一緒にいるとなにを考えてるのかとか…、想ってるのかとか…、 そういうのがハッキリとじゃないけど、ちゃんと伝わってくる。 けど、ちゃんと好きだって言われて、何回も言われて抱きしめられてて…、 なのに、それでもまだわからない…。 それは、どこかにホンキじゃない好きが、混じってる気がするからかもしれなかった。 好きだって言われたら、もう一度好きだって言われたくなるし…、 抱きしめられたら、もっと強くぎゅっと抱きしめられたくなる。 けど…、でも…。 全部が好きだなんて、そんなのはあり得ない気がした…。 カップを何個も割ったり、セーブデータ消したり…、 それだけじゃなくて、洗濯も掃除もしねぇし、晩メシなんか作ったこともない…。 そういうヤツと毎日暮らしてて…、なんで全部好きなんて言えんのか…、 どうして、なんでもないカオして笑ってられんのか…、俺にはわからなかった。 ホントの気持ちと…、ホントじゃない気持ち…。 言葉もカラダもなにもかもが重なり続けてるから、何もなにもかもわかってて…、わかり過ぎてて…、なのにわからない何かがある気がする。 だから、抱きしめて抱きしめられた腕の中には、ホントはなにがあるのか…、 なんとなく…、知りたかった。 「久保ちゃんっ、一緒にビール飲まねぇ?」 たくさん買い込んできたビールを床に並べて、風呂上りの久保ちゃんにそう言ったら、久保ちゃんは濡れた髪をタオルで拭きながら俺の顔をじーっと見つめてくる。 たぶんソレは風呂上りでまだメガネをかけてなかったってのもあるかもだけど…、メガネをかけてない久保ちゃんに見つめられて、俺の心臓はドクンと大きく一つだけ跳ねた。 メガネをかけてない時の久保ちゃんは、いつもと少し雰囲気が違う…。 メガネをかけてる時とかけてない時では、やっぱりかけてない時の視線の方がじっと見つめられてる気がして… そういう時の久保ちゃんに見つめられると、いつもドキドキした。 「な、なに黙ってじーっと見てんだよっ! 飲むのか飲まねぇのかハッキリしろっ!」 「ま、べつに飲んでもいいけど、珍しいなぁって思って…」 「俺だって、飲みたい時くらいあんのっ」 「ふーん…」 「いいからっ、とっととそこに座って久保ちゃんも飲めっ!」 「はいはい」 久保ちゃんがテーブルの上のメガネを取ろうとしたから、わざと取ろうとした方の手に向かってビールを差し出す。そしたら、久保ちゃんはちょっと笑ってからソレを受け取った。 なんとなく見透かされてる気がしたけど、黙ったまま俺は自分の分のビールを開ける。 そしてソファーじゃなくて、いつもみたいに二人で床に座り込んで…、俺と久保ちゃんは無言で缶と缶を軽くぶつけてカンパイをした。 べつにカンパイにイミなんてないけど、缶のぶつかる音を聞いたらちょっとうれしくなる。 けど、ビールを飲む目的はフツーに楽しく二人で宴会ってのじゃなくて、久保ちゃんにビールをいっぱい飲ませて酔いつぶすことが目的だった。だから、つまみのポテチとかちーかまとかの袋を開けて食べながら、どうやって久保ちゃんに飲ませようかって考えてたけど、なかなかいい考えが浮ばない。 飲み比べとかつったって、俺が先につぶれんのは目に見えてるし…、 久保ちゃんがどれくらいで酔うのか見当もつかねぇし…、 そもそも…、久保ちゃんの酔ったトコって見たことなかったような気が…。 なんとなくいやーな予感がして横を見ると、久保ちゃんはごくごくと平然としたカオでビールを飲んでる。ソレを見てると、なんとなく飲んでるのがビールじゃなくてジュースに見えてきた。 どうせ買ってるなら、ビールじゃなくてもっとアルコールの強いヤツ買ってくれば良かったのかもしんない…。けど、そう思ってもいまさらってヤツだった。 しばらく、テレビ見ながら二人でビール飲んでつまみを食べてると、急に久保ちゃんの腕が伸びてきて肩を抱き寄せられる。だから、飲んでんのにジャマすんなって怒鳴ろうとしたら、目の前に久保ちゃんのカオのどアップが目の前にあった。 