「ただいまーって、あれ?」 コンビニにアイスを買いに行って戻ってきたら、やけに部屋ん中が静かな気がしてヘンだなぁって思ったけど…、リビングに入ったらすぐにワケがわかった。 出かける前に見た時は、本を読んでたはずなのに今はソファーに座ったままで久保ちゃんが眠ってる。だから、なーんとなく足音を立てないように気をつけてソファーに近づいて、久保ちゃんのカオをのぞき込んでみた。 いつもならどんなに静かに歩いても気配に気づいて目ぇ覚ますけど、今日はめずらしく眠ったままでいる。読みかけになってる本は腹の上あたりにあって、メガネもそこに置いてあった。 「自分の分も買って来いっつったクセに、帰ってくる前に寝るなっつーのっ」 小声でブツブツとそう言いながらコンビニのビニール袋からアイスを一個だけ取り出すと、そのままアイスを眠ってる久保ちゃんの頬にゆっくりゆっくりと近づけてみる。久保ちゃんがどんな反応するかなぁって、なんかすっげぇワクワクしたけど…、アイスが頬に触れるちょっと前で手を止めた。 それは最近、久保ちゃんがあんま眠ってないのを知ってたせいで…、 それともう一つは、ソファーに沈み込んでるカンジで眠ってて、すごく気持ち良さそうだなぁって思ったせいだった。 だから起こすのは止めてアイスは溶けないように冷凍庫に入れに行って、自分の分だけを持ってソファーのあるトコに戻る。それからべつにテーブルでイスに座って食っても良かったけど…、なんとなく落ち着かなくて久保ちゃんの足元に座った。 そうしてると近くから静かな寝息が聞こえてきて…、それを聞いてるとなぜか落ち着く。けど、そのカンジは一緒にベッドで眠ってる時と似てることに気づいたら、またちょっとだけ落ち着かなくなった…。 「・・・・なんかヘンなの」 カオが少し熱くなったのを誤魔化すみたいにそう言って、手にもってるカップアイスのフタをあける。それから中に入ってるアイスをスプーンですくって食べると、冷たくて頭にキーンときたけどスゴクうまかった。 久保ちゃんに買ってきたのはバニラで、俺が食ってるのはチョコ…。 イチゴにして正解だったなぁって思いながらもう一口食べて…、それからそばに落ちてたテレビのリモコンを取ろうとして手を伸ばす。けど、手を伸ばした瞬間に身体がぐいっと後ろに引っ張られた。 「う、うわっ…!」 驚いてとっさに後ろを振り返ったら、いきなり唇に柔らかい感触が上から降ってきて…、すぐに眠ってたはずの久保ちゃんにキスされてるってわかったけど、手に持ってるアイスが落ちるから暴れたりできない。俺がキスされながらムッとしてると、久保ちゃんはちょっとだけ唇を離して、「ちゃんと持ってないと落ちるよ?」って言って小さく笑った。 だから俺は、またキスされる前にアイスをすくったスプーンを口にくわえる。そしたら、手に持ってたアイスを久保ちゃんに奪われた。 「久保ちゃんのアイスは冷凍庫っ! だから、とっととソレ返せっ!」 「でも、俺のって何味?」 「・・・・バニラ」 「味見したらうまかったから、俺もチョコ味がいいんだけど?」 「あ、味見って、食ってねぇのにいつしたんだよっ」 「いつって、今に決まってるでしょ?」 「はぁ?」 「キスの味はチョコの味〜」 「そ、そんな味見の仕方すんなっ、バカっ!」 「お前が食ってるの見てたら、うまそうだったし…、ついね」 「…って、いつから起きてたんだよっ」 「ついさっき」 「とにかくっ、とっとと返せよっ、早く食わないと溶けんだろっ」 「うーん、ならチョコもバニラも半分ずつってコトにしない?」 久保ちゃんはそう言うと、俺の口からくわえてたスプーンを奪い取る。それから、そのスプーンで持ってるアイスを楽しそうにすくい取ると、更にムッとしたカオをしてる俺の口元に差し出した。 「ほら、口開けて?」 「そ、そんなハズいこと、俺様がするワケねぇだろっ!!!」 「ふーん、なら俺がぜんぶ食っちゃうけどいいの?」 「うっ…」 「はい、あーん…」 「ううっ・・・・・」 チョコレートアイスは買いにいけばコンビニあるけど、さっき行ったばっかなのに行くのはかなりメンドい。そう思って仕方なく俺が口を開くと、口の中にチョコの味と冷たさが広がった。 ココには当たり前に二人しかいないし、見てるヤツもいない。 でも、ヘンなこと言うからチョコ味を味わってるとさっきのキスを思い出すし…、どっかのハズいバカップルみたいだし…、 なんかカオが熱くなってきて耐えられなくなってきた。 だから、また口元に差し出されてるアイスを食うか食わないかって真剣に唸りながら悩んでると、アイスの乗ってるスプーンが俺の目の前で不自然に揺れた。 「な、なに笑ってんだよっ!!」 「笑ってないよ」 「ウソばっかっ!」 「ウソじゃなくて、時任クンてかわいいなぁって思ってるだけだし?」 「俺様はかわいいんじゃなくて、カッコいいんだってのっ!!」 「はいはい」 「やっぱ自分で食うから、とっとと返しやがれっ!」 久保ちゃんに向かってそう怒鳴ると、今度はちゃんと俺の手にアイスとスプーンが戻ってくる。あんまりあっさり戻ってきたから、なーんかなにかを企んでそうな気がしてアイスをスプーンですくいながら、ちらっと久保ちゃんを見ると…、 久保ちゃんは俺に向かって口を開いた。 「今度はお前が食べさせてくれるんデショ?」 「そ、そんなワケねぇだろっ!!!」 「自分だけ食べさせてもらっといて、ソレはずるいんでない?」 「食わせてもらったのは、久保ちゃんがムリやりっ」 「あーん…」 「ううう…、なんでアイス食うだけでこんな目にあわなきゃなんねぇんだよっ」 「それはたぶん…」 「たぶん?」 「俺らがバカップルだからかも?」 「そんなワケあるかぁぁぁっ!!!!」 俺がそう叫んでる隙に、スプーンにすくってたアイスは久保ちゃんに食われてた。でも、ココロん中でバカップルじゃないっ、違うって叫んでても、なんかこんな風にふざけ合ってんのが楽しくて、もう一個スプーンを持ってくる気になれない。 だから、またスプーンにアイスをすくって、それを久保ちゃんの口元に持ってくフリして自分で食って笑って…、それを見てケチって言った久保ちゃんに、今度はちゃんとアイスを食わせてやった。 「俺様が食わせてやってんだから、ありがたく食えよっ」 「はいはい」 「・・・・・・そんで、二人で半分ずつ食い終わったらさ。なんか眠くなったから…、ココじゃなくてベッドで寝るかんな」 「二人で?」 「・・・・うん」 「なら、今度は半分じゃなくて一緒にね?」 チョコアイスは半分になっちまったけど、笑い合いながら食べさせ合ってるとぜんぜん減ったって気がしない。それがなんでなのかって…、それははっきりとはわかんなかったけど…、 もしかしたら、一人で住むには広すぎる部屋も二人で暮したらちょうど良くなって…、二人で眠るには狭いベッドでも抱き合って眠ったらちょうど良くなるって…、 そういうことと同じのかもって…、アイスを食い終わって二人で抱き合って眠りながら想った…。 |