道を歩いてると、目の前をヒラヒラと赤いモノが落ちてくる。 その赤いモノを踏みつけそうになって立ち止まると、今度は二つくらいヒラヒラと舞ってアスファルトに落ちた。 道沿いに植えられている、赤く紅葉した街路樹。赤いモノはそこから落ちてきた葉っぱだけど、黒いアスファルトの上の赤が妙に鮮やかに見えて…、 なんとなく、ソレを眺めながらセッタをポケットから出してライターで火をつけた。 すると、ライターの火がセッタの先に燃え移る瞬間、わずかに音がする。 一本のセッタが灰になって消え始める…、その始まりの音。 なぜか、いつもセッタに火をつけると妙にその音が耳についた。 「燃えるような赤って、こういう色かな」 染み一つなく、真っ赤に染まった葉を見てそう呟く。 けど、実際に燃えてる炎の色はこんな色じゃない。でも、燃えるようなで連想する色は、どうしてこんな色なのかと考えかけて…、 クダラナイ…、と気づいて吸い込んだ煙をふーっと吐き出した。 左手には、今夜の晩メシの材料の入ったビニール袋。だから、また目の前をヒラヒラと落ちてきた赤い葉を、イミもなくワケもなく右手で捕まえる。 そして、右の手のひらに乗った赤い葉を見てると、赤い赤い別のモノを連想した。 俺の記憶の中にある赤は、燃えてはいないけど濡れている。 水のようにサラサラしてなくて、手にねっとりとまとわりつくような赤い色。その赤を握りしめるように手のひらの中の葉を握りしめたら、吸っていたセッタの灰が黒いアスファルトの上にポトリと落ちた。 「一度、付いたら落ちないっていうけど、ホントだなぁ」 俺の手のひらはこんな葉っぱを乗せるまでもなく…、たぶん赤い。 右手も左手も例外なく、赤く染まってる。 そして、そんな俺の左手には生きるために必要な晩メシの材料の入ったビニール袋があって…。それを持ちながらセッタをふかしてると、なぜかそんな自分が妙におかしくて笑えてきた。 その手で何がしたいのか? 何をどうするつもりなのか? そんなコトは聞かれても答えられない。でも、俺のついてる嘘もやっぱり同じ色をしてるんだろうなぁと、それだけはハッキリと自覚していた。 過ぎていく秋も俺の手も…、俺のついた嘘も赤い…。 何もかもが赤く…、赤い…。 紅葉して落ちていく葉のように…、 罪色に咲いた花のように…。 吹いてくる風に灰色の煙を流しながら、足元の赤を踏みしめる。すると、その赤がわずかに音を立てて、他の赤は瞬間的に強く吹いた風にさらわれて居なくなった。 そして、その赤を踏みしめた足でもう一歩前に出ようとすると、セッタと一緒にポケットに入れていたケイタイが鳴る。だから、俺は赤を踏みしめたままでかかってきたケイタイに出た。 『おっそーいっ!!』 「…って、いきなり怒鳴られると耳痛いんですけど?」 『そんなの俺が知るかっ!!それよりっ、晩メシの材料買ってすぐに帰るって言ったのになんで帰って来ねぇんだよっ! マジで腹が減りすぎて死ぬっ!』 「そう言われても、今ってまだ晩メシ時じゃないし?」 『昼も寝過ごして、昼メシ食ってねぇんだっ』 「あっそ…。じゃ、ウチにあるモノ何か食ってれば?」 『イヤだっ、俺が今食いたいのはキムチチャーハンなのっ』 「俺の作った?」 『そっ』 「・・・なら、早く帰らなきゃだねぇ」 『だーかーらっ、さっきからそう言ってんだろっ!! あと一秒で帰って来いっ!』 「うーん…、それはどこでもドアがないとムリ」 『ドラエもんに頼めっ』 「タスケテー、ドラエもーん」 『とかってっ、思いっきりメンド臭そーな声でマジで頼んでんじゃねぇっ!』 「ジャイアンがいじめるヨー」 『だ、誰がジャイアンだっっっっ!!!!』 ケイタイの向こう側にいる時任と、そんな何気ない会話を交わしながら赤く染まった街路樹の道を赤を踏みしめながら歩く…。すると、昨日の二人で買いモノに行った時のコトを思い出して、赤く染まった手でケータイを握りしめながら…、 ・・・・・・・・・・・・明日のヤクソクをした。 「お前の欲しがってた赤いコート…、明日、買いに行こっか?」 赤く赤く…。 何もかもが赤く…、赤く…、罪色に咲いていく…。 赤く染まった手で…、拳銃と一緒に抱きしめた…、 愛しい君の上に…。 |