「・・・・・・さむっ」 なんとなく寒くて、そう言いながら目を覚ますと外はもう明るかった。 けど、明るくても朝なのか昼なのかまでは不明…。 部屋にある時計か枕元に置いてある久保ちゃんの腕時計を見れば時間がわかるけど、それを見るのもやっぱメンドくて、俺はまた眠るために目を閉じた。 起きるのがメンドいのは眠いのと寒いのと両方で、手の届く場所にエアコンのリモコンもないし、ぺつにバイトとかなーんもねぇし…、こーいう時は眠ってる方がいいに決まってる。なんか時間がもったいねぇなぁって気もするけど、隣りで久保ちゃんが寝てる時はもったいなくてもべつにいいって気がした。 一応、寝てるってのもしてるコトの内だし、もったいねぇとかって無理やりになんかすんのも違ってる気ぃするし…、やっぱ眠い時には寝るのが一番っとかつって自分に自分で言ってみたりする。そういうくだらねぇコト考えながらウトウトしてしたら、いつの間にか起きてた久保ちゃんと目が合った…。 「なーに、さっきからゴソゴソしてんの?」 「べっつにゴソゴソなんかしてねぇよっ。ただ、ちょっちリモコン探してただけだろっ」 「あー…、リモコンなら床に落ちてるっしょ?」 「げっ、あんなトコに」 「昨日、お前が蹴飛ばしちゃったんだよねぇ…」 「お、覚えてねぇよっ、そんなのっ!」 「もしかして、リモコン飛ばすついでに気持ちよすぎて記憶まで飛ばしちゃったとか? あれから、シャワーも浴びずにそのまま途中で寝ちゃったもんねぇ?」 「う…、そういえばマジでベタベタした気持ち悪りぃ」 「だぁね」 「…って、俺が眠いつってんのに久保ちゃんが無理やりすっから、こーいうコトになんだろっ!」 「まあまあ」 「何がまあまあ…っだっ!」 そんなカンジで言ってる間も久保ちゃんの手が俺の方へ伸びてきて、夜の続きをしようとする。だから身体を丸くなってガードしながら、枕で久保ちゃんに攻撃した。 けど、そうやって暴れてると毛布から身体がはみ出して寒い…。 実はシャワーも浴びずに眠ったせいで、俺も久保ちゃんも裸のままだった。 なんか着てたらそうでもないかもだけど、やっぱ裸だと毛布にくるまっててもちょっと寒い気がする。でもシャワーを浴びないと服着る気になれねぇし、シャワーには部屋があったかくなんねぇと行く気になんねぇし…、久保ちゃんは起き抜けからまたヤろうとするしっ! 抵抗してたらハラまで減ってきて、ちょっちマジでムカついてきた…。 もとはと言えば、俺がリモコン蹴ったのが悪いんじゃなくてっ、久保ちゃんが眠いのにヤるからシャワーも浴びられなくて、このまんまで寝るハメになったのが悪りぃんじゃねぇかっ!! だから寒いのもハラ減ってんのもっ、腰が痛いのもっ!!! 「ぜぇぇぇんぶっ! 久保ちゃんが悪いっっ!!!」 俺は毛布の中から追い出してやろうとして、そう叫びながら久保ちゃんを蹴飛ばした。なのに、久保ちゃんはしぶとくて器用に俺の足をつかんで蹴られんのを防いでる。 攻撃をかわして余裕に微笑んでる久保ちゃんを見てるとますますハラが立ってきて、俺は枕元にあったコンビニで買った夜の必需品の入ってる箱を、わざとリモコンのある辺りに向かって投げた。 「そんなにヤりたきゃ、リモコンと一緒に拾ってきやがれっ!!!」 「なーんて言って、エアコンつけて逃げる気でしょ?」 「うっ・・・」 「じゃ、時任クンがいらないって投げちゃったから、今日はナシでってコトで…」 「自分に都合良く勝手に解釈してんじゃねぇよっ!!」 「ちゃんとエアコンなくても、あったかくしてあげるから…」 「ぎゃあぁぁっ!!!みょ、妙なトコさわんなっ、エッチっ!!!」 「そういわれてもねぇ? 言われるまでもなく俺ってエッチだし?」 「…って、あっさりすんなり認めてんじゃねぇっ!!!」 俺がイヤだっつってんのにっ、久保ちゃんはマジでなくてもヤる気だったっ。 