雪が降り始める頃に生徒会室で、みんなにまたなって言って…、 それから夏がそうだったみたいに、久保ちゃんと二人きりの冬休みが始まった。 べっつにいつも一緒にいんだから、変わったことなんかなにもねぇけど…、 他のヤツらはどうしてんのかなぁとか思ったりしながら、いつの間にか学校に行かずにずっとウチに二人きりでいる方が当たり前になってくる。 昼くらいに起きて昼メシ食ってゲームして、食料がなくなってきたら買い出しに行って、久保ちゃんのバイトがある日はたまに一緒に少し遠くに行ったりして…、休みになってからずっとそんなカンジの日が続いてた。 だから、なーんかカラダがなまってきた気もすっけど…、ゲームしてる俺の横で新聞読んでる久保ちゃんを見てるとまぁいっかって気分になる。ガッコに行ってる時よかボーっとしてる時間が増えた久保ちゃんは、そんな風に想いながら俺が持ってたコントローラーを床に置いて伸びしたら、ボーっとしたカオのままこっちの方を見た。 「なんかヒマそうだぁね?」 「そーいう久保ちゃんこそ、ヒマそうじゃねぇか」 「さっきから新聞読んでるけど、そう見える?」 「新聞読んでても、カオがボケまくってんじゃんっ」 「そういうお前の方こそ、ゲームしながらぼーっとしてるし?」 「ぼ、ボーッとしてて悪りぃかよっ」 「べつに」 「あっそっ」 そう言って俺がまたゲームし始めると、久保ちゃんもまた新聞を読み始める。ガッコに行ってる時は新聞を読むのは朝のトイレだったけど、休みになってからはゲームしてる俺の隣りで読むのが久保ちゃんの習慣になったみたいだった。 新聞なんかどこでも読めんのになぁって…、そう想ってても絶対に言わない。それは久保ちゃんが新聞をめくってる音を聞くのが好きだからだった。 カサカサとめくられてく新聞の音は…、なんか聞いてるとほっとする。ほっとして気がゆっくりと抜けてくカンジで…、なんとなく久保ちゃんの入れてくれたコーヒーの匂いを嗅いだ時に似てた…。 ガッコに行ってベンキョして公務とかして、執行部の奴らと騒ぐのも悪くねぇけど…、あわてて過ぎてくみたいな時間がちょっとだけ止まったカンジがするから、たまにはこういうのもいいのかもしれない…。 止まったみたいな時間の中にいるとセッタのケムリを眺めたり…、久保ちゃんの髪の寝癖に気付いたり…、指の先にある傷に気付いたり…、 いつもより、ずっと久保ちゃんを眺めてる時間が増えて…、 久保ちゃんも俺のコトをいつもより…、見てる気がした。 「なーに、さっきからこっち見てんだよ」 「そーいうお前こそ、なに見てんの?」 「な、なに見てたって俺の勝手だろっ」 「じゃ、右にオナジ」 「答えんのがメンドいからって、オナジにすんじゃねぇつーのっ」 「うーん、なら一緒?」 「一緒にすんなっ!」 「時任クンってば冷たーい」 「ボケたカオして、激しく棒読みしてんなよっ」 「・・・・・好きだよ」 「きゅ、急にマジ顔になるな!!」 「せっかく告白したのに、ねぇ?」 「なにが、ねぇっだっ!!!」 「返事してくれないの?」 「うっ…」 「それとも、もう一回聞きたい?」 「だぁぁっっ、言うなぁ〜〜〜っ!!」 セッタのケムリと新聞をめくる音と…、そしてコーヒーの匂いと…。 どんなに近くにしても隣りにいたとしても…、それをカンジてないと一緒にいるってコトがわからなくなるから、ゆっくり息を吸い込むみたいに一緒にいるってコトを感じてたい。 お互いに見つめてて目が合って笑い合う瞬間が…、たぶん一番、好きだって大好きだってそうカンジる瞬間だから…、 いつか終わる冬休みを過ごす時みたいに…、いつの日もこんな風にクダラナイこと言いながら笑い合ってたかった…。 「なぁ…」 「なに?」 「俺らはやっぱ…、オナジじゃねぇかもしんねぇけど…」 「けど?」 「・・・・・・たぶん一緒だよな」 「・・・・・」 「久保ちゃん?」 「きっと…、たぶんね」 指切りなんてしないのは、手を繋いでる手を放せないからで…、 だからたぶん指きりはまたねってそんな約束とかしながら、手を放す瞬間にしかできないのかもしれなかった。 でも、手を放さないのならきっと約束なんていらない…。 だから指切りなんかしないで…、ずっとずっとこの部屋の音と匂いを…、 ・・・・・・・久保ちゃんをカンジてたかった。 |