少しカサカサして・・・、乾いてる手・・・。 その手が目を閉じてソファーに寝転がってると、上から頬をゆっくりと撫でてくる。 そっと撫でられるとちょっとくすぐったかったりするけど、なぜか払いのける気にはならなくて、俺は起きてんのに寝たフリして目を閉じたままでいた…。 それはたぶん…、久保ちゃんの触れてくるタイミングが上手いせいだと思う。久保ちゃんが触れてくる時は、なんとなく一人でいたくない時だったり…、 ただ…、意味もワケもなく触られたい時だったりした…。 「ねぇ、時任」 「・・・・・・」 「もしかして寝てる?」 「・・・・・・・寝てる」 「そうなんだ?」 「うん…」 ホントに寝てるヤツは、自分で寝てるなんて答えない。 なのに、聞かれて思わず返事すると久保ちゃんは小さく笑ってソファーに座った。 すると、ソファーに寝転がってる俺の頭のすぐ上に久保ちゃんのひざがあって、そこに頭を乗せたい誘惑に負けそうになる。あったかい部屋のソファーで眠んのも、それだけで十分に気持ちいいけど…、久保ちゃんに触れてるともっと気持ちいい…。 そして…、触れてる時より触れられる時の方がもっと気持ちいいから…、 少しの間、ぎゅっと目を閉じてガマンしてたけど、やっぱ誘惑に負けて俺は久保ちゃんのひざに頭を乗せた。でも…、なんかひざに頭を乗せただけなのに…、触ってくれって言ってるみたいで顔が熱くなってくる・・・。 けど、何も言わずに膝枕してくれてる久保ちゃんは、そんな俺の気も知らねぇでセッタをふかして新聞を読み始めた…。 「うーん…、今日も何事もあるけど、何事もナシってとこかな…」 そんなワケのわからない呟きと…、ふーっとセッタの煙を吐き出す息が上から聞こえる。めくるたびにカサカサと音を立てる新聞の音が、やけに耳についてちょっとだけイライラした…。 気まぐれな久保ちゃんの指は、今は俺じゃなくて新聞を触ってる。今、読み始めたばっかだから当分は読み終わらないし、なんとなくマジで眠くなってきたから…、たぶん読み終わるよりも俺が眠る方が早い…。 そう思った俺は新聞をめくる音を聞きながらホンキで眠る体制に入ろうとしたけど、そのタイミングを狙ってたかのようにきまぐれな久保ちゃんの指が俺の髪を撫でた。 「ホント…、お前って猫みたいだねぇ…」 「うっせぇ…」 不機嫌なフリをしながら…、手を伸ばして久保ちゃんのひざに触れる。すると、まるでそれが合図だったかのように、髪を撫でてた指が下に降りて来て唇をゆっくりとなどるように触れた…。 そしたら、カサカサした手の感触がもっとリアルに感じられて…、皮膚と皮膚のこすれ合う感触がすごく気持ちよくて…、 少し唇を開くと…、濡れた感触が上から降ってきた。 俺の唇からも久保ちゃんの唇からも声は出はなくて…、ただ感触と同じ濡れた音だけが耳と部屋に響いて久保ちゃんの手のひらが俺のカラダを撫でていく…。ゆっくりと何かを確かめるように触れてくる久保ちゃんの手は少しカサカサしてて…、それからタバコの吸い過ぎで指先がちょっと黄色くなってた…。 でも、絶対にこの手じゃなきゃ気持ちよくなれない・・・。 そんな風に久保ちゃんにキスされながら、触られながら思うのは…、 たぶん好きって…、そういうコトなんだろうってなんとなく思った。 「久保ちゃんの…、手ってさ・・・」 「ん?」 「いつも少しカサカサしてる…、よな」 「もしかして、カサカサしてるのキライ?」 「・・・・キライじゃない。キライ…だったら、触らせてない…。だから、そう…、じゃなくて…」 「うん?」 「目ぇつむってても、久保ちゃんの手だってわかるって…」 「カサカサしてるから?」 「それもあるけど…、他の理由もある…」 「じゃ、他の理由は何?」 「それは・・・、ぜったいに・・・」 「ぜったいに?」 「ぜっったいにっ、教えてやんない…っっ」 俺がそう言うと久保ちゃんはもっと俺に触れてきて…、俺と久保ちゃんの皮膚がもっと重なってこすれ合っていく…。こんな風にどんなに触れ合っても皮膚をこすり合わせても…、俺は俺で久保ちゃんは久保ちゃんだけど・・・、 触れ合ってこすれ合った部分から、俺らの間の境界線が壊れていく気がした…。 だから、ホントはそんな気がするだけで何も壊れてなんかないのかもしれなくても、カサカサした手の感触をカンジながら・・・、 境界線を壊すように抱きしめあってたい気がした…。 触れ合ってこすれ合って・・・、交じり合って混ざり合って・・・、 死が俺らを…、分かつコトができなくなるように・・・。 |