もしかしたら昨日、途中で寝ちまったのを根に持ってるのかもしれねぇし、今度は寒いだけじゃなくてハラ減って死ぬかもしんない…。じたばた暴れて蹴ったりしたみたけど、ますますハラが減ってきてパワー不足で久保ちゃんには通用しなかった。 俺は久保ちゃんの欲望の餌食にされかかりながら、あきらめずに逃げる手段を考えてたけど、なかなかいい案が思い浮かばない。周りを見回して見ても武器になりそうなものは枕くらいしかなかった。 けど…、武器になりそうもないけど、攻撃に使えそうなモノが一つだけ枕元にある。枕元にあるのは、俺と久保ちゃんの肺をいつも汚している百害あって一利ナシなモノで…、 俺はそれをつかんでまたリモコンの方に向かって投げつけると、のしかかってくる胸をぐいっと押し返しながら久保ちゃんを睨みつけた。 「取ってこなかったら、ストックしてるヤツも全部ベランダで燃やしてウチで吸うの禁止にしてやるっっ!!」 「うーん、それはちょっと困るんですけど?」 「トイレにもベランダにも、禁煙って張り紙してやるかんなっ! 一本吸ったら罰として一週間エッチ禁止っ!!」 「・・・・・・・・・・」 「一箱吸ったら20週間エッチなしで…、一カートン吸ったら200週間?!」 「・・・・・・」 「禁煙がんばれよっ、久保ちゃんっ!」 形勢逆転な感じでそう言って笑いながら俺はぽんぽんと肩を叩いたけど、久保ちゃんはなぜか逆転されたのに口元が笑ってる…。その笑みを見ながらなーんか嫌な予感がするって想った瞬間、いきなり俺の身体からぐいっと毛布が引きはがされた。 そしたら冷たい冷気が身体に当たって一気に寒くなって、腕にも足にも鳥肌が立つ。とっさに毛布を独り占めしてベッドから出た久保ちゃんを捕まえようとしたけど、寒いのとハラが減ったので力が出なくて失敗した。 「風邪引いちゃうから早くこっちにおいで、すぐにあっためてあげるから…。もちろん俺のカラダでだけどね?」 そう言いながら手招きする久保ちゃんの手にはリモコンとセッタが握られてるし、しかも最悪なことに足元には脱いだままになってる俺のジーパンが転がってる。少しの間、自分の肩を抱きしめながらブルブル震えながら寒さに耐えてたけど…、やっぱ限界っ! 俺はベッドから飛び降りると、ムカツキながら久保ちゃんと毛布に抱きついた。 そしたら、それを待ってたみたいにすぐに久保ちゃんがエアコンをつける。するとすぐに部屋の中が一気にあったかくなった。 「ううう…、生き返った…」 「お前って暑いのも苦手だけど、寒いのもダメだよねぇ」 「俺様のカラダはデリケートにできてんのっ」 「じゃ、そのデリケートなカラダを維持するために、これから何か食べに行く?」 「へっ? これからエッチすんじゃなかったのか?」 「けど、腹減ってるでしょ?」 「そ、それはそうだけどさ…」 「もしかして、したかった?」 「そんなワケねぇだろっ!バカッ!!」 「そう?」 「でも…、あのままもうちょっとだけ寝てたかったかもな…」 「・・・・・・そうだね」 あったかいなぁって想う時って、すっげぇ眠くなるけど…、 一番、そう想う時って…、たぶん久保ちゃんといる時なのかもしれない…。 せっかく一緒にいんのになにもせずに寝てたりすんのは、やっぱ話したりとか色んなことできるのにもったいねぇのかもしんねぇけど…、 あったかいって想ったりすんのは、一人じゃないってカンジてるって事だから…、 そういうのをカンジながら眠る時間が、もったいないなんてコトはない気がした。 眠って眠って…、そして目が覚めたら久保ちゃんがいて…、 眠ってても手を伸ばしたら、そこに久保ちゃんがいる。 それだけでたぶん…、トクベツなことはなにもなくてもしなくてもそれで十分だから…。 笑いながら話をする時みたいに、手を繋いで歩く時みたいに…、眠る時も一緒に眠っていたい…。 二人でいることのぬくもりに溺れながら…、同じベッドで…。 |