「やっぱ…、日も暮れてきたしそろそろ帰ろっかな…」

 一人で行ってたゲーセンから出たら、西の空がすっげぇ赤くなってて…、
 これからもうちょっと先のゲーセンにも行ってみようかって思ってたのに、それを見てたらなんとなく帰りたくなってマンションに向かって歩き出した。
 青い空を見てるとどっかに行きたいって想うけど、赤い空を見てると帰りたいって想ったりする。そーいうのってコドモみてぇだけど、帰り道を歩きながら赤い空を眺めて…、それからちょっとだけ伸びをしてみたらスゴク気持ち良かった…。
 今日は格ゲーの対戦も三人抜きしたし、クレーンも景品取れたし…、帰り道を歩く足も軽くて俺は夕焼けの空ばかりを眺めながら歩く。そしたら、ちょっち人にぶつかりそうになって視線を下に戻したけど、ビルも街も空と同じみたいに赤く染まってた…。
 
 「今日はバイトつってたし、たぶんまだ帰ってねぇかも…」

 今度は空じゃなくて赤く染まってる街を眺めながらポケットに入ってるケータイ出して…、何もしないでまたポケットに入れたけど…、
 夕焼けがすっげぇキレイだから、なんとなく久保ちゃんも夕焼け見てるといいなってちょっとだけ思った…。
 一人で自分の影踏みながら歩いて、また空を眺めて小さく息を吐く…。そうしながらしばらく歩いてっと、さっきからずっと付いて着てる足音が耳についた。
 正確にはわかんねぇけど、足音は良く行く本屋の辺りから付いて着てる。でも、その足音は聞き覚えのある音で…、だからちょっと楽しい気分になりながらタイミングを計ってバッと後ろを振り返ってみた。

 「久保ちゃんって・・・・・、あ、あれ?」

 絶対に聞き間違いじゃないって思ったから振り返ったのに、そこには久保ちゃんもそれらしいヤツもいない…。不思議に思って良くチキンを買いに行くモスから漂ってくるウマそうな匂いを嗅ぎながら、もっかい辺りを見回してみたけど…、やっぱ怪しそうなヤツは見当たらなかった。
 見当たらないってことは聞き間違いってヤツで…、でもそれがわかってもちょっち納得がいかない。けど、モスの匂いに刺激されて空いてた腹がグーッと鳴り出しちまったから、少し唸って首をかしげながら歩き出した。
 モスチキンを買いたくても、ゲーセンで使っちまって金がない…。
 それって自分のせいってヤツだけど、腹が鳴った瞬間にちょっとだけいい日でラッキーな日がアンラッキーになった。

 「くそぉ…、なんかマジでハラ減ってきた…」

 さっきまで足が軽かったのに、ハラが減ったせいで重くなる。でも、それはチキンのせいだけじゃないかもって…、夕焼け空を見上げながらたくさんの足音と一緒に聞こえてくる自分の足音を聞きながら思った…。
 自分の足音を聞きながらまた帰るために歩いて歩いて…、そうしてると赤い夕日が顔にも当たってくる。けど、その日差しは昼間よりもずっと柔らかかった…。
 朝も昼も夜も、そして夕方も同じ一日の中にある時間で…、
 でも、夕焼けが空を赤くしている日の夕方は他よりもちょっとだけ優しいカンジがする…。夕方の時間は夕日と一緒にすぐに消えちまうから、ちょっとだけ優しくて…、それからちょっとだけ寂しかった…。

 「これっくらい夕焼けしてると、明日もやっぱ晴れだよな…」

 そう言いながら赤く染まった道でつまづきかけた小石を蹴ると…、近くから猫の鳴き声が聞こえてきて…、その声を聞いてるとまた後ろから聞き覚えのある足音が響いてくる。何個か角を曲がっても付いてくる足音は、今度こそ間違いなく久保ちゃんの足音だった。
 だから、また久保ちゃんがいるのを確認するためにバッと後ろを振り返ってみる。けど、またそこに久保ちゃんはいなかった・・・・。
 しかも、俺の後ろには久保ちゃんどころか誰もいない…。とっさに曲がってきた角に戻って周囲をぐるっと見回してみたけど、やっぱり誰もいなかった…。
 
