ばきぃぃぃーっっ、ぷしゅうぅぅぅ〜〜…っっ。 …とかって、実際に音がしたような、しないような? そう思いつつゲームオーバーって書かれたテレビ画面を呆然と見つめた後、恐る恐る握ってたゲーム機のコントローラーに視線を落とした…けど…、 うわーっ!!!マジでやべーっ!!! ぜってぇっ、やべーよっっ!!! コレっっ!!! 俺の手の中でバッキリ逝っちまってるコントローラーは…、見事死亡。 くっつけても、くっつくわきゃねぇよな、これくらい見事に割れてっと…、 さすが俺様、回し蹴りの切れ味だけじゃなくて、コントローラーの割れ味も抜群〜、なーんてな〜〜〜。 あはははは・・・・・・・・・・、はぁ・・・・。 なーんてっ、落ち着いてる場合かっ、オレっっ!!! ゲームしててコントローラー破壊したのは、こ、これで確か十度目くらいか? ホトケのなんとかも五回、いや十回までとかなんとか…、テレビだったか葛西のおっさんだったか、なんか言ってたような気ぃするし、しかも新しいの買ってもらったの昨日だしっっ!! 俺様っ、激しくピーンチっ!!! さ、さすがに怒るよな…、久保ちゃん…っっ。 でも、言わないワケにはいかねぇし、うーん…、どうすっかな。 か、肩でも揉んで機嫌取っといて、言ってみるか…。 けどっっ、ソレってすでに激しくアヤシクね?! もっとこう…、あやまるなら自然にだな…。 そう、たとえば・・・・・、 「久保ちゃん、おかえり〜。あ、ゲームは俺様が今攻略中だから触んなよ、触ったら絶交だかんなv」 …って、ナニ隠ぺいしようとしてんだっっ!俺っ!! つか、疑ってくださいって言ってるようモンだろっ!!! うがーーっ、ダメだぁぁぁっ!!! ここはもうちょっと、真摯な態度でだなっ。 こう…、もうちょっと・・・・・、 「実はコントローラー…、また壊しちまってさ。けど、俺なんにも持ってねぇし、だから…、久保ちゃん…」 …とかってっ、ナニしようとしてんだっっ!!俺っ!! あやまろうとしてるだけなのに、なぜ妙なカンジに…っ! あっぶねぇっっ、コントローラーで身売りするトコロだったぜっっ。 つかっ、あり得ねぇっつーのっ!!!! ま、まぁ…、ちょっとくらいはいいけど…つか…、 ナニ考えてんだっっ!! もうちょっとマジメに…、反省して・・・・っっ! 「うん、まぁ…、それはいいんだけどね」 ・・・・・・・・・? 「腹減らない?」 は、腹へら・・・・・・・? 「タダイマ」 〜〜〜〜〜〜っ!!! 「ぎゃあぁぁーーーーーっ!!!!」 「うわぁ〜…」 俺の叫び声と、久保ちゃんの棒読みの叫び声がリビングに響く。 横を向くといきなり久保ちゃんの顔が間近にあって、心臓が口から出そうなくらいビックリした俺は座ったまま、叫びながら一メートルくらい後ずさりしたっっ。 い、いつの間に帰ってきたんだっっ!!! ぜんっぜんっ、気配なかったぞっ!!!! 「く、久保ちゃんは忍者の親戚か?」 「うーん…、従兄弟のそのまた従兄弟の、従兄弟のまたまた従兄弟のまた従兄弟くらいには、居たようないないような…」 「…って、ソレって他人だろ?」 「うん」 「ったくっっ、気配消して背後に近づくなよっ。間違って殴り飛ばしちまったら、どーすんだっっ」 「ソレって愛のムチ?」 「んなわきゃねぇ・・・・・」 ・・・・と言いかけた瞬間、俺の視界に壊れたコントローラーが映った。 一メートルくらいバックしたせいで、俺と久保ちゃんの間にコントローラーがあって、俺の視線を追って床を見た久保ちゃんの目にもコントローラーが映ってる。