「さっきからなにか企んでるみたいだけど、俺のこと酔わせてどうするつもり? ねぇ、時任クン?」 「ぶ〜〜っっっ!!!」 「うわ、汚いなぁ…」 「い、いきなりどアップになる久保ちゃんの方が悪いっ!!! それにぜんぜん酔ってねぇクセに、妙なセリフ言うなっ!!」 「これでも、酔ってるんだけどなぁ」 「酔ってるって、どこがだっ!」 「もうフラフラで、時任君ナシじゃ歩けないし?」 「・・・なら、今日はココで一人で寝てろっ!」 俺がそう言うと、久保ちゃんは冷たいなぁとか言いながらまたビールを飲み始めた。 メガネをかけてなくてなにも見えないはずなのに、テレビを見ながら…。 もしかして、マジで酔ってんのかなぁって思ってカオをのぞき込むと…、あっという間に唇をふさがれて何かを中に流し込まれる。 それを仕方なく飲み込むと、ビールの苦い味がした。 「ゴホゴホっ…、な、なにすんだよっ」 「俺はもう十分酔ってるから、一緒に酔って欲しいなぁって思って…」 「だーかーらっ、どこが酔ってんだよっ」 「うーん、どこって言われても、ずっと酔いっぱなしだしねぇ?」 「はぁ? ずっとって?」 「出会ってからずっと、時任に溺れるくらい酔ってるから…」 始めてキスした日から…、もしかしたらそれよりもずっと前から…、 いっぱいいっぱい好きになりすぎて…、その想いに溺れてた。 アルコールもなにもいらないくらい、いつだって好きすぎて眩暈がしていた。 けれど、今日だけは溺れても眩暈がしても、このまま近くにあるソファーに沈みたくなくて…、もっかいキスしようとした久保ちゃんの唇を右の手のひらでふさぐ。 そしたら久保ちゃんは目を閉じて、そのまま俺の右手にキスした。 「久保ちゃん…」 「ん?」 「あのさ、俺の嫌いなトコってどこ?」 「嫌いなトコじゃなくて、好きなトコなら山ほどあるけど?」 「・・・・・・マジメに答えろよ。ちゃんと答えねぇと、こっから先はナシっ!」 「その気にさせといて、それはないんでない?」 「い、いいから答えろっ!」 「うーん…、けどホントにないものはないし…」 「ゲームのセーブ消したりとかメガネを踏んで割ったりとか…、他にもいろいろあるじゃんか…。そういうのって、フツーはイヤだとか思うだろっ」 「確かにそれはそうかもだけど、だからってキライになる理由にはなんないでしょ?」 「…って、なんでだよ?」 「もしも嫌なトコがあったとしても、だからってガマンしてるとかそんなのじゃなくて…、好きで足りない部分は愛しさで埋ってるから…」 「うん…」 「嫌なトコも好きなトコも…、全部を抱きしめてたくなるのかもね?」 そう言いながら、唇にキスしてきた久保ちゃんの唇を今度は止めたりしなかった。 ちょっとふわふわしてるカンジがするから、もしかしたら久保ちゃんを酔わすつもりが自分が酔っちまってたのかもしれないけど…、なんとなく自分からもしたくなって、キスしてた唇をちょっと放して久保ちゃんの頬にキスする。 それから耳元で、「でも、たまには怒れよな」って言ったら…、 久保ちゃんはあまり見たことないくらい…、すごくうれしそうに微笑んだ。 大好きな人の好きな所は、ホントは全部じゃないかもしれない…。 けれど、それでもこんな風に全部を抱きしめて抱きしめ合っていたくなるのは…、好きなトコだけじゃなくて全部じゃないと、ちゃんと抱き合えないからだって知ってるからで…、 だから、愛しい気持ちを詰め込んで…、大好きな気持ちも詰め込んで言った言葉はウソなんかじゃない。 でも、許すのでもなく…、ガマンするのでもなくて…、 時には怒ったりしてても、それと同じくらいの強さで抱きしめて…、 腕の中に、すべてを抱きしめたかった…。 だから俺はソファーに身体を沈められながら…、自分から腕を伸ばして久保ちゃんを抱きしめる。 その存在のすべてを…、抱きしめていられるように…。 |