目の前で湯気を立ててる入れたてのコーヒー。
 ずっと身体に巻き付けてる毛布と、エアコンで一定の温度に設定されてる部屋…。
 なにもかもがちょうどいい温度で、あったかくて…、
 俺はコーヒーを飲みながら、ゆっくりと息を吐いた。
 べつに何か変わったコトとかあったわけじゃねぇし、いつもの通りだけど…、
 なんか身体の力が抜けてくカンジで、すっげぇほっとする…。
 ただ…、熱くも寒くもなくてちょうどいいってだけなのに、やりかけのゲームの続きとかしないで、もうちょっとだけこのままでいたい気がした。
 
 「さっきからぼーっとしてるけど、もしかして眠くなった?」
 「ちがう…。そーいうんじゃなくて、ただぼーっとしてるだけだってのっ」
 「ふーん…」
 「けどさ…、なんかあったかいよな…」
 「コーヒーが?」
 「ぜんぶが」
 「そう…」

 「なんかいいよな…、あったかいって…」

 俺が毛布に包まったまま…、そう言ってまた一口コーヒーを飲むと…、
 久保ちゃんはちょっとだけ笑ってから、飲みかけのコーヒーをテーブルに置いて俺のいるソファーの方へ来て…、隣りにすわると後ろから毛布ごと俺を抱きしめてくる。
 そしたら、持ってたコーヒーが揺れてこぼれそうになったけど、それを久保ちゃんの手が支えてくれた。
 いつもなら、なにすんだって怒るトコで…、
 でも、今日はぼーっとしてるせいか怒る気になれない…。
 包まってる毛布も、飲みかけのコーヒーも…、背中から抱きしめてる久保ちゃんの腕もあったかくて…、
 けれど、一番あったかくカンジてるのは久保ちゃんの体温だった。
 ちょうどいいってカンジてた温度は…、久保ちゃんの体温に似てる。
 ぼんやりと久保ちゃんに抱きしめられながら、ヒトの身体があったかいのは…、

 もしかしたら、誰かを抱きしめるためなのかもって…、そう想った。

 少し身体を後ろに倒して久保ちゃんに体重をかけると、俺の髪に久保ちゃんの頬が触れる。いつもはこういう体勢だったら何かしてくることが多いけど、今日は抱きしめてるだけでなにもしてこなかった。
 あったかいってコトだけをカンジて、久保ちゃんと二人でこうしてると…、
 二人でいるから、だからあったかいんだってわかってきて…、
 身体と同じようにココロがあったかくなってくる…。
 あったかいのにホッとするのは…、誰かに抱きしめられてる時の温度に似てるからかもしれない…。
 誰かと一緒にいる時の…、誰かが隣りにいてくれた時の温度と…。

 だから、あったかいってコトは…、すごく優しいカンジがするのかもしれなかった…。

 「もう少ししたら、コンビニに買いモノに行こうぜ」
 「牛乳もセッタも切れかけてるしね?」

 「