寄せては返す波が足を洗って、その感触が気持ちいいのか…、 何度も何度も…、波打ち際に走っては戻ってくる。 そんな時任の元気な様子を見ながら、俺は不健康にセッタをふかしていた。 海に来たのは時任が行きたいと言ったからで、しかもそれが突然で唐突だったから…、海についたのは昼じゃなくて夜…。 今行きたいって、時任がワガママ言って…、 明日じゃダメかって、俺がぼんやり聞いて…、 そしたら、時任がそう言っといて忘れんだろって頬をふくませて…、 それから、俺がふくれた頬を手でつまみながら忘れないよ、たぶんねって答えながら笑った…。 「久保ちゃーんっ、せっかく海に来たのになんでそんなトコにいんだよっ!」 「なんでって、濡れるからだけど?」 「夜だけどすっげぇ暑いし、そんなんすぐに乾くってっ!」 「でも、乾くまでは濡れてるデショ?」 「くっそぉっ!! そーいうヤツにはこうしてやるっ!!!」 なにをくやしがってんのかはわからないけど、時任はそう叫ぶと俺に向かって走ってくる。それを見てなーんかイヤな予感がするなぁとは思ってたけど、走ってくる時任があんまり楽しそうだったから逃げられなかった…。 海の家も何もない岩場の影に続いている小さな砂浜で…、 こんなトコでしかも夜になにやってんだろうなぁってつぶやいてても、時任が手ですくってきた海水を顔にかけられても…、 時任が楽しそうで笑ってるから…、なぜなんて難しい理由なんて少しもなくてもここに来たワケはそれだけで十分だった。 「タバコの火…、消えたんですけど?」 「そんなモンをこんなトコで吸ってっから、俺様がわざわざ海水くんで消してやったんだからありがたく思えっ!」 「はいはい、アリガトウゴザイマース」 「…って、ぜんぜんっ気持ちがこもってねぇっ!」 「そう? なら感謝の気持ちをわかるように全身で表現してあげるから、もっとこっちに来なよ」 「イヤだっ!」 「なんで?」 「どーせっ、ヘンなことする気だろっ!!」 「ヘンなことって?」 「そんなの俺が知るかっっ!!!!」 走ったりはしなかったけど、また波打ち際に戻っていく時任を追いかけるように歩いて…、そして靴を脱いで手に持って、押し寄せてくる波で足を洗う…。 頭上に熱く照りつける太陽はないけど、遠くから近くから響いてくる波の音を聞いていると…、その波と楽しそうに遊んでる時任を見ていると…、 今は本当に夏なんだなぁって当たり前のことを想った。 「帰りにどっかでスイカでも買って帰ろっか?」 「だったら、半分とかじゃなくて丸ごとなっ!」 「今あったら、スイカ割りできたんだけどねぇ」 「ぶ…っ、男二人でスイカ割りすんのかよっ」 「たまにはいんじゃない?夏らしくて」 「今だって二人で海に来てるしさ、十分に夏らしいじゃんっ」 「そうね」 「でもまだ足らない気ぃすっから、スイカぷらす花火な? 海でできねぇのは残念だけど、ウチのベランダで・・・・・っ」 ちゅ・・・。 「この続きもウチでね…」 足を波に濡らしながらしたキスは、塩辛い海水の味がして…、 そのまま、何度もキスを繰り返しながら熱い身体を抱きしめると…、 夏の匂いがした…。 |