昨日、新しいのを買ってもらって…、うれしくて、ありがとうって言ったばかりだったのに…、コントローラーは真ん中からバッキリと割れて壊れていた。 それをどう久保ちゃんに伝えたらいいのか…、どんな風にあやまったらって、さっきまで色々と考えてて…、 けど、俺の口から出たのは、考えていたどの言葉とも違ってた。 「・・・・・ゴメン。せっかく買ってくれたのに、また壊しちまった」 壊れたコントローラーに視線を落としたまま、言葉はソレしか出て来なくて…。さっきまでパニくってて気づかなかったけど、また壊しちまったコトがすごくショックだった。 今度はぜってぇ壊さないように、大事に使おうって思ってたのにさ。 ゲームに夢中になってっと、加減効かなくなっちまって…、 なんで、いっつもこうなんだろ…。 大事にしたいのに…、 大事にしたいモノは…、いつも俺の右手が壊しちまうんだ。 そう思って落ち込みかけて…、 けど、そんな俺を引き上げるように、久保ちゃんの手がまるでコドモにするみたいに俺の頭をよしよしと撫でた。 「大変良く出来ました」 「…って、何がだよ」 「ちゃんとあやまったデショ? 何かあやまらなきゃならないコトをしたら、ゴメンなさいするのが、良いコの基本」 「・・・・・けど、あやまってもコントローラーは直んねぇぞ」 「形あるモノは、いつか壊れるし…。だから、たぶんココで壊れるのが、運命だったってだけのコトでしょ?」 「でも、それで納得なんか…っ」 「出来るよ。今度は壊さないように大事にしようって、お前がそう思っててくれたのを知ってるから…」 「・・・・・・・」 「お前はいい子だね…」 「・・・・・・俺はいい子なんかじゃねぇよ。コドモ扱いすんな」 「いい子だよ」 ・・・・・・・そんなんじゃない。 違うって、もう一度言いたかったけど、久保ちゃんの手に頭を撫でられるのが気持ち良くて言えなかった。 コドモ扱いされんのはイヤだけど…、時々なら、こういうのも良いかもしれない。そう思うのは、たぶん俺の頭を撫でる久保ちゃんの目が優しいから…。 形あるモノはいつか壊れると久保ちゃんは言ったけど、優しい目をして微笑む久保ちゃんを見てると…、たとえそうだとしても絶対に今、目の前にある大切なモノだけは壊したくなかった。 絶対に壊すんじゃねぇぞ…、俺の右手…。 頼むから…、壊すんじゃなくて守らせてくれ・・・・。 ・・・・・・・右手で。 そんな想いを胸にゆっくりと近づき伸ばした右手で、久保ちゃんの頬に触れる。すると、久保ちゃんがくすぐったそうに少し首を縮めながら目を細めた。 「・・・・・・壊れんなよ」 俺がそう小さく呟くと久保ちゃんは、よしよしと撫でていた手で俺の頭をぐちゃぐちゃにする。そして、頬に触れた俺の右手を同じ右手で上から握りしめ、うん…と頷いた。 「お前の右手じゃ、俺は壊せない。けど、俺を壊せるのは、たぶん…」 その先に続く言葉は、途切れて聞こえなかった。 けど、俺はその先を聞かずに、久保ちゃんの右手を握り返す。 壊れないように…、そっと・・・・・・。 そっと・・・・・・、大切なモノを壊さないように…。 すると、それからはコントローラーが、不思議と壊れる事がなくなって…、 今、俺の手の中に…、あの後で買ってもらったコントローラーがある。俺に甘い久保ちゃんがどっかで特注したんじゃないかって、葛西のおっさんが冗談半分に言ってたけど、俺はコントローラーを壊さなくなった右手を…、 大切なモノを守れるかもしれない…、俺の右手の可能性を信じている…。 |