手を伸ばして手に触る、腕を伸ばして肩に触れる。 そんな時は、ほとんどの場合が無意識っていうか、あまり意識してなくても自然にやっちまってるっていうか…、 そういうトコが、抱きつくとか抱きしめるとかとはちょっち違う。 道を並んで歩く時とか、ソファーで二人で座ってる時とか…、 なんか、まるで磁石でもついてるみたいに、いつも俺の手も腕も久保ちゃんに吸い寄せられるみたいにくっついてた。 「そのやたらブ厚い本、面白れぇのか?」 「まぁ、ほどほど。そーいうお前のマンガはどう?」 「主人公がネコ耳」 「ふーん…」 「…って、言いながら、なんで俺のアタマ見てんだよっ」 「ん〜、なんとなくね」 「目つきがアヤシイっ」 「気のせいっしょ?」 そういう話をしてる間も、俺の背中と久保ちゃんの背中はくっついてる。 お互いの背中に寄りかかる感じで、バランスを保ちながら本とかマンガを読んで…、気が向いたら背中の向こうに話しかけて…、 そんな事を繰り返しながら、俺達は当たり前のようにくっついてた。 こんな風に背中合わせじゃなくても、ちょっとだけ手とか指先とかを触れ合わせて名前を呼んで…、 そして離れる時には少しだけ、何かに引かれるのをカンジてた…。 たった少しの間、ちょっとだけ離れていく指先を…、 捕まえたくなるような…、そんな瞬間がいつもあった…。 それはすごく不思議でなんでなのか自分でもわからない。でも、こんな風に久保ちゃんとカラダのどこかがくっついてる時間が一番、すごく大好きだった…。 「今日の晩メシ、何にしょっか?」 「カレーとカップ麺以外で、なんかウマイもの」 「じゃあ、今日の晩メシは時任が当番ね?」 「な、なんでウマイものって言ったら俺が当番になんだよっ。それに、昨日の晩メシは俺が作ったんじゃんっ」 「だって、ウマイものって言ったら、それしか思いつかないし?」 「はぁ?なんでだよ?」 「時任が作ったモノなら、なんでもウマイってコト」 「ぶ…っ、なんだよソレっ」 「愛情こもってるしね」 「あ、愛情…ってっ、そんなモン入ってるワケねぇだろっ!」 「へぇ、そうなんだ…。愛情入ってないんだ…」 「く、久保ちゃん?」 「・・・・・・・俺とのコトは遊びだったのね」 「…って、うわぁぁっ!! いきなり何すんだよっ!!!」 「愛情入ってないなら…、愛情入れようかと思って…」 「ど、ど、どうやって?」 「こうやって・・・・に、決まってるデショ。今から愛情を込めて、おいしく料理してあげるから…」 「ちょっ、ちょっと待てーーっ!!!」 「今日の献立は…、時任クンの愛情煮込み」 「か、勝手にヒトを煮込んでんじゃねぇーーっ!!!」 バキイィィィィッ!!! くっついて…、くっついてて…、 最後には、たぶん繋がるんだろうけど…、 伸ばした腕に、触れた手に引かれる何かがないなら…、 もしかしたら、ずっとくっついてはいられないのかもしれない。 そんな風に想うのはたぶん、まるでホントに磁石が入ってるみたいに俺が引かれて、それから久保ちゃんも引かれててくれなかったら…、 俺が引いて…、久保ちゃんが引いててくれなかったら…、 もしも…、俺らの間に磁力がなくなったら…、 まるで、ホントの磁石みたいにどこも触れなくて触れられなくて伸ばした手も下に落ちるだけだって、そんな気がするせいかもしれなかった。 たとえ抱きしめ合ってても、カラダが繋がり合ってても…、引かないと引かれないとくっつかない…。だから、俺は俺を愛情で煮込もうとした久保ちゃんをバキィっと殴りつけて、それから引くように…、引かれるように…、 ずっと、くっついていられるように…、 ずっと…、二人で一緒に居られるように…、 笑いながら、久保ちゃんの額に自分の額をくっつけた…。 |