好きなヒトと手を繋いだら、いいコトなんて何もなくてもうれしくなる。 好きなヒトとキスしたら、驚いたりしてなくてもドキドキする…。 そして、好きなヒトと抱き合ってカラダを繋げたら、好きだってキモチも触れた部分も何もかもが熱くてカラダもココロも焼け付きそうになる。カラダもココロも焼け付きそうな想いでキモチでいっぱいで…、他には何も考えられなくなって…、 けれど一番、胸の中に好きなキモチだけが詰ってるのを感じるのは、なぜか腕を伸ばして…、ただ優しく抱きしめ合って目を閉じてる時だった。 「時任・・・」 床に座ってテレビを見てたら、そっと小声で名前を呼ばれて横に座ってきた久保ちゃんに抱きしめられる。でもそれ以上は何もして来なくて、ただぎゅっと久保ちゃんは俺を抱きしめてた…。 だから、なんかあったのかなとか…、そんな風に想ったけど…、 抱きしめてくる腕が優しければ優しいほど、胸の中に何かが詰まってきて何も言えなくなる。名前を呼ばれて優しく抱きしめられてうれしいはずなのに…、胸に詰っていく想いが苦しくて…、 名前を呼んでくれた久保ちゃんに、笑いかけたいのに笑い損ねて唇がまるで泣きそうになってるみたいに歪むのがわかった。 何も哀しいコトなんて哀しいコトなんてないのに、時々、抱きしめられると好きだってキモチが言葉じゃなくて涙になりそうになって…、それがなぜなのかはわからないけど、抱きしめられるたびに胸の奥から生まれてくる想いがココロを締めつけてくる・・・。抱きしめてくる腕の優しさが切なさに変わっていく気がして、俺が苦しそうに胸を抑えると…、 久保ちゃんがそれに気づいて腕を離そうとした…。 けど、切なくて泣きたくてたまらないのに腕が離れていくのはもっと切なくて泣きたくて嫌で…、俺は離れていく久保ちゃんの腕を掴む。すると、久保ちゃんは少し困った顔をして、ぎゅっと腕を掴んで離さない俺を見た…。 「どしたの? もしかして何かあった?」 「それはこっちのセリフ…、だろ?」 「さぁ…、どうだろうね?」 「なに聞いたって、そーやっていっつも誤魔化してばっかじゃん…。たまにはちゃんと答えろよ…」 「うん、だから…、ちゃんと答えてるデショ」 「いつ、どこで?」 「今、ここで…、言葉じゃなくカラダでだけどね」 抱きしめてくる腕はあたたかくて優しくて…、そう言って耳元で好きだよって囁いた声も同じようにあたたかくて優しくて…、 それにしがみつくように背中に回した手に無意識に力を入れかけたけど、すぐハッと気づいて入れかけた力を抜く。そして目の前にある肩に額を押し付けて、そこに染み付いてるタバコの匂いを嗅いだ…。 ずっと…、ずっと抱きしめていたいけど、優しさにぬくもりにしがみつきたいワケじゃない。だから、俺もしがみつかずに言葉じゃなくてカラダで腕で…、好きだって大好きだって伝えるように抱きしめた。 「久保ちゃん・・・」 「ん?」 「もうちょこっとだけ…、このままでいいか?」 「いいよ…。お前が望むだけ…、俺が望むままにこのままでいるから…」 「・・・・・うん」 熱さよりあたたかさが…、想いがぬくもりが欲しくて伝えたくて…、 抱きしめられながら抱きしめた背中はどんなに涙が零れ落ちそうになっても、しがみつかないで抱きしめていたい…。 そうして抱きしめ合いながら目を閉じると、久保ちゃんしかカンジられなくなって…、 ドアを開けて外に出ればヒトがたくさんいるのに、まるでこの世界に二人だけしかいないような気がした…。 「時任…、泣いてるの?」 「泣いてない…。そういう久保ちゃんは?」 「泣いてないよ」 「・・・・・うん」 「けど、こうしてると泣きたいくらい…、ホントお前ってあったかいよね…」 そう言った久保ちゃんの唇が軽く目を閉じた俺の目蓋に落ちて…、それがくすぐったくて少し笑うとちょっとだけ目じりに涙が滲む。そしたら目蓋に落ちた唇がそれを優しくさらってくれて、それ以上、目じりに涙は滲まなかった…。 どんなに優しく抱きしめても優しい腕で好きなキモチを伝えても…、いっぱいになってる好きなキモチは、たくさん過ぎていっぱい過ぎて…、 なかなか優しく上手く伝わってくれなくて…、それが苦しくて切なくて…、 けれど、抱きしめ合ってると胸の中にある想いが、交じり合って混ざり合ってあたたかく優しくなっていく気がした…。 「もうじき…、夏だな…」 久保ちゃんの背中を抱きしめて少し目を開けてみた空があんまり青かったから、そんな風に言って…、今年は一緒に海に行きたいとか花火したいとか色々考えて夏が来るのを楽しみにしながら…、 優しく抱きしめてくれてる腕のあたたかさをカンジて…、 二人で一緒に迎える熱い夏を想いながら・・・、俺はまた目を閉じた。 |