「ただいま、時任」 「おかえり」 朝から外出して、用事を済ませて部屋に帰ると、なぜかテーブルの上の灰皿に吸殻が入ってた。一本だけ。 セッタだから、普通なら自分のなんだけど…。 この消し方は俺とは違う。 それに、カップが二つ出てるしねぇ。 もしかして…、誰か来た? 「ねぇ、時任」 「なに? 久保ちゃん」 俺が晩ご飯の準備している間、大体時任はいつもゲームしてる。 だから返事も生返事。 ケド、これはちょっと聞かなきゃだよねぇ? 「今日さ」 「うん」 「誰か来た?」 「来てねぇよ」 「ホントに?」 「うん」 ・・・・・・・・。 俺は灰皿をもう一度眺めた。 ウソ言ってるようには見えないケド。 どうしたもんだか…ねぇ。 自分以外のオトコの影っての? そういうのを心配とかする自分って嫌だなぁ…。 ・・・・・・・う〜ん。 とりあえず、晩飯作ろう。 さっきから喉がイガイガするんだよなぁ。 なんで久保ちゃんはあんなモン吸ってんだろっ。 ぜんっぜん、うまくねぇのに。 今日、激ヒマだったから、なーんとなく吸ってみたんだよなぁ。 久保ちゃんのセッタ。 ・・・・・マジで吸わなきゃよかった。 う〜、なんかまだ口の中がマズイ。 「久保ちゃんっ」 「ん〜?」 「晩飯まだ?」 「もうちょっと」 おっ、今日はカレーじゃねぇみたいだ。 ラッキー!! ほんっと、カレーじゃなきゃなんでもいいって気分になるよなぁ。 とか言っても、ぜってー俺は作らねぇけどなっ。 「時任、できたよ」 「おうっ」 うれしそうに飯食っちゃってるなぁ。 まあ、今日はカレーじゃないしね。 俺は時任の顔を時々眺めつつ、自分の作ったチャーハンを食べた。 「なぁ、久保ちゃん」 「なに?」 「このチャーハンうまい」 「そう?」 「うん」 「…だったらさ。コレ、誰が吸ったか答えてくれたら、明日はなんでも時任が好きなモノ作ってあげるよ?」 「これって?」 「コレのこと」 俺が灰皿を指差すと、時任は驚いた顔をした。 そんなに驚かなきゃならないことでもしたの? ・・・・・・もしそうなら、覚悟しといたほうがいいよ? 時任君。 久保ちゃんが俺のこと怖い顔で見てる。 そ、そんなに自分のセッタ吸われたのが嫌だったのか!? こ、ここはとりあえずあやまるべきだよなっ。 「ごめん、久保ちゃん」 「ふーん、あやまるんだ?」 「えっ、あっ、うん…」 「じゃあ、認めるんだ? 自分のしたコト」 「…うん」 俺がうなづくと、久保ちゃんの顔がますます恐くなった。 だぁぁっ! ちゃんとあやまってんじゃん!! 「ちょっ、くぼちゃん!?」 まだ晩飯の途中なのに、久保ちゃんが俺の腕引っ張って、自分の部屋に連れてこうとする。なんかわかんねぇケド、コワイぞ…かなり。 「なにすんだよっ!!」 俺が怒鳴ってもおかまいなしで、久保ちゃんは部屋に入ると、俺のコトをベッドに突き飛ばした。 「いてっ!!」 痛いって言ってんのに、聞いてくんない。 なんか泣きたくなってきたじゃんかっ!! 「久保ちゃんのバカっ!! そんなに俺よりセッタの方が大事なのかよっ!!」 俺がそう怒鳴ると、久保ちゃんはきょとんとした顔で俺を見た。 「今なんて言ったの?」 「だからっ、そんなに俺がセッタ吸ったのが気にいらねぇのかっつってんじゃんっ!」 「…吸ったって、時任が?」 「俺に決まってんだろ! 俺だって、吸うときくらいあんのっ!」 「カップが二個出てたのは?」 「セッタがすっげーまずかったから、牛乳とコーヒー飲んだ。二個あんのは、洗うのが面倒だったからに決まってんじゃん」 「・・・・・・」 「久保ちゃん?」 あれ、なんか久保ちゃんがぐったりしてる。 具合でも悪いのか? 「大丈夫か? 久保ちゃん」 「へーき」 平気とか言ってけど、なんかそんなカンジじゃねぇんだけど? もしかして、なんかあったのか? 「…久保ちゃん?」 俺が久保ちゃんの顔を覗き込むと、久保ちゃんは大きくため息をついた。 ・・・・・・なんなんだ、一体? 「時任」 「な、なんだよ?」 「ごめんね」 「…うん」 さっきのはムカツクっていうか恐かったけど…。 抱きしめてくる久保ちゃんの手がスゴク優しいからゆるしてやる。 もうぜってー、セッタなんか吸わねぇよ。 マジで…。 それから一週間。 夕食はカレーじゃなかった。 |