カラダがあたたかくなると、ココロまであたたかくなるって言うけど…、 ホントはそういうカンジがして、寒くないからカラダが楽だっていうだけで…、 もういつだったか覚えてもいない寒い冬の日に、一人で灰色の空を見上げながらそんな風に思ったような曖昧な記憶がある…。 その時はたぶん缶コーヒーを飲んでカラダはあたたかくなったはずだけど、あたたかさの効き目はすぐに冬の寒さに覚まされて切れる運命で…、 だから、カラダの温度でココロの温度まで決まるとしたら、冬は大変そうだなぁってなんとなく呟いて雪の降ってきそうな空を見上げてた…。 まるで雪が気温も体温も奪って…、すべてを冷たく覆い尽くしてくれるのを待つように…。 でもそんないつかの日の夢をめずらしく見てた時、なぜか寒空の下にいるはずなのにカラダの右半身がいきなりあたたかくなって…、それを不思議に思って目を開いてみると暗がりの中に灰色の砂嵐が見える。 その砂嵐がいつから目の前で流れ続けていたのかはわからなかったけれど、灰色の砂が流れ続けてるのは本日の番組放送を終了したテレビで…、 こんな風になる前は、いつものテレフォンショッピングをしてたということは覚えてた。けど、その時は俺の肩に毛布なんてかかってなかったし…、右半身もいつかの日の夢を見ていて違和感を微塵も感じなかったほど…、あたたかくなかったはずなのに今は違ってる。 毛布をかけてすぐにベッドに戻れば良かったのに、そのまま俺の横で眠りこんでる時任は…、もう一枚の毛布に丸くくるまって静かな寝息を立ててた。 「・・・・ありがとね」 眠ってる時任のカオを見ながら静かにそう言って…、ゆっくり肩を抱き寄せて同じように静かにゆっくり息を吐く。そしたら、あの日と違ってあたたかくなったのはカラダだけじゃなかった…。 あの日はわからなかったことが…、こんな風に腕の中に時任のカラダを抱きしめるだけで簡単にわかって…、 少し不思議なカンジがしたけど…、抱きしめてるカラダが雪が降り積もるのをふせいでくれてる。そして二人の間にある二枚の毛布が強く抱きしめてしまいがちな俺の腕から…、あたたかなカラダを守ってくれてた…。 ゆっくりと静かに抱きしめてたはずなのに…、凍えた腕はぬくもりを求めすぎてあたたかな眠りを壊そうとする。だから、もしかしたらこんな風にやわらかな毛布越しに、抱きしめてた方がいいのかもしれなかった…。 いつも…、いつまでも抱きしめていられるように…。 昨日から少し寒くて毛布に包まってるほど気温は低いけど、もう五月で…、もうじき梅雨になって雨が降るばかりで空を見上げても雪は降らない…。けど、このあたたかさを奪われないように…、毛布越しに時任を抱きしめながら目の前の砂嵐を眺めてた…。 ザーザーと流れ続けてる砂を…。 そこには砂のほかにはなにも写ってなかったけど、ずっと見続けてると胸の奥がザラザラしてくる。それはもしかしたら、あたたかな毛布の中に押し隠して…、殺してる独占欲とかエゴなのかもしれなかったけど…、 俺はなにも気づかなかったフリをして…、腕の中のあたたかさと優しさにまどろみながら…、ゆっくりと瞳を閉じて…、 そばにあったリモコンでテレビの電源をプツリと切った…。 誰よりも守りたいモノはこの部屋の中に…、このあたかな腕の中にあるから…、 もしも空から雪が雨が降り注いだとしても、このまま抱きしめ続けていられるなら寒さに凍えたりしない…。 だからあたたかな眠りをまどろみながら…、この時を今を抱きしめて…、 この夢を見続けていられるように、ずっとずっと眠っていたかった…。 毛布の中に押し隠して殺した乾いた砂のような想いに、君が気づかないように…、 だから深く深く…、もっと眠りが深くなるように時任の頭を優しく撫でて…、 そんな自分に苦笑しながら、それでもウソでも偽りでもいいから…、このあたたかさと優しさだけが抱きしめた腕から伝わればいいって想ってた…。 「好きだよ…」 それが…、それだけがたぶんすべてだから…。 |