朝が来てっていうか…、目が覚めたのが昼だったとしても…、 アクビとか伸びしながら窓から外を見た時、雨の日よりも晴れの日の方がちょっとだけ気分がいい。そーいうのって、なんかすっげぇゲンキンでタンジュンだけど、悪いよか良いに決まってっから、べっつにゲンキンでタンジュンにそれでいいって気ぃする。 だから、なぜとかどうしてとか考えるよか、ただおっきく伸びして…、 洗面所でカオ洗って、キッチンで焼いたトースト食いながら入れてあったコーヒーを飲んだ。 「久保ちゃん」 「なに?」 「今日、バイトは?」 「ナシ」 「ふーん…」 手にコーヒー持ってトーストをくわえて、先に起きてコーヒー飲みながらソファーに座って新聞読んでた久保ちゃんの横に座る。それから、床に落ちてたリモコン拾ってテレビをつけた。 けど、この時間だと見るっていうより、音を流してるカンジ。こんなカンジで音を流してんのは、部屋に一人でいたりする時の習慣っていうかクセみたいなもんだけど…、 今日はつけてるイミないから…、すぐにパチっと消した。 すると、テレビから流れてきてた音が消えて静かになる。 けど、完全に静かってワケじゃなくて、久保ちゃんが新聞をめくってる音が隣から聞こえてきた。 だから、その音を聞きながらトースト食ってコーヒーを飲む。 そして、また窓から見える空見てると、コレってなに日和ってヤツだろ…とか考えたりして…、 さっきから、ずっと新聞を読み続けてる久保ちゃんの方を見た。 「なぁ…、今日は用事とかないし、今からどっか行かねぇ?」 「ん〜、じゃあコンビニに行く?」 「…って、そーいうのじゃなくてっ!!」 「だったら、それより遠いゲーセンとか?」 「昨日も行ったっ!」 「あっそう…」 せっかく俺様がめずらしくどっか行こうって言ってんのにっ、久保ちゃんは新聞読んでてあんま聞いてねぇしっ、返事もすんげぇだるそうなカンジでムカツク〜っ!!! ゲーセンはまだいいとしてもっ、コンビニって何だよっ!コンビニってっっ!!ウチから徒歩何分だと思ってんだよっ!!た、確かにトーストの他に何か食いてぇとか思ったりはしてっけど、そういうのじゃねぇんだっつーのっ! とか、思いながら俺は立ち上がってコーヒーカップを近くのテーブルに置くと、今度はソファーの上に寝転がる。そして、俺様のながーい足をわざと久保ちゃんの読んでる新聞の上にドカッと載せたっ。 「もういい…っ、そこで一生新聞読んでろっ」 そうブツブツ言いながら目を閉じると、さっきまで見てた窓も空も見えなくなる。 ゲンキンでタンジュンに気分が良くて…、そんで同じように不機嫌全開になった俺はせっかく起きたのにこのまま寝ちまおうと思った。 ま、確かに…、俺もどこに行こうかって考えてもあんま思いつかねぇしっ、 どこかに行こうって考えてて言ったんじゃなくて、なんとなく言っただけだし…っ、 だから、気まぐれなコト言った俺が悪りぃんだけどさ…。 こっちを見てもくれない久保ちゃんを見るとムカツクけど、それと同じくらいガッカリっていうか…、どっか行きたいって思ってた気分も小さくなって消えてなくなる。良かった気分と一緒に小さくなって消えて…、後にはどんよりとした曇り空みたいなカンジが胸ん中に残った…。 読んでた新聞をグチャグチャにされてジャマされて…、久保ちゃん怒ってっかなぁとか思ってても俺は黙ったままでいる。それがなんでかなんてのも…、どっかに行きたいっと思った時とオンナジでわからなかった…。 いつだって…、気分も気持ちもゲンキンでタンジュンで…、 こんなことで晴れが曇りになって…、目を閉じてるとほんのちょこっとだけ雨まで降りそうになる。でも、ポツポツと曇り空から雨が降り出す前に、俺よりも体温の低い久保ちゃんの手が頭じゃなくて足を撫でてきて、俺は閉じてた目をパチっと開いた。 「なっ、なにヒトの足撫でてんだよっ!」 「足の爪伸びてるから、切ってあげよっか?」 「いいっ! 自分で切るっ!!」 「お前と俺の仲だし、そう遠慮しないでさ」 「つ、爪切るのにどんな仲もそんな仲も何もあるかっ!!」 「そう? 結構あると思うけど?」 「とか言いながら、マジで切ろうとしてんじゃねぇよっ!」 「あ、小指もけっこう長い…」 「ま、マジでちょっと待てってっ!!」 「ほらほら、じっとしてないと指まで切っちゃうかもよ?」 「ぎゃあぁっ、ストップっ、ストップーーっ!!!」 俺が叫んでも久保ちゃんはぜんっぜんっ聞いてくんなくて、手に持った爪切りでパチンパチンと器用に少し伸びてた俺の爪を切ってく。