『ねぇ、久保田君の好みの子ってどんなタイプ?』 『ん〜、ネコっぽいコ?』 『へぇ、なんかちょっと意外な感じね』 『そう?』 『それじゃあ、他には?』 『他に?』 『そう他に』 『他に、ねぇ? なら、胸がでかいコとか?』 『・・・・・・・・ケダモノね』 抱きしめると暖かいモノと柔らかいモノ…。 たぶんそういうのが好きだったのかもって、いつ誰としかのかもわからない会話を思い出しながら想った。けど、ネコっぽいコって言っても自分の中でそういう理想みたいなイメージがあったワケじゃないし、その時は特に何も考えてなかったような気がする…。 だから、ただ抱きしめたらあったかくて柔らかくて、ネコみたいに丸くなって抱きしめられててくれるコがいいなぁって…、そんな程度だったのかもしれなかった…。 やわらかくてあったかかったらなんでも良かったなんてケダモノって言われてもムリないけど…、その時は間違いなく事実でホントのコトだったのかもしれない…。 「う…ん…、なに?」 「なんでもない」 「ふー…ん…、すぅ……」 「・・・・・・・なんでもないよ」 時計の針はとっくに昼の十二時を過ぎてたけど、時任は今も隣で眠ってる。 気持ち良さそうに静かな寝息を立てながら、俺と同じ毛布にくるまってた…。 ホントはもうバイトに行かなきゃならない時間で…、けどなんとなく時任の寝顔を見てると毛布から出られない。このままでいると確実にバイトに遅刻して、それからもっとこのままでいるとサボりになるから、時任と同じ毛布の中でどうしようかって思ったけど…、 そう思いながら近くにある柔らかい髪を撫でたら…、時任が小さな声で俺の名前を読んだから枕元にあった携帯の電源を切った…。 やわらかくて…、あったかい…。 毛布の中にいるとそうカンジるけど、そっと手を伸ばして時任を自分の腕の中に抱き込んだら…、あったかかったけどやわらかくはなかった…。 やせてるから抱きしめると骨が当たるし、男だからやわらかい胸もない。 けど、それでも抱きしめたくなるのはこのカラダだけだった…。 好みのタイプだって言ってたみたいにやわらかくなくても…、気づけばこんな風に腕を伸ばして抱きしめて腕の中に閉じ込めようとしてる。抱きしめれば抱きしめるだけ、もっともっと抱きしめたくなって…、 胸の隙間を埋めるように、強く強くいつも抱きしめすぎてた…。 あったかくてやわらかいモノが好きなのは愛情に飢えてるからだって、どこかで聞いたことがあるけど…、たぶんもらえる愛情ならなんでもいいってワケじゃない…。 やわらかくてあったかいなら…、なんでもいいってコトじゃない…。 でも、それがわかったのは目の前にある…、ちっともやわらかくないカラダを抱きしめた時だった。 「くぼちゃ…ん…」 「なに?」 「・・・・・・・・」 「時任?」 「・・・・・おやすみ」 抱きしめて抱きしめて細い肩に顔をうずめると…、毛布の中にあった時任の腕が動いて俺の頭をゆっくりと静かに抱きしめてくる。耳元でおやすみって言いながら…、たぶん微笑んでくれてるんだろうって…、 腕のカラダのあたたかさをカンジながら想った…。 抱きしめても抱きしめてもやわらかくないカラダで腕だけど、こんな風に抱きしめて抱きしめられている内に…、やわらかくやわらかく何かが胸の奥を満たしていく気がする。だから…、もっともっと抱きしめてると強く抱きしめすぎて苦しいって言われたけど、時任はそのまま抱きしめて抱きしめられてくれてた…。 そのカンジは…、抱きしめて抱きしめられてる時のカンジは…、 ズキズキと胸が痛くなるほど…、呼吸が苦しくなるほど…、 急速に急激に…、そのあたたかさの中に落ちてくカンジがした…。 小さく首筋にキスして…、それから時任の着てるトレーナーを脱がそうとたけど…、でも今だけはこのまま眠っていたくて…、もう一度キスして時任の腕の中で目を閉じる。 そしてまた夜が来るのを待つように…、明るい昼の日差しの届かない部屋で…、 まるで世界を抱きしめるようにネコのように丸くなってる細いカラダを抱きしめながら、毛布の中で終わらない夢を見たかった。 もしもこのカラダから腕から…、あたたかさがやわからさがカンジられなくても…、 抱きしめていたいのは…、このカラダだけだった…。 今、抱きしめてるあたたかさの中でしか眠れないから、眠りたくないから…、きっともうこのカラダを抱きしめてる時だけしか眠れない…。 だから、ずっとずっと抱きしめてたいこの世にたった一人だけの…、たった一匹だけのネコを抱きしめて…、 俺は真昼のベッドの中で眠りに落ちた…。 |