ココで待ち合わせして…、ココで会おうっていう約束を時任とした。 バイトが終わってから、午後四時にいつものゲーセンの前でって…。 けど、腕時計の針が約束の時間を過ぎても、時任が着てるはずの赤いコートはどこにも見当たらない。念のためにゲーセンの中も探してはみたけど、やっぱりそこにもいなかった。 「一体…、ドコでなにしてるんだかねぇ?」 そんな風に呟いた俺の足元にはセッタの吸殻がたくさん落ちてて…、その吸殻の数がそのまま時任をココで待っていた時間の長さになる。短くなっていくセッタと煙を眺めながら、ゲーセンの壁に寄りかかると小さく息を吐いた…。 ポケットに入ってるケータイは鳴らないし、メールも来ない。だから、なにかあったんだろうなぁってのはわかってるけど、それでもココにこうして立ってるのは、探しに行くよりも待っていた方がいいってなんとなくカンジたからで…、 それは、なぜか予感じゃなくて確信だった。 そんな自分の確信を信じることに、理由なんてなにもない。 けれどそれでも確信を信じるのは、俺のことを時任が一番良く知ってるように…、時任のことを俺が一番良く知ってるからで…、 だから、確信があるならそれをただ信じていれば良かった。 今日の夕飯はどうしようとか、時任の好きなアイスを買って帰ろうとか…、 いつものように、時任のことを考えて想いながら…。 だからどんなに繋がり合っても一つになれないし、ホントは全部を知ってるなんてあり得ないけど…、それでも確信を信じるのはいつも時任のことばかりを考えて想ってるせいかもしれない。 夕飯のことを考える時も、店でお菓子を選ぶ時も…、 ケータイで着信を確認する時も…、バイトの帰りに夕日を眺める時も…、 何が好きだったとか今頃はどうしてるのかとか考えて、時任の事を思い浮かべて、そうしてると不思議なくらい何もかもが…、 考えることも想うことも、すべてが時任に繋がっていく…。 なにを想っても考えても…、最終的に行きつくのは時任だった。 だから、理由もワケもいらない。 なにもいらない…。 暗闇を走ることも、拳銃の引き金を引くこともそれだけで十分だから…。 こういうのを依存っていうのかもしれなくても、時任にしか行きつかない思考回路は狂ってて治らないし治すつもりもなかった。 それはきっと…、狂ったまま回り続ける思考回路は、ヒトが考えるコトを想うコトを生きてる限りやめられないのと同じ理由で回ってるからなのかもしれない。 時任を想うコト考えるコト…、そして感じるコト…。 それがすべてで、それ以上でも以下でもないから…、 だからこれからも…、生きるための酸素をセッタのケムリと一緒に胸の奥に吸い込むように考えて想ってくんだろう。 なにもかもを…、お前のせいにしてゴメンねって呟きながら…。 それからセッタのケムリを眺めながら、狂った思考回路をしばらく回し続けてると、人ゴミの中からこちらに向かって走ってくる赤いコートが見えてくる。 息を切らせながら走る時任は、ちゃんと約束の場所に向かっていた。 まるで…、止まらない思考と想いの残滓のような…、 そんなセッタの灰の積もった…、この場所に…。 そして俺が立ってるのを見つけると、時任は無邪気な顔でうれしそうに笑って手を振った。 「わりぃっ、時間に遅れたっ。ゲームしてたら、なんかからまれちまってさっ」 「ふーん…、何人?」 「四人っ!」 「頭数だけは、多かったってワケね」 「そーそっ、弱いヤツが四人でも十人でも、無敵の俺様には勝てっこねぇっつーのっ」 「じゃ、圧勝?」 「…ったりめぇだろっ! けど、無駄な運動しちまったからハラ減ったっ。そこのファミレスでメシ食ってこうぜっ」 「はいはい」 「・・・あのさ」 「ん?」 「待っててくれて、サンキューなっ」 時任は少し照れくさそうにそう言うと、俺のそでをぐいっと引っ張って歩き出す。いつも手を繋ぐのは嫌がるけど、そでを引っ張るのはいいらしかった。 そういうトコがらしくて少し笑うと、時任はムッとした表情になる。けどそういうカオをするのも、時任のことはなんでも知ってるからちゃんとわかってた。 そんな風に時任に手を引かれるようにそでを引っ張られながら、そしてまた俺は時任のコトを考える…。 考えて想って、どうやって抱きしめてキスしようかとか…、 どうやって、この腕の中に閉じ込めようかとか…、 時任のことだけを…、時任のことばかりを…。 だから身体も心もなにもかもが…、細胞の一つ一つが…、 全部が時任で出来てるのかもしれないって気がした。 「久保ちゃんっ」 理由もワケも、なにもかもがそこにある。 無邪気に笑いながら、俺の名前を呼ぶ時任の中に…、 はじまりと終わりと…、そのすべてが…。 |