 「も、もしかして…、足音は久保ちゃんっぽいけど、美少年な俺様をおっかけしてるストーカーだったりして…」

 誰もいない道を眺めながらジョーダンでそんなコト言ってみたりして…、でも言ってるウチにだんだんマジっぽくなってくる…。べつにコワイとか思ってるワケじゃねぇけど、夕日が沈んできて周りが暗くなってきてるコトに気づいたら、いきなり優しいカンジが消えて風景もさっきと違って見えた…。
 自分の影を踏みながら散歩さがって、それから一気にマンションに向かって走り出す。すると、さっきまで誰もいなかったはずなのに、後ろから俺を追いかけてくる足音が聞こえてきたっっ。
 振り返ってみようかと思ったけど、また誰もいなかったらなんかマジ怖ぇ…。
 だから、とにかくマンションか近くのコンビニまでたどりつくために、俺は振り返らずに全速力で走った。
 でも、すっげぇ早く走ってんのに後ろの足音が消えない…。ちょっち焦りながらスピードを上げてみたら、後ろのヤツもスピードを上げてきたっ。

 「うわぁぁあっっっ! コッチに来んなヘンタイっっ!!」

 ぜっってぇっ、後ろにいんのはストーカーか変質者でしかも俺様を狙ってるっ。だから、後ろにそいつをくっつけたままマンションに帰れなくて、俺は見えてきたコンビニ入ろうとした。
 けど、その前に後ろから手が伸びてきて俺の腕を掴んできて…、振りほどこうとしたけど力が強くて出来ない。絶体絶命のピンチに陥った俺は、渾身の一撃で後にいるストーカーに回し蹴りを食らわせたっ。

 「これでも食らえっ!!ヘンタイ野郎っっ!!」

 後ろのヘンタイ野郎に蹴りを入れると、それが見事にヒットして低いうめき声が聞こえた。け、けど…、そのうめき声はやっぱり足音と同じように聞き覚えのある声で…、俺の額に冷たい汗が流れた…。
 俺が蹴ったヘンタイは倒れてはなかったけど、少し屈み込んでわき腹の辺りを押さえてる。だから、恐る恐るソイツの方を良く見てみたら…、やっぱりすぐ目の前に見える頭のつむじも着てる服も見覚えがあった…。
 「・・・・・・く、久保ちゃん?」
 一歩、二歩…、冷汗をかきながらゆっくりと後ろに下がって声をかけてみる。そしたら蹴りを入れられたヘンタイは…、目を細めながら俺の方を見て微笑んだ。
 「ねぇ…、時任」
 「な、なに?」
 「お前が食らえヘンタイって言って蹴り入れて、その蹴りを俺が食らったってコトは俺がヘンタイってコトだよねぇ?」
 「うぅっ…、べ、べつに久保ちゃんがヘンタイって言ってるワケじゃなくて…、ちょっとカンチガイしただけだって…」
 「ふぅん…、そう…」
 「く、久保ちゃん…、なんかマジで目ぇすわってんぞ」
 「・・・・・・・実家に帰らせてイタダキマス」
 「ぎゃあぁぁっ、待てっ、実家って久保ちゃんのウチはここだろっ!!」
 「なら、家出」
 
 「うわぁあぁっ!! マジでゴメンっっ、俺が悪かったってっ!!!」

 俺にヘンタイと間違われた久保ちゃんは、マンションとは逆方向に歩き出そうとする。だから、俺はあやまりながら久保ちゃんの身体に思い切り抱きついてそれを止めた。
 けど、俺よりも久保ちゃんの力の方が強くて止められない。俺は久保ちゃんにくっついたままでズルズルと引きずられて、強引に抱きついてる腕を外されそうになって…、だから家出されたくなくて、もっとぎゅっと久保ちゃんに抱きつく。
 そしたら、空いてる腹に力が入って、グ〜〜ッと情けない音が鳴った…。
 すると、家出しようとしていた久保ちゃんの動きがピタッと止まって、どうしたのかって不思議に思ってると抱きついてる腕から震えてるのが伝わってくる。だから、泣いてんのかと思って下から久保ちゃんのカオを見上げたら、久保ちゃんは肩を震わせながら笑ってた。
 「ひ、ヒトが必死に引きとめてんのにっ、なに笑ってんだよっ!!」
 「・・・・・・・・」
 「久保ちゃんっ!!」
 「ホント…、腹空かせてるのに必死に引き止めてくれてアリガトね」
 「とか言いながら、笑ってんじゃんっ!」
 「時任クンって、やっぱりカワイイなぁって思って」
 「あ、頭撫でながらカワイイとか言うなっ!!」

