久しぶりに二人で外に出て、二人で買い物をした。 最近、わりと物騒になってしまったから、時任をあまり外に連れてくことができなくなってきてる。だから、ホントに久しぶりで、時任はかなりはしゃいでた。 「久保ちゃんっ、見てみろよコレ」 「ん〜、面白そうだね」 「だろっ?」 当分飽きなくてすむような、時任の好きなカンジのゲーム買って、時任の凝ってる好きなお菓子買って、たくさんたくさん時任の好きなモノを二人で買い漁る。 俺の懐はあまり暖かいってワケじゃなかったけど、喜んでる時任を見たら、そんなのはどうでも良くなった。お金はまた稼げはいいしね。 「久保ちゃん」 「なに?」 「こんなに買っちまって平気なのか?」 始めははしゃいでいた時任も、次第に増えていく荷物を見て心配そうな顔になる。 人に買わせてへーきな顔できない、そーいうトコ。 ホント、時任らしいよね。 「…俺、コレ全部返してくる」 「そんなコトしなくていいよ」 「べつにそんなに欲しいワケじゃないし」 「俺が欲しいんだから、いいんだよ」 「…久保ちゃん」 「うん?」 「ありがと」 時任は、社会生活っていうなら知らないコトが多いのかもしれないけど、人間としての常識とかそういうのは誰よりも知ってるし、ちゃんとわきまえてる。 俺は申し訳なさそうに礼を言った時任の頭を軽く撫でた。 「時任が一番ほしいものって何?」 俺がそう言うと、時任はきょとんとした顔をした。 「なんでそんなこと聞くんだ?」 「ん〜、欲しいモノあるなら、買おうかなぁって」 「店で金出して?」 「そう」 俺が時任にしてあげられるコトはほとんどない。 洗濯して、掃除して、飯作って…。 ケド、そーいうことも、時任が必要としてることだからできるってだけ。 やろうと思えばそんなことは簡単にできるんだから。 そんなことを俺が思ってると、時任がいきなり走り出した。 「時任?」 名前を呼んでも振り返らない。 俺はどんどん走っていく時任の跡を追いかけた。 「時任!」 まるで鬼ごっこでもしているかのように、時任は俺から逃げ続ける。 俺はそんな時任の姿を見失わないように走り続けた。 流れゆく景色、流れゆく音。 すべてが煩わしく思える。 時任と俺とを隔てるモノがあるとしたら、それを全部ブチ壊してしまいたかった。 息が詰まりそうで目眩がする。 次第に辺りは見慣れた風景になり、俺達が住んでいるマンションが目の前に見えた。 俺から逃げたワケじゃなかったらしい。 なんとなくホッとしながら、時任の待っている部屋の前まで走る。 到着すると、時任はドアの前で座り込んでた。 「どしたの? 時任」 俺がそう聞くと、時任は自分の膝の上に顔を埋めた。 「俺がほしいモノは金じゃ買えねぇし、売ってねぇから」 「それって、手に入らないモノ?」 「…久保ちゃん次第みたいなカンジ」 「俺が持ってるモノ?」 「・・・・・」 「時任がほしいなら、なんでもあげるケド?」 ホンキでそう思ってるからそう言ったのに、時任は怒ったような顔してる。 何か怒らせるようなコト言ったっけ? 俺が首を傾げてると、時任が座り込んだまま腕を伸ばして俺の襟首をつかんだ。 「なんで全然わかってくんないの?」 「時任?」 「俺はさ。たとえそれが何だったとしても、久保ちゃんが買ってくれたもんならうれしいし、久保ちゃんがくれたもんなら大事なのっ」 そう言いながら、時任は襟首をぐいっと引っ張って俺にキスした。 柔らかくて優しい感触が気持ちいい。 キスが終わって目を開けると、真っ赤になった時任の顔が見えた。 「全部、久保ちゃんじゃなきゃ意味ねぇんだよっ。わかったか?」 「なんとなく」 「なんとなくだとぉ〜。せっかく俺様からキスしてやったのにっ」 「うん、だからさ。わかるまでキスして、時任」 「もうしてやんないっ!」 「そんなケチなこと言わないでさ」 「いやだっ」 本当に欲しいモノってそんなに簡単に手に入るモノじゃない。 けれど、もし奇跡的にそれを手にしているとしたら、決してなくさないように。 運命なんて無粋なものにさらわれないように抱きしめていよう。 君という存在の重さを確かめながら…。 |