五月から六月になって、それから梅雨になって…、
 ずっとジメジメしてる日が続いてたけど、今日はめずらしく涼しかった。
 昨日は雨が降ってたけど、それがウソだったみたいに晴れてて…、だからコンビニだけ行くつもりだったのに近くの公園まで歩いていみる。でもべつに行きたいって思ってたからじゃなくて、なんとなくってカンジだった。
 なんとなく公園まで行って、なんとなくブランコに座って…、コンビニで買った新発売のマンゴー味のアイスを開ける。それからアイスをかじりながら公園を見ると、遊んでるコドモが何人かいるのが見えた。
 
 「うー…、アイスはちょっち寒かったかも…」

 アイスをシャリシャリかじって、コドモの遊んでる声を聞きながら、そう言ったのは少し風が吹いてたせいで…、
 昨日の夜にも降った雨に洗われたみたいに青い空から、強くも弱くもないちょうどいいカンジに吹いてくる風に吹かれてると、アイスなんて食わなくてもいいくらい涼しくなってくる。その風はリビングのエアコンからの風と違ってて、流れてく白い雲を見てると深呼吸とかしたくなるくらい気持ち良かった…。
 でも、白い雲とか青い空とか見てると、ちょっとだけなんか物足りない気分になって…、風に吹かれて転がってくる置き去りにされてたサッカーボールを、ブランコから立ち上がって軽く蹴る。そしたら、サッカーボールは近くの鉄棒に当たって跳ね返って足元にきたから…、俺はボールをもう一回蹴った…。

 「やっぱ俺様天才っ」

 木に向かって跳ね返ってきた時と同じ力と方向に蹴ると、ボールは必ず足元に戻ってくる。それがちょっとだけ面白いカンジがして、アイスを食い終わった俺は何度も戻ってくるボールを鉄棒に向かって蹴った。
 何度も何度も…、一人で鉄棒に向かって蹴って…、
 けど…、そうやって同じことを繰り返すのに飽きてくると、公園で遊んでるコドモの声とか風に揺れてる木の音とかがやけに大きく聞こえてくる。そしてそれをなんとなく聞いてたら、ちょっとだけ右に蹴りすぎて、ボールはぜんぜん違う方向に跳ね返った。

 「あーあ…」

 思わずそんな声が出たのはボールを蹴るのには飽きてたけど…、やっぱ何回も続いてたから外れると残念な気がしたせいで…、
 でも、俺が違う方向に転がってくボールを目で追うのをやめようとした瞬間に、誰かの足元に当たって蹴られて、さっきみたいにちゃんと俺の所にボールが返ってきた…。

 「お前がココで遊んでるなんてめずらしいね…。もしかして、なにかあった?」
 「…って、べっつになんにもあるワケねぇだろっ。それにボールが転がってきたから蹴ってただけで、遊んでたんじゃねぇっつーのっ」
 「ふーん…、それにしては結構楽しそうに見えたけど?」
 「い、一体、いつから見てたんだよっ!?」

 「さぁ?」

 そう言っていつから見てたのか言わない久保ちゃんに向かって、足元に戻ってきたボールを少し強く蹴ったけど、蹴ったボールはあっさりと簡単に蹴り返される。だから、それにちょっとムッとしてまた蹴ると…、またボールは蹴り返されて俺の足元に戻って来た。
 それは俺が久保ちゃんに向かって蹴ってるから当たり前で…、やってるコトは鉄棒に向かって蹴ってた時とオンナジ…。でも、それから二人で意味もなく蹴ったり蹴り返したけど、鉄棒の時みたいに強さと方向は同じじゃなかった…。
 少し強くなったり高くなったり、ちょっとだけ外れた方向に行ったりしてて…、それをミスじゃなくてワザとしてる。なのに、正確じゃなくても蹴り返して欲しいって想ってるから、絶対に届かないカンジの場所には蹴らなかった…。
 揺さぶりかけるみたいにボールを強く高く蹴ると、久保ちゃんはそれに向かってジャンプしてヘディングで受ける。そしてチャッチしたボールを久保ちゃんが鋭く低く蹴ると、今度は俺がそれに向かって走った…。
 
