当はそう声に出して叫びたかったっ!! すっげぇっ、叫びたかったけどっ、あまりの出来事に声が出なかった!! こんなコト、俺様的にあり得ねぇっつーか…っ、 ねぇよ・・・、マジでっ!! 朝、起きて洗面所の鏡を見ると、美少年な俺様の頬に赤い小さな…、 に、ニキビがぁぁぁぁっ!!!!!!!! 一つといえどっ、無視できねぇっ! 俺様の美しくつややかな肌に、ニキビなんて許せるワケがねぇっ!! そんなカンジで消えろっ!!と激しく念じながら眉間に皺を寄せて、じーっと鏡と睨むっっ。すると…、背中をトントンと叩かれた…。 だから、俺は「なんだよっ!」と頬のニキビを右手で隠して、バッと勢い良く後ろを振り返るっ。そしたら、俺の額の真ん中に長い人差し指が突き刺さってはねぇけど…、プシッと当たった。 「さっきから、なに鏡と睨めっこしてんの?」 「・・・・とか言いつつ、実はさっきから見てたんだろ?」 「うん」 「久保ちゃんのエッチっっ!!!」 「て、言われても見たのニキビだし、どこがエッチなのかわかんないし…」 「うっせぇよっ! つか、アレはニキビじゃなくて、ただの吹き出物だから、すぐに治るに決まってんだろっ」 「うーん、ニキビと吹き出物って、ナニが違うのかなぁ?」 「・・・・・・・・俺様に絶対出来ないのが、ニキビだ」 「ニキビ一個ぐらい、別に気にしなくても…」 「だーかーらっ、ニキビじゃねぇ…っつか、俺様の方が何倍もカッコイイのに、久保ちゃんにニキビが出来ねぇのが納得いかねぇっ!」 俺はそう叫びつつ手を伸ばすと、久保ちゃんのニキビの出来ていない頬を摘んで引っ張る。すると、ニキビは出来てなかったけど…、なんかちょっとザラザラしてるカンジがした。 も、もしかして…っ、コレってヒゲ!?? なんだかわかんねぇけど…、なんか更にくやしい気ぃするっっ!! 「くそぉっ! ニキビが出来ない上に一人だけ大人になりやがってっ!!」 「アレ、もしかして時任クンてば、オトナになりたいの?」 「べ、別にくやしいだけで、そんなコト言ってねぇだろっっ」 「ふーん、俺だけオトナでくやしいんだ?」 「うっせぇ黙れっ!」 「だったら、俺がお前をオトナにしてあげよっか?」 「・・・・・・・・へっ?」 お、オトナにするって…、何すればなんだよ? つーか、妙なコト言った上に、マジ顔した久保ちゃんがジリジリとジリジリと俺の方に寄ってくんだけどっ!!!なんか怖ぇぇぇっ!!! 「ねぇ、時任」 「な、な、なんだよっっ!」 「なんで、逃げるの?」 「そ、それはだな。久保ちゃんが追いかけてくっからに決まってんだろっ!」 「オトナに、なりたくないの?」 「なりたくねぇワケじゃねぇけど、なんか今は遠慮しとくっ!」 「俺とお前の間で遠慮なんて、今更必要ないっしょ?」 「いやいやいやっ、親しき仲にも礼儀アリってなっ」 俺がそう言うと、久保ちゃんは真剣な目でじーっと俺を見る。 うわっ、なんか見つめられすぎて穴開きそっ。 …てか、そう言えば俺の顔にはニキビがっ!!!!! と、ニキビを手で覆い隠しながら、俺は心の中でそう叫ぶ。 けど、久保ちゃんは俺のニキビなんかどうでもいい…みたいな顔して、関係のないコトを呟いて首をかしげた。 「親しき仲…ねぇ?」 「…って、なんで疑問符なんだよ。一緒に暮らしてるし、一緒にメシも食ってるし、十分親しいだろ」 「・・・・・まぁね」 「まぁね…って、その妙な間はなんだ?」 「ん〜…、ちょっとね」 「ちょっとね…じゃ、わかんねぇだろっ。言いたいコトがあんなら、ハッキリ言えよっ、ハッキリっ!」 「・・・・・・・・」 疑問符並べて、煮え切らないってカンジの久保ちゃんの顔。 ニキビはねぇけど、ヒゲは生えてて…、俺よかオトナ。 でも、何かを考えつつ、首をかしげる仕草はちょっとコドモ。 そう思うとくやしかったのが消えて、まだコドモだけど、ちょっとオトナな俺様は前言を撤回した。 「わぁったっ。親しき仲にも礼儀じゃなくて、無礼講だっ。だから、言いたいコトがあるなら言ってみろよ。今なら出血大サービスで、何を言っても怒らないでいてやる」 「親しき仲にも無礼講って…、そんなコトバあったっけ?」 「うっせぇっ、意味が通じりゃそれでいんだよっ」 「お前らしいやね」 「で、言いたいコトは何だよ?」 俺様にここまで言わせといて、ふざけたコトぬかしやがったら、怒らねぇけど、ブン殴るっ!そんでもって、当分口聞いてやんねぇ…っ!! なーんて、そこまでやったら怒ってるってコトかも? 自分で自分にツッコミを入れつつ、じーっと久保ちゃんが話すのを待つ。 すると、久保ちゃんはふーっと息を吐いた後、伸ばしてきた手で頬の…、俺が手で隠して無い部分に触れた。 「ココにさ、ヒゲが生えるの見たくないなぁって、なんとなく思ってね」 「はぁ? ソレって似合わねぇってコトか?」 