いしや〜きいも〜、やきいも〜♪ いしや〜きいも〜…、ほっかほか〜…♪ 秋と言えば読書の秋っ!!とかつって、さっきから床に寝転がってマンガ読んでたけど、ベランダの窓の下の方から聞こえてくる声を聞くと、すぐに読書の秋が食欲の秋に変わる。しかもっ、マンガは明日も読めるけど、ヤキイモ屋が明日も来るとは限らなかった。 でも…、四階から一階に降りんはかなりメンドい…っ。 けどっ、なんかマジで腹がへってきたっっ。 ああああっ、でもこうしてる間にもヤキイモ屋が遠ざかって行くっっ!!! くそぉっっっ!!なんでココは四階なんだぁぁあぁぁっっ!!! なーんてコトを思いながら俺がマンガを眺めつつゴロゴロと転がっててると、玄関が開く音とただいまーという声が聞こえてくる。けど、まさかそんな都合のいいことあるワケねぇよなっ、とか考えると玄関から俺のいるリビングに続くドアが開いて…、 アヤシイ茶色い紙袋を持った久保ちゃんが入ってきたっっ。 「おっ、おかえりっっっ!!!」 久保ちゃんが持ってる紙袋以上にアヤシイ感じで、フツーにおかえりって言ったつもりが声がうわずってる。だから、ちょっと焦って歌わなくてもいい鼻歌なんか歌いながらマンガを読み始めると、久保ちゃんが紙袋をいっつもメシとか食ってるテーブルに置いた。 けど、紙袋の中身のコトを俺に言おうとしないっっ。 なんとなーくっ、いい匂いがしてる気もすんだけど、中身を見るまでは良くわかんねぇし…。でも、マンガ読むのをやめて袋にヤキイモが入ってるどーかって見に行くってのもなんか…、ガキみてぇだし…っ。 だぁぁぁっ、でも激しく気になるっっ!!!!! うーん、やっぱ…、気になるモンは気になるし…。 ガキでもなんでも袋ん中をのぞいてみるしかねぇよな〜。 とか思いながら、チラリと久保ちゃんの方を見ると、久保ちゃんはビニール袋の方から出したセッタを吸おうとしてる。だから、マンガを読むのを止めてムクッと床から起き上がると、その隙をついて紙袋の中をのぞくことにしたっ。 けどっ、俺がのぞこうとした瞬間に紙袋がパッと目の前から消えて…、 耳元で背中にゾクゾクっとくるような低い声がした。 「さっきから、なにビクビクしてんの?」 「ぎゃあぁぁぁぁっ!!」 「…って、叫ぶトコロがあやしい」 「ぜっ、ぜんっぜんアヤシクない」 「ふーん、そう」 「とか言いつつ、俺に隠し事してんのもあやしいのも久保ちゃんじゃねーの?」 「なんで?」 「な、なんでって…、別に理由はねぇけど…」 耳元でアヤシク囁いた久保ちゃんに俺が耳を押さえながらそう叫ぶと、久保ちゃんはなぜかじーっと俺の顔を見る。だからっ、なっ、なんなんだっ!?と思いながら、俺も久保ちゃんの顔をじーっと見てると…、耳に生暖かい空気がっ!!! 「み、耳に息吹きかけんなっっ!!!」 「もしかして、耳でカンジちゃった?」 「か、カンジるって何をだよっ」 「うーん、そうねぇ。今だったら秋とか?」 「はぁ?秋ぃぃ?」 「ほら、秋になると言うデショ。読書の秋とか食欲の秋とか…、性欲の秋とか?」 「…って、勝手にアヤシイ秋を作ってんじゃねぇぇぇっ!!!」 ガツッ!!! 俺は秋を満喫しようとしているセクハラ親父の頭を軽く殴ると、その隙をついて気になってる紙袋を開けて中身をみる。そこにはたぶん俺の性欲…、じゃなくてっ!!食欲の秋が入っているはずだったっ。 けど、袋の中身を見た瞬間…、俺の肩がガックリと落ちる。 袋の中に入ってたのは、ほっかほかのヤキイモじゃなかった。 「どしたの? さっきから落ち着かないみたいだし、元気もないみたいだし?」 「・・・・・べっつに何でもねーよっ」 久保ちゃんにはそう言ったけど、なんとなく当てが外れて気が抜けてる…。 すでにヤキイモ屋はどこかに行っちまってるから、今から買いに行くのはムリだってのはわかってんだけど、食えないとわかると無性に食いてぇのはなんでだっっ。あーあ、こんなコトなら四階だけど、ヤキイモ買いに走って行っときゃよかったっ。 食欲の秋を満喫できなかった俺は、茶色い紙袋を見ながらため息をつく…。 そしたら、俺の頬になんか…、あったかいモノが当たった…。 「ま、何があったのかは知らないけど、コレでも食べて元気出しなよ」 そう言いながら、久保ちゃんが俺の頬に押し付けてるモノ…。 