すると、切れた爪は俺がグチャグチャにした新聞の上に落ちていった。 俺はそれを少しの間だけ半身起こして見てたけど、なんとなく切られてるウチにちょっとずつ…、ちょっとずつだけど気持ち良くなってきてボスッとソファーに沈む。最初は足の爪切られんのが少し恐かったけど、慣れてくるとぜんぜん怖くなかった。 だから、騒ぐのをやめてじっとしてると、久保ちゃんはちょっと笑って爪を切る手を止める。そして視線を少しだけ上げてソファーに寝転がった俺のカオを見てから、また下を向いて爪を切り始めた。 「時任…」 「ん〜?」 「さっきの話の続きだけど…、どっかに行きたいってドコに行きたいの?」 「どこってそれは…」 「うん?」 「そ、そーいう久保ちゃんは、どっか行きたいトコとかねぇのかよ?」 「うーん、そう聞かれても俺はべつにないけど?」 「じゃあ今はしんねぇけど…、前に良く行ってたトコとかは?」 「うーん、前って言われてもそんなのないし、あっても忘れちゃったかも?」 「なんで?」 「さぁ?」 そう答えた久保ちゃんは、最後の爪を切り終わって爪切りと新聞を床に置く。でも、俺の足は久保ちゃんのひざの上に置かれたままだった…。 ホントはちょっと逆向きの方がいいかもとか思ってたけど、始めに足を乗せたの俺だし…、なんかすっげぇ逆になりづらい…。爪切ってもらって足はスッキリしたのになんか落ち着かない気分でいると、そんな俺に向かって久保ちゃんがおいでと手招きした。 でも俺はカラダを起こしかけたのに、すぐにそうするのをやめてそっぽ向く。そしたら、久保ちゃんは楽しそうに俺の足をくすぐり始めやがったっっ!! 「ほ〜ら…、時任〜・・・。どこに行きたいのか素直に言ってごらん?」 「とかってっ!!!こ、この状態で言えるかぁぁぁっ!!!!」 「ここらヘンとかどう?」 「ぎゃははははっっ!!」 「・・・・・じゃあココは?」 「そ、そこは・・・っ、あ…っっ!!」 「なら…、ここは・・・?」 「…って、どさくさに紛れてドコ触ってんだよっっっ!!」 俺がそう叫んで足でゲシッと蹴ろうとすると、いつもと同じぼーっとしたカオの久保ちゃんに足をつかまれる。その瞬間にもっとくすぐられんのを覚悟してぎゅっと目を閉じたけど、久保ちゃんは攻撃を避けるために掴んだだけでなんにもしなかった。 だから、閉じた目をおそるおそる開けてみると、こっちを見てた久保ちゃんとバチッと目が合う。その瞬間になんでかはわかんねぇけどヘンなカンジがして、俺はつかまれた足をぐいっと引いて久保ちゃんから取り返すと起き上がってソファーに座り直した。 「あのさ・・・」 「なに?」 「どっか行きたいつっても…、帰れる場所限定だかんな」 「うん」 「で、行く場所も二人で行ける場所限定っ」 「だったら…、たぶん・・・」 「たぶん?」 「たぶん、どこにでも行けちゃうかも?」 そう言った久保ちゃんの言葉を聞いた瞬間、なんとなく二人で部屋ん中にいるのが多くて…、行く場所つって思いつくのがコンビニとかゲーセンとかで・・・っ、あんまどっかに行った覚えがないワケが初めてわかった気がしたっ。それに気づいた俺は、小さく息を吐くとソファーに座ったまま頭をかかえる。 そして、まだ何も気づいてないかもしれない久保ちゃんを見た…。 二人で行ける場所も行きたい場所もいっぱいあるけど…、一人で行ける場所とか行きたい場所なんて一つもない…。だから、久保ちゃんがバイトじゃない時はほとんどウチにいてくれるから、俺はあんまどっか行きたくなんねぇし…、久保ちゃんももしかしたらだけど同じなのかもしれなかった…。 だから、俺らは二人で今日もウチにいる…っ。 久保ちゃんがいるから俺はウチにいて、俺がいるから久保ちゃんはウチにいるっ! ・・・ってことはっ、どこにも行けるのにどこにも行けねぇじゃねぇかっっ!!!! そんなバカバカしいコトに気づいた瞬間、ぼーっとこっち見てる久保ちゃんを残して俺はソファーからすくっと立ち上がると玄関に続くドアに向かうっ。そして、ガチャッと勢い良くドアを開けて振り返ると、ぼーっと俺の方を見てる久保ちゃんに向かって手招きしたっ。 「散歩に行くぞっ、ポチっ!」 「わんっ」 今日の天気予報は晴天で、降水確率ゼロパーセント。 天気が良くて気分も晴れっ。 時々、予報がはずれて予測してない雨が降ったり…、そんなコトもあるけど…、 俺と久保ちゃんはドアを開けて空を見上げる…。 すると俺らの上にある空は、ホントにどこまでも続いてて…、 その先には果てなんてないように見えた…。 |