タッラーリラリー♪ タータラッ…♪

 そんなケータイの着信音と一緒に、一瞬だけ頭の中が真っ白になる。けど、すぐにハッとして足を前に踏み出して、なんとか前のめりになった体勢を立て直した…。
 ぎゅっと…、汗ばんだ手でケータイを握りしめて…。
 それから、ちょっとバクバクしちまってる自分の心臓の音を聞きながら振り返ると、そこには小石っていうか…、小さいコンクリートの塊が落ちてる。もっと大きいと思ったのに、ケータイの音に気ぃ取られちまってる間につまづいたモノは見てみると、なんか意外に小さかった…っ。
 しかもケータイにかけてきたヤツは非通知でっ、俺をコケさせるためにかけてきたみたいにすぐに切ってやがるっっ! しかもなんかムカーっときた俺はさらに、気に入ってケータイにつけてたストラップの犬がなくなってんのに気づいたっっ!!

 「…ったくっ、なんなんだよっ!!」

 コケかけるし落とした犬は見つからねぇしで、ムカムカが倍増してきてそう叫んだら周りを歩いてたヤツらがこっちを向いて…っ、
 だから、あわててブツブツ言いながら何事もなかったみたいに歩き出す。
 でも、なんとなく落ち着かなくて、まだ心臓がちょっちバクバクしてた。
 ケータイが鳴って、ちょっと小石につまづいて…、
 ただ、それだけなのになんか…、その瞬間に楽しい気分とかそういうのを落っことしたみたいな気ぃする。そんなのはたぶん気のせいで、すぐに小石につまづいたコトも忘れちまうんだろうけど…、カツンとつまづいたカンカクが今はまだ足の先に残ってた。
 それはちょっとだけイヤなカンカクで、俺は切れて犬がいなくなったストラップを見る。そして、こんなコトで電話したら俺だったらぜってぇ怒るっっ!とか想いながら、メモリーに入ってる番号に電話した…。

 『はい?』
 「あ…、オレ」
 『今、外出中?』
 「…って、なんでわかんだよ?」
 『お前の声だけじゃなくて、他にも色々聞こえてくるから』
 「ふーん…」
 『で、何かあった?』
 「え?」
 『何かあったから、かけてきたんデショ? そーいう声してるし?』
 「・・・・・た」
 『ん?』

 「石につまづいてコケかけてっ、おまけにストラップが切れたっっ!」

 そう言いながら、だからなんだよっっ!と自分で自分にツッコミを入れる。けど、久保ちゃんは少しも怒らずにケガはなかったかとか大丈夫かとか聞いてきて…、俺がないって大丈夫だって答えるとよかった…って言った。
 ただ、ちょっと小石につまづいて…、ストラップの犬なくしただけなのに…。
 でも、久保ちゃんがよかったって言ったのを聞いたら、なんでかわかんねぇけど…、俺もよかったって想った…。
 そしたらコケかけた時に落としたモノが、ホントは落としてなかったんじゃないかって気がして…、ケータイ入れてたポケットの中をごそごそとさぐってみる。すると、さっき探した時はなかったはずなのに、ポケットの中に黒い小さな犬が出てきたっ!

 「・・・・久保ちゃん」
 『なに?』
 「あったっ」
 『あったって何が?』
 「犬っ! ストラップの犬がポケットの中にいたっ!!てっきりコケた時に切れたって思ってたけどっ、違ってたっ!!」
 『灯台下暗しってヤツね』
 「見つかってマジで良かった〜っ。コイツ…、店で見た時、なんか他のヤツと顔が違ったんだよな〜」
 『ふーん、それで一生懸命探してたってワケ。けど、俺には他のと違ってるようには見えなかったけど?』
 「久保ちゃんには見えなくても、天才で美少年な俺様にはちゃーんと違いがわかんだよっ」
 『…って、どこが?』
 「他のヤツより、コイツは目がタレてんのっ!」

 『・・・・・・・・なるほど』

 さっきつまづいたコトなんて忘れて俺が笑うと、ケータイの向こうから久保ちゃんが微笑んでるみたいな…、そんな気配が伝わってくる。その気配を感じながら歩いてるとまたコケそうになったけど、今度はぎゅっとケータイとタレ目の犬を握りしめてて何も落とさなかった…。
 でも、このままずっと歩きながら話してるワケにもいかなくて、ケータイを切ろうとすると久保ちゃんが呼び止めるように俺の名前を呼んで…、
 俺はマンションへと…、ウチへと続く道の途中で立ち止まった。
 
 『一人で帰れる?』
 「ちょっと石につまづいたくらいっ、大丈夫で一人で帰れるに決まってんだろっ」
 『ん〜、そうかもしれないけど、そうじゃないかもしれないし…』
 「なんだソレ」
 『さぁね?』
 「けど、やっぱ一人で帰んのはやーめたっ」
 『なんで?』
 「今から、久保ちゃんを迎えに行くっ」
 『・・・・て、雨降ってませんけど?』
 「だからに決まってんじゃんっ。晴れじゃなくて雨とか降ってたら、メンドくて迎えになんて行ってやんねぇっつーのっ」
 『ふーん、ホントに晴れの日だけ?』
 「ホントーにっ、晴れの日だけっ。だからっ、すぐに行くからそこで待ってろよっ!」

 そう言うと俺はクルッと歩いてたのとは逆の方向を向いて、そして俺のケータイに飛んで来てる電波を…、声を追うように歩き出す。雨なんて降ってない空の下を、カサもささずに久保ちゃんを迎えに行くために…。
 すると、久保ちゃんは…、

 「じゃ、雨の日は俺が迎えにいくから…」と言って小さく笑った。

 俺が晴れで久保ちゃんが雨で、そして曇りの日は二人で・・・、
 歩いてく先には、きっとまた小石があったりするんだろうけど…、
 何回コケてもジーパンをパンパンとはたいて立ち上がって、うれしいコトも楽しいコトも、苦しいコトも哀しいコトも…、色んなコトをいっぱいポケットに詰め込んで歩いてく。
 そしたら、きっとコケて立ち上がれなくなる日が来てもポケットの中に…、二人で握りしめ合ってる手ひらの中に何かが残るはずだから…。
 でも、その何かは苦しいとか哀しいとか、うれしいとかそんなのじゃなくて…、
 大好きなヒトを抱きしめる時の腕みたいで…、零れ落ちる涙を拭う指のような…、
 そんなあったかくて…、優しいキモチならいいなぁって…、
 
 ポケットの中のタレ目の黒い犬を握りしめながら…、想った…。

                            『小石』 2005.5.11更新

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