今日は、すごく天気が良かった…。
 だから昼になってちょっとだけ、ベランダの方から太陽の光が部屋ん中に入ってて…、そこにできたひだまりを見てると、なんかすっげぇあったかそうな気がする。あんまりあったかそうに見えたから、なんとなくゲームしてた手を止めて小さくできたひだまりの中に入ってみた。
 するとそこからは、ベランダの灰色のコンクリートと少しの青空が見える。
 空は当たり前に手が届かないくらい高いけど、座り込んだままでここから眺めるともっと高くなって…、
 でもどっちの空も同じ空だから…、今見てる空もいつもと同じくらい青かった…。
 
 「そーいや、最近ずっと出たことねぇかもな…」

 そう言いながらベランダの窓を開けると風が部屋ん中に吹き込んできたけど、太陽が出てるから思ってたより風が冷たくない。だからそのまま窓を開けたままで、久しぶりにベランダに一歩だけ出てみると本を読んでた久保ちゃんが来て…、俺の後ろから頭越しに外を見た。
 俺が久保ちゃんの後ろに立つとなんにも見えねぇのに、久保ちゃんが立つとちゃんと外が見える。なんとなくそのことにムッとしてると、久保ちゃんは小さく笑って俺の頭を軽く撫でた。

 「天気良くて気持ちいいのに、なにブスくれてんの?」
 「…って、カオ見てねぇのになんでそんなコトわかんだよ」
 「ん〜、なんとなく?」
 「なんとなくで決め付けてんなっ」
 「けど、当たってるっしょ?」
 「ハズレっ!」
 「あっそう」
 「そーいう久保ちゃんは、なんかキゲンいいじゃん」
 「そう? べつに特に何もないし、フツーのつもりだけど?」
 「・・・・・でも、なんとなくだけどそんなカンジする」
 「なんとなく、ねぇ」
 「当たってるだろ?」

 「さぁねぇ…。 けど、お前が言うならそうなんじゃない?」

 俺は空を見てて…、久保ちゃんも空を見てて…、
 だからお互いのカオなんか見てなかったけど…、今、久保ちゃんがどんなカオしてんのかなんとなくわかる。でも、それは意識して考えたからわかるんじゃなくて、ホントになんとなくってだけだった…。
 なんとなくわかって…、なんとなくカンジて…、
 そういうのってハッキリしてなくて曖昧なカンジかもしれねぇけど、俺らはたぶんそれでいい。たぶん理由もワケもなにもなくてもカンジたいからカンジてるって…、ただそれだけのことなんだって気がするから…、

 このまま、カンジたいって想うことを…、ずっと深呼吸するみたいにカンジてたいってそう想った。

 ちょっとだけブスくれてて、でもそれもすぐに治ってベランダから街を眺める。そしたらすぐにキゲンが治ったのがわかった久保ちゃんは、首を抱きしめるみたいに腕を伸ばしてきて俺の頭に軽く自分のアゴを乗せた。
 吹いてくる風は柔らかくて…、でもずっと立ってると少しまだ寒い。
 でも、久保ちゃんが抱きしめてきた瞬間に寒くなくなった。
 
 「まだ寒いけど三月になったし、もう春だよなぁ…」
 「春って言えば、ネコもコタツから出てくる季節だぁね」
 「そーいや、ネコはコタツで丸くなるぅ〜って歌がって…、なんでそこでネコが出てくんだよっ」
 「たぶん、寒がりの誰かさんが似てるからじゃないの? 気まぐれでなかなか抱きしめさせてくれないトコとか…」
 「い、今はどうなんだよ?」
 「今、おとなしく抱きしめられててくれてるのは、寒いからデショ?」
 「うっ…」
 「うーん、愛が足りなくて寒くなってきたかも?」
 「みょ、妙なセリフを耳元で囁くなっっ!」
 「凍え死にそう…」

 「…とか言いながら、耳に息吹きかけんなぁぁぁっ!!!」
 
 おとなしく抱きしめられたままでいたら、久保ちゃんに後ろからセクハラ攻撃される。だから、一瞬の隙をついてしゃがみ込んで抱きしめてる腕から脱出すると、今度は逆に俺の方が久保ちゃんの後ろに回り込んだ。
 それから、久保ちゃんと同じようにしようと思ったけど、やっぱ腕を伸ばしても抱きしめるっていうより…、なんか首をしめるカンジになる。そこでまたムッとしながら、俺は背中から首じゃなくてもっと下の腹の辺りに腕を伸ばして抱きしめてみた。
 そしたら見えるのは久保ちゃんの背中だけで…、空も街も見えなくなって…、
 けど、ぎゅっと後ろから抱きしめてると…、なんとなく目を閉じたくなる。
 だから、久保ちゃんの背中に額をくっつけて、それから目を閉じてみると…、
 なんかすごくあったかかったから…、空も街もなにも見えなくても…、

 もう少しだけ…、少し早くなった鼓動が元に戻るまでこのままでいたかった。

 久保ちゃんが着てるシャツからは、セッタの匂いがして…、でも今は春の日差しの匂いもしてる。だから、もっとたくさん匂いも春みたいにあったかいのもカンジてたくて、回してる手にちょっとだけ力を入れた。
 そしたら、久保ちゃんの手がゆっくりと俺の手を上から握りしめてきて…、
 そこから…、胸の奥にある言葉にならない想いが滲んでくような気がした。

 「今日は…、スゴクあったかいねぇ…」
 「うん…」
 
 それきり…、俺も久保ちゃんも何も言わなかったけど…、
 ベランダから部屋ん中にはいっても、久保ちゃんを抱きしめてた腕の中には…、
 春みたいなあたたかさがずっと残ってた…。
 
                            『春』 2004.3.4更新

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