「うん、まぁ…、それは…、そう思わなくもないんだけど」 「って言い方するってコトは、思ってんじゃねぇかっ」 「だけど、今は別の理由」 「ベツ?」 「そう…。例えば、お前がオトナっぽくなって、今よりも男っぽくなってさ。香水の匂いとかさせて帰ってくるようになったら、なんとなくイヤかもって…」 「は?」 「うん、やっぱりオトナにならなくていいよ、お前」 「はぁぁぁ???」 ・・・・香水? つか、ぜんっぜんっ、ワケわかんねぇっっ。 オトナならなくてもいいつっても、絶対なるしっ。 あーもうっ、一体、何なんだよっ!! さっきは久保ちゃんが首をかしげてたけど、今度は俺が首をかしげる番みたいだった。 ガキっぽいから、ヒゲが生えたりすんのが似合わねぇってのは…、まぁ、かなり不服だけど百歩譲ってうなづいてもいい。けど、オトナとか男っぽくなったから香水って…、だからオトナにならなくていいって発想は良くわかんねぇ…。 そもそも、俺はそういう匂いって苦手だし? 苦手なもんを、たとえオトナになっても、俺がつけるわきゃねぇじゃん。 それ以上、何も言わない久保ちゃんの前で腕組みをしながら、俺はそう考えてウンウンとうなづく。そして、久保ちゃんがしてるみたいに手を伸ばして、ちょっとザラっとしてる頬を触った。 「オトナになったって、男っぽくなったって、俺がそんな匂いさせてるワケねぇだろ。俺からするとしたら、ウチで使ってるシャンプーとかセッケンとか・・・・・、それから久保ちゃんが吸ってるセッタくらいだろ? たぶん…、あ、それと食ってる回数多いしカレーの匂いはするかもな?」 シャンプーとセッケン…、そしてセッタで口元が緩み…、 それから、カレーのトコで噴出して笑う。 すると、久保ちゃんはなぜか少し驚いた顔をして…、それから目を細めて柔らかく微笑む。 その顔はヒゲとか関係なく、なんかオトナなカンジの雰囲気で…。 なんか…、すごくうれしそうで…。 なんでかわかんねぇけど、そんな久保ちゃんに見られてんのが恥ずかしくなってきて、久保ちゃんの頬に触れていた手で、自分の頬に触れてる久保ちゃんの手を振り払って顔を背けた。 「だーかーらっ、香水の匂いなんかぜってぇしねぇから心配すんなっ!」 別に怒ってないし、不機嫌でもないけど…、 ムッとした表情で、怒ったような不機嫌そうな口調でそう言う。 そしたら、久保ちゃんがそんな俺を見て笑った後、更にムッとした表情になった俺の頭をポンポンと軽く二回撫でるように叩いた。 「ふーん…、お前ってオトナになっても、そーいう匂いしてるんだ?」 「久保ちゃんだって、そーいう匂いだろ?」 「うん、そうね…。だったら、いいかもね」 「いいって何が?」 「・・・・・・お前がオトナになっても」 久保ちゃんがそう言った瞬間、伸びてきた手に強引に顎を掴まれ、急に目の前が暗くなる。 その間に俺の口から出たのは、は?…え…っ?とか言うマヌケな声だけ。 驚いて目を見開くと、髪の黒と天井の白が見えて…、 それから、唇に少しカサカサした…けど、柔らかくて暖かいモノが触れた。 「ホント…。お前ってシャンプーとセッケンと…、俺の匂いするね」 チュ…ッと軽く音を立てて、唇に触れていたものが離れていくと同時に、そんな言葉が赤くなってるかもしれない俺の耳をくすぐる。 すると、固まっていた俺は、更に固まって身動きが取れなくなって…っ、 信じられない出来事に、頭の中が真っ白になった。 すると、俺が動けないのをいい事に、今度は同じ柔らかくて暖かいモノが俺のニキビに触れる。そして、俺に二度も触れた…、いつもセッタをくわえている唇が、早く治るようにおまじないだと耳に囁いた。 「こ、こ、こんなんで治るわきゃねぇだろ…っ」 やっと、それだけ言ったけど、声にも言葉にも勢いがない。 その言葉に答えるように、軽くヒラヒラと手を振って洗面所を出て行く久保ちゃんの背中を見送った俺は、その場にらしくなく、へなへなとしゃがみ込んだ。 「ヤバイ・・・・、マジでオトナになっちまったかも…」 心臓がバクバクする、物凄くドキドキする。 ニキビじゃなくて唇を押さえた俺は、触れた唇から沸き起こる自分の衝動に戸惑いながら・・・・、赤くなりすぎた顔を隠すために自分の腕の中に顔を埋めた。 すると、そこからホントにセッタじゃなくて…、久保ちゃんの匂いがする気がして恥ずかしくてたまらなくなる。 けど…、マヌケなコトにキスして初めて…、 こんなにバクバクしてドキドキするまで、自分の気持ちに気づかなかったマヌケな俺は、恥ずかしついでに洗面所のドアを開け這い出し、リビングにいる久保ちゃんに向かって大声で叫んだ。 「久保ちゃんっ、好きだーっ!!! めちゃくちゃ好きだぁーっ!!! だから、俺をオトナにした責任取れよっ!!!」 すると、リビングから笑い声と一緒に、まるで山びこのような返事が俺の元に返ってくる。だから、俺も好きだ好きだっ、大好きだと叫ぶように大笑いした。 |