あー、さっぱりした。
 やっぱ風呂っていいよなぁ。
 なーんて、会社から帰ったサラリーマンみたく、俺は冷蔵庫の中を物色してた。
 風呂あがりって、なんでかビールとかそおいうの飲みたくなるんだよなぁ。
 まあ、牛乳とかでもいいんだけどさ。

 「おっ、コレにしよ」
 
 新しく買ってきてあった缶ビール。
 たぶん、久保ちゃんが飲もうって思って買ってんだってわかってっけど。
 俺のモノは俺のモノ。
 久保ちゃんのモノも俺のモノっつーことで、飲んでよしっと。

 パシュッ…。

 「時任」
 「うわぁぁぁっ!!!!」
 「なに? そんなに驚いた?」
 「う、う、後ろからいきなり抱きつくなっ!!」

 ったく!!!
 あやうくビールを床に落すトコだったじゃねぇかっ!!
 あっぶねぇ〜。
 冷汗かいちまった。
 ほんっと、油断も隙もねぇぜ。
 なーんて、俺がビールに口をつけると、
 「ソレ、飲んじゃうんだ?」
って、久保ちゃんが後ろからうらめしそうに言った。
 そ、そんなに飲みたかったのか?
 けど、口つけたからコレは俺のモンだっつーのっ!!

 「飲みたきゃ買ってくればいいじゃん」
 「そうきますか?」
 「わりぃかよ?」
 「悪くないケド?」
 
 悪くないとか言いつつ、久保ちゃんは子泣きジジイみたいに俺の背中にくっついてる。
 うっ、…重い。
 このままじゃ、身動きとれねぇじゃんかっ!!

 「どけよ、久保ちゃん」
 「ヤダ」
 「重いっ!!」
 「そーだろうねぇ」
 「も、もしかすっと、コレって仕返しってヤツ?」
 「さあ?」

 なんか背中から振動伝わってきてる。
 くっそぉ、俺のコトからかってオモチャにしてんだっ。
 重いっつってんのにっ、のけろっつってんのに、久保ちゃんのバカっ!!
 
 「ねぇ、時任」
 「っだよっ!!」
 「ちょっと痩せた?」
 「はぁ?」
 「ん〜、やっぱ痩せたね」
 
 久保ちゃんが、俺が痩せたって体重もはかってねぇのに決めつけてる。
 なんでわかんだろ?
 自分でもわかんねぇのに…。

 「抱きしめるとわかるよね」
 「なにが?」
 「時任が痩せたとか太ったとか、身長伸びたとか」
 「なんで?」
 「身体中で時任のコト記憶しちゃってるから、なんでもわかんの」
 「く、久保ちゃん?」
 「今から、体温はかっていい?」
 「ね、熱なんかねぇよっ」
 「今から上げたげるよ」
 「上げなくていいっ!!」
 「遠慮しないで」
 「してねぇっつーのっ!!」

 結局、久保ちゃんに熱を上げられまくった俺は、いっぱい久保ちゃんのコト、身体中で記憶させられるはめになった。
 …ビール、結局飲めなくて炭酸ぬけちまったんだよなぁ。
 それ見っと、なんかちょっとだけ悲しかったりとかする。

 ・・・・・・・・久保ちゃんのバカっ!!

                            『記憶力』 2002.5.2更新

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