こ、この匂いっっ、そしてこのぬくもりはっ!!!! ヤキイモ〜〜〜っ!!!! 食欲の秋のぬくもりにココロの中でバンザイした俺は、久保ちゃんの手からヤキイモの入った袋を受け取る。けど、口元が笑ってるトコがなーんかすっげぇアヤシイっっ!! ぜっったいっ!! ヤキイモ屋が通ったのを俺が知ってて、食いたがってるのわかってて隠してたに決まってるっ!!でも、袋を持ってソファーに座ってヤキイモをパクっと食った瞬間に、なんかすっげぇあったかくてウマくて…、ま、いっか…って思った。 「久保ちゃん…」 「ん〜?」 「なんで、ヤキイモ買ってきたんだ?」 「マンションに入ろうとしたら声聞こえてきたし、なんとなーくお前が食いたがってるような気がしたから買ってきたんだけど?」 「ふーん…」 「もしかして、違ってた?」 「・・・・・・違ってない」 「そ、良かった」 「・・・・・・うん」 ソファーの隣に座ってきた久保ちゃんに袋の中からもう一個のヤキイモを渡して、それからまたパクッと食べる。そしたら、俺の横で久保ちゃんもヤキイモを食い始めた。 すると、外から吹いてきた風で窓ガラスがカタカタ鳴って、ヤキイモからそっちの方へ目を移すと、夏とは違った薄い白い雲が浮かんでるのが見える。だから、ヤキイモ食いながら雲を眺めて秋だよなー…っとか当たり前のコトを思って…、 そんな風にぼーっとしてると、横から浮かんでる雲みたいにぼんやりと呟いたカンジの久保ちゃんの声が聞こえてきた。 「実はヤキイモ買ったの、初めてなんだよねぇ」 「マジで?」 「マジで」 「もしかして、ホントはヤキイモ嫌いだったとか?」 「いんや、そーじゃなくて…。ヤキイモ屋の声聞いたらお前のカオが浮かんできたから買ったけど、そうじゃなかったら買わなかったなぁって、なんとなくね?」 「じゃ、あったかいしウマいし買って良かっただろ?」 「・・・・うん、そうね」 そんな風に話して…、またヤキイモ食って…。 別にただそれだけなんだけど、なんかスゴクうれしいカンジがして…、 でも、ソレを久保ちゃんに言おうか、どうしようかって迷ってると…、いきなり妙な音が部屋に響き渡る。その音を聞いた瞬間、ヤキイモ食ってた俺の動きが止まったっ。 プウゥゥゥゥゥ・・・・・・・・ ぎゃあぁぁぁっ!!!!! 美少年の俺様がっっ、ヤキイモ食ってオナラなんてあり得ねぇぇぇっ!!! しかもっ、なんか音でけぇしっ、サイアクっ!!! 自分のオナラを聞きながら思わずジタバタしちまったけど、久保ちゃんはへーぜんとしたカオでヤキイモを食い続けてる…っ。い、いつもみたいにからかわれんのはイヤだけど、何もなかったカンジにムシされんのも、なんか逆に気になるっっ!!! 頼むからなんか言えっ!!なんか言ってくれぇぇぇっ!! 俺がココロの中でそう叫ぶと、久保ちゃんがぼーっとヤキイモ片手に俺の方を見た。 「これがホントのクサイ仲…、とか?」 「さりげなく笑いながら、どっかで聞いたコトあるようなセリフ言ってんじゃねぇぇっ!!それに俺様のオナラはクサくなーいっっっ!! 」 「そう?」 「…ってっ、匂うなよっ!!!」 「匂いは並?」 「な、並ってなんだっ、並ってっ!美少年な俺様のオナラはバラの香りだっつーのっ!!」 「へぇ、そうなんだ?」 「そうに決まってんだろっっ!!!」 俺様のオナラはバラの香り…っっ!!! 俺がそう言い切って、またヤキイモを食い始めると久保ちゃんが肩を震わせて笑い出す。だから、そんな久保ちゃんを軽くバシバシ叩くと、久保ちゃんはバラの香りな俺様にキスしてきた。 ヤキイモとオナラと…、秋の空と…。 俺と久保ちゃんは秋を満喫しながら、もしかしたら前よりも、もっとクサイ仲になったのかもしれない。なーんて、ギャグみたいなホントの話…。 薄い白い雲の浮かぶ秋の中でしたキスは、やっぱ秋の味がした。 「やっぱり…、秋は満喫しなくちゃね?」 久保ちゃんがそう言った次の日、トイレの切れてた芳香剤が前のラベンダーからバラの香りになってて、思わずぶっと吹いちまったけど…っ。一人じゃなくて二人の秋は…、白くて薄い雲の浮かんだ空みたいに気持ちよくてあったかかった…。 |