 「くっそぉっ!!!」
 「そろそろギブアップ?」
 「んなワケねぇだろっ」
 「けど、息がかなり上がってるよ?」
 「うっせぇっ」
 「そんじゃ、これはどう?」
 「くうっ!!」
 「時任クン、ナイスチャッチ」

 「ざけんなよっ! それならこっちはこうしてやるっ!!」

  足元のボールを強く弱く、そして高く低く蹴るカンジは、なんとなく話してる時の声の調子にも似てて…、行っては帰ってくるボールのように言葉も言っては返って来る…。
 蹴って蹴り返して…、そうしながら話して返事して…、
 それを繰り返し繰り返ししている内に、いつの間にか物足りない気分はどこかに消えて…。公園を吹きぬけて行く涼しい風が…、さっきよりももっと気持ち良かった…。
 鉄棒に蹴っている時よりも何倍も走ったけど、その分だけ久保ちゃんと笑い合って…、
 走り過ぎて息が切れると、二人のちょうど真ん中で止まったボールを見てまた笑った。
 ただボールを蹴り合ってだけで…、ただそれだけのことで…、
 でも、二人で笑い合ってるとなんで公園まで来たのかがわかってくる。ココに来た時はなんとなくだと思ってたけど…、もしかしたらそれはコンビニで買ったアイスが一本だけだったせいかもしれなかった。

 「なぁ、久保ちゃん」
 「ん?」
 「コンビニにマンゴー味の新作アイスが入ってたけど、今回は当たりでうまかったぞ」
 「ふーん、じゃ帰りに買って帰ろ」
 「買うなら二本なっ」
 「けど、うまかったってコトはさっき食ったんじゃないの?」
 「二本目の方がうまそーだから食うっ」
 「そう? 一本も二本も別に味変わらないと思うけど?」
 「それでも食うっ」
 「また、アイスの食いすぎでハラ壊しても知らないよ?」
 「ヘーキだってっ」
 「なら、一緒に二本買って帰るとしますか?」
 「うんっ」

 そう言いながら歩き出したら、少しだけ強い風が吹いてきて砂が舞ってて目が開けていられなくなる。だから、風が収まるまでぎゅっと目をつむってると柔らかい感触が唇の上に降ってきて…、それからまだ風に揺らさせれてる木の音がするのに風がなくなった。
 抱きしめられてるのはすぐにわかったけど、風が吹いてる間だけはこのままでいたくて腕を伸ばして久保ちゃんの背中に手を回す。そしたら今度は風の音があまり聞こえなくなって、時計みたいに規則的に鳴ってる心臓の音が聞こえてきた…。
 でも、強く抱きしめると少しその音が早くなって…、それよりももっと俺の心臓も早くなってるカンジがする。風が止んですぐに久保ちゃんの腕の中から逃げ出したけど、唇にはキスした感触が残ってて心臓の音はドキドキしたままだった。

 「と、とっととコンビニにアイス買いにいくぞっ」
 「耳まで真っ赤」
 「うるさいっ、いちいち言うなっ!」
 「さっきの続きはウチに帰ってから…」
 「誰がするかっ!!!」
 「なんで?」
 「ま、まっ、まだ夜どころか夕方にもなってねぇだろっ」
 「ふぅん、夜ならいいってワケね」

 「…って、いいワケあるかぁぁっっっ!!」


 蹴られたボールも唇から声になって出た言葉も…、一人だったら吹いてく風みたいに吹き抜けるだけで返ってこない。それは当たり前のコトだけど、吹き抜けるだけの風は胸の奥まで吹きぬけてくカンジがした…。
 だから、人は一人では生きていけないなんて言葉のイミとかリクツを考えるよりも…、
 好きな気持ちを叫ぶように、お互いの存在を証明するように…、
 そこにいることを示すように君と名前を呼び合っていたい…。
 一緒にいることは二人でいるってコトは、ただ並んで歩くだけじゃなくて…、
 ただいまを言ったらおかえりを言うように、おやすみを言っておはようを言うように…、

 糸を紡ぐように言葉を想いを、二人で紡いでいくことだから…。

                            『サッカーボール』 2004.6.16更新

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