 「なら、これアゲルから許してくんない?」

 そう言って久保ちゃんが俺の前に差し出したのは、俺が食いたいと思ってたモスチキンですっごくいい匂いがする。そしたら、その匂いに刺激されて腹がまたグーッて鳴って、また久保ちゃんに笑われた。
 もう家出する気はないみたいだし、笑ってる久保ちゃんにムッとしながらそれを持ってウチに帰ろうと思ったけど…、
 チキンのいい匂いをかいでると、ふと帰り道にモスがあったのを思い出した。
 「こ、これって…、モスチキンだよな?」
 「うん」
 「・・・・って、あれ? 久保ちゃんが俺の後ろにいたのっていつからだよ?」
 「いつからって、いつも行く本屋からだけど?」
 「でも、後ろ振り返っても誰もいなかったし…、さっきだってっ!」
 「それって振り返るタイミングが悪かっただけっしょ?」
 「それってどういうコトだよっ?」
 「お前が振り返った時、コレ買いにモスに入ってただけとか?」
 「じゃあ、曲がり角んトコで振り返った時はどうなんだよ?」
 「曲がり角? それってどこらヘン?」
 「たぶん…、二つ前くらい」
 「だったらネコかも」
 「はぁ?ネコ?」
 「そこらヘンにある小さな空き地に、黒ネコがいたんだよねぇ」
 「・・・・・もしかして俺が見た時、ネコ撫でてたとか?」
 「たぶんね」

 「だぁあぁぁぁっ! くっだらねぇっ!!! 走って損したっ!!」

 俺がそう叫んでガックリと肩を落とすと、久保ちゃんがまあまあと落ちた肩を軽く叩く。そしたらますます腹が減ってきて、俺は久保ちゃんの手からモスチキンを奪い取るように受け取るとマンションに向かって歩き出した…。
 ゲーセンを出た時は道に伸びる影は一人分だったけど…、今はウチに向かって帰っていく影は二人分になってる。それを見てから、また赤くなった空を見上げてると久保ちゃんも同じ空を見上げた。
 空には夕焼けがあって、地面には二人分の影があって…、それから手にはまだあったかいモスチキンある…。そういうのって別に変わったコトじゃないし、トクベツでもないけど、少しだけいい日じゃなくなりかけてた今日は…、

 やっぱりスゴクいい日になった…。

 モスチキン片手にマンションに入りかけたところで振り返って、ポケットに入れてたゲームの景品を久保ちゃんに向かって投げる。そしたら見事にそれをキャッチした久保ちゃんは、俺の方を見て優しく微笑んだ…。
 「モスチキンくれたから、ソレやる」
 「ライター取ってくれたんだ?」
 「べ、べつにソレ取ろうとしたんじゃなくてっ、偶然、取れただけだかんなっ」
 「はいはい」
 「腹へったから、早くウチでチキン食おうぜっ」
 「四日前のカレーと一緒にね?」

 「げっ…」


 久保ちゃんとウチに帰って、しばらくすると夕焼けは消えちまったけど…、
 夕日が沈んでも目の前で久保ちゃんが微笑んでくれてるのを見てると、夕焼けに似た優しいカンジがして…、ずっと眺めていたくなる…。でも、空いてた腹がいっぱいになると眠くなって眺めてられなくなったから…、
 赤く染まった空を眺めてた時みたいに…、ちょっとだけの寂しさも入ってこないように…、
 
 久保ちゃんにぎゅっと抱きつきながら目を閉じた…。

                            『帰り道』 2004.8.23更新
※このお話は私のミスで一度消滅しました…(涙)
 けれど、悲しんでいた私を助けてくださった方が、
 履歴に残っていたお話をメールで送ってくださった方がいてくださって…、
 それで、無事に復活して再びアップすることができましたvvvv(ノω・、)
 ドキドキバクバクして寿命が縮まりましたですが、
 人の暖かさが身に染みる…、そんな出来事でしたですvvvv
 私を助けてくださった方に、助けようとしてくださった方にvv
 
 心からのありがとうを・・・・・vv<(_ _)>

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