「久保ちゃん、何かほしいモノとかある?」

 なんとなくカレンダー見たら、もうじき久保ちゃんの誕生日が近かった。
 だから、なんとなく気まぐれでそう聞いてみる。
 けど、久保ちゃんは読んでた新聞見たまま、吸ってたセッタの灰を灰皿に落として、
 「べつにないけど?」
って即答した。
 他のヤツならウソばっか言うなって言えたりすんだけど、久保ちゃんだとマジっぽい。
 コンビニの新商品とかいっつも買いあさってっけど、それだってなければすぐにあきらめちまうカンジ。あったらほしいけど、なかったらそれでいいって…。
 欲がないって言えばそうなのかもしんないけど、なんかソレとはちょっと違う気ぃした。

 ホントに…、ホントに何もいらねぇの? 久保ちゃん。

 「時任は何欲しいの?」
 「えっ?」
 
 久保ちゃんにそう聞かれて、そーいえば俺も誕生日はわりと近かったことを思い出した。
 …うー、欲しいもの。
 欲しいもの考えてたら、頭ん中に欲しかったスニーカーとか服とかそんなモノが浮かんだ。
 けど、これ誕生日に久保ちゃんに買って欲しいかって聞かれたら…。
 なんか、素直にうなづけねぇかも。
 だってさ、誕生日ってもっと…、トクベツなもんじゃねぇの?
 何買ってもらうとか、何買って欲しいとかそんなのはなんか違うカンジした。

 「欲しいモノないの?」
 「あったら買ってくれんの?」
 「う〜ん、そおねぇ。サイフと相談…、かも?」
 「買える範囲ってヤツ?」
 「まぁ、そんなトコ」

 なんて言ってても、俺が欲しいって言ったら久保ちゃんは買うかもしんない。
 確信はないけど、そういう予感がする。
 きっとムリして…。
 うれしくないわけじゃねぇけど、なんか基本が抜けてる。
 
 「…久保ちゃん」
 「なに?」
 「誕生日とかじゃなくて、他の記念日ってねぇの?」
 「記念日って?」
 「生まれた日じゃなくて、もっと別のトクベツな日」
 
 そう聞いたのは、久保ちゃんが自分の誕生日忘れてるコト多いからで…。
 たぶん、俺にとってトクベツでも、久保ちゃんにとって生まれた日は特別じゃないって思ったからだった。
 もちろん誕生日はするけど、お祝いするなら久保ちゃんのトクベツな日にもしたかったし。
 トクベツな日がいつかってのもちょっと興味あった。

 「トクベツな日…、ねぇ?」
 「なんかねぇの?」
 「…キス記念日とか?」
 「ぶっ、なんだよソレっ!」
 「時任と初めてキスした日」
 「んなもんっ、記念日にすんな!」
 「じゃあさ、エッチ記念日」
 「アホかぁぁっ!!!」

 ドカッバキッ!!!

 「・・・・・・冗談だったのになぁ」
 「久保ちゃんが言うと、冗談に聞こえねぇっつーのっ!!」
 「そう?」

 マジで聞いてんのに、ふざけてばっかで答えてくんない。
 久保ちゃんのバカっ!
 なんてココロん中でつぶやいてっと、なんでかわかんねぇけど久保ちゃんが俺に向かって手招きした。
 
 「なんだよっ」
 「ちょっとこっち来ない?」
 「イヤだ」
 「時任クンてば冷た〜い」
 「だぁあっ、気色わりぃ言い方すんなっ!」
 「だったら来なよ?」
 
 これ以上、気色ワルイ呼び方されたくねぇから、仕方なく久保ちゃんのそばによってくと、久保ちゃんは新聞をテーブルに置いて俺の方に腕を伸ばしてくる。
 夏だし、クーラーきいてても暑いし、久保ちゃんに抱きしめられたら今よかもっと暑くなんだろうなぁって思ったけど避けなかった。
 その理由はなんとなくわかってて、けど自分で自分ごまかして、全部久保ちゃんのせいにする。
 けど、久保ちゃんの腕につかまったら、そんな言いワケはすぐに消えてなくなった。
 暑いだけのはずなのに、それだけじゃなかったから…。

 「俺のトクベツな日知りたい?」
 「べっつにぃ」
 「あっそ」
 「…なんてのはウソ」
 
 腰のヘンに回ってる久保ちゃんの手がちょっとくすぐったい。
 俺は立ってて、久保ちゃんはイスに座ってっから、いつもと違って妙なカンジ。
 上から久保ちゃんの頭見てると、つむじが見えた。
 いつもは見上げなきゃなんない頭が胸んトコにあって…。
 たぶん、俺のこと久保ちゃんはこんな風に見てんのかなぁって思った。
 そんな風に見てたら、なんとなく抱きしめたくなって…。
 いつも久保ちゃんがするみたいに腕伸ばして、久保ちゃんを抱きしめてみた。
 
 そしたらなんか…、スゴク好きだって思った。
 久保ちゃんのことが…。
 抱きしめられるより、抱きしめる方がちょっと好きが強くなるカンジがして…、不思議だった。

 「時任?」
 「…いいからっ、とっととトクベツな日言えってのっ!」
 「じゃあ言うけど…」
 「うん」
 「今日」
 「はぁ!?」
 「今日はトクベツだけど、昨日もトクベツだったなぁ」
 「一体なんの記念日なんだよっ」
 「記念日じゃないけど、トクベツってカンジ?」
 「記念日じゃねぇの?」
 「毎日トクベツだから記念日なんていらないし…」
 「なんで?」
 「ナイショ」

 何回聞いても、久保ちゃんは答えてくんなかった。
 けど…、やっぱ俺も毎日トクベツかもしんない。
 頭を引き寄せられてキスされながら、誕生日よりトクベツな日を見つけた気がした。
 久保ちゃんの体温とか匂いとかカンジてると…。
 何もいらないって、そう思ったりするから…。

 だから今日も昨日も、来るかどうかもわかんない明日も、たぶんトクベツなんだと思う。

                            『記念日』 2002.8.8更新 移動忘れ

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