夏と秋の境目…、季節の変わり目…。 それはなぜかカレンダーを見てても良くわかんねぇし、ゆっくり変わるようであっという間に変わってる。この部屋で暮らす一年目も二年目の夏も暑かったって想ってたのに、いつの間にか秋で寒くなってて…、必然的にあったかいモノが恋しくなった。 風呂上りに冷たい牛乳を一気飲みするより、レンジであっためてゆっくり飲みたくなる。良くわかんねぇけど、季節が変わんのってそんなカンジ…。 でも、どんなに季節が変わっても触れてる身体の手の温度は、体温は変わらない。 まるで、それが生きてるって証拠みたいに触れるとあったかい…。だから、それには冬眠しないからとかそんなワケじゃなくて、なんかもっと別なワケがあるんじゃないかって気がした。 「時任…」 「なんだよ?」 「この間まで暑いからくっつくな…とか言ってたのに、どういう風の吹き回し?」 「今度は暑くなくて、寒くなったからに決まってんだろっ。暖房付けんのにはまだ早ぇけど、今日って結構寒いじゃんかっ」 「ふーん…。けど、あまりくっついてると後悔するコトになるかもよ?」 「…って、なんで?」 「さぁ? なんでだろうねぇ?」 久保ちゃんはそう言って少し笑うと、寝転がったまま腰の辺りにぎゅっと両手で捕まってる俺の頭を軽く撫でる。そしたら、それがちょっちくすぐったくて俺も少し笑う。 オモシロくて、オカシくてたまらなくて笑う時みたいに、俺も久保ちゃんも大きな声でたくさん笑ってないけど、そういうカンジはぎゅっと抱きしめてる腕の中の体温と似てた。 ちょうど良くて…、あったかくて気持ちよくて…、 ずっと、ずっとこうしてたいって想う…、そんな温度…。 その温度は久保ちゃんと一緒にいる時に、一番カンジる温度だった。 「うー…、それにしても寒いぃぃぃっ」 新聞読んでる久保ちゃんの腰にぎゅっとくっついてる…、その言いワケみたいにそう言うと久保ちゃんが…、 「じゃ、暖房つけたら?」 …って言ったけど、つける気があるなら最初から抱きついてない。 だから、ごにょごにょと背中で電気代がもったいないとかそんなコト言って、もっとあったかくなるようにくっつく。そしたら、久保ちゃんが手に持ってた新聞を床に置いて、俺を腰にくっつけたままで後ろを振り返った。 「どうせなら、後ろだけじゃなくて他もあっためてくんない?」 「イヤだっ、俺様はあっためてんじゃなくて、あったまってんのっ」 「けど、そうやってると鳥の巣の親鳥みたいに見えなくもないし?」 「…って、なんだよソレっ」 「なんとなく、お前が抱きしめてんのがタマゴなら生まれそうだなぁって思って…」 「ぶ…っ、なんで俺がタマゴあっためなきゃなんねぇんだよっ。それに久保ちゃんはもう生まれてんじゃんっ」 「うん…、まぁそうだけど…。こんな風にあっためてもらえるなら、もっかい生まれてくるのも悪くないかもね?」 そう言った久保ちゃんも、ぎゅっと抱きついてる俺もちゃんと生まれててタマゴのカラの中にはいない。けど、久保ちゃんの言ってるイミがなんとなくわかるような気がして、後ろから抱きしめてる腕を離す…。 そして俺に向かって伸びてきた、あったかい腕の中におとなしくおさまった。 「じゃあ、久保ちゃんをあっためてる俺はどーなんだ」 「それはもちろん…、俺があっためてあげるよ…」 「だったらさ…。もしも、俺が久保ちゃんをあっためて、久保ちゃんが俺をあっためるんだとしたら…」 「うん?」 「もしかしたら、同時に生まれちまうかもしんねぇな…」 俺がそう言いながら久保ちゃんの背中を…、ぎゅっとあたためるように抱きしめる。 すると、久保ちゃんも同じようにぎゅっと抱きしめてきて…、 腕やカラダだけじゃなくて、あったかいのが胸ん中に広がってく気がした。 俺らはもう生まれてて…、タマゴのカラの中にはいない…。 けど、もっかい生まれて来ようとしてるみたいに、俺と久保ちゃんの生まれる世界を抱きしめるみたいにぎゅっと抱きしめると…、 体温が変わらないのは冬眠しないってそれだけじゃなくて…、こんな風に大事な何かを…、大切なヒトをあっためるためなのかもって…、 ぎゅっとぎゅっと…、久保ちゃんを抱きしめてるとそんな気がした。 「ねぇ、時任」 「なに?」 「そんなに抱きしめてると…、ホントに後悔するよ?」 「しねぇよ、絶対に」 「ホントに?」 「そう言う久保ちゃんこそ、後悔すんなよっ」 「しないよ、絶対に…。お前がココにいてくれるなら、何一つ後悔することなんてないから…」 抱きしめ合って…、あたため合って…、 体温が少しずつ上がってきて…、けれどそれもちょうどいい温度で…、 すごく気持ちよくて…、ずっとこうしてたい温度で…。 そのぬくもりの中に溺れるように、俺はゆっくりと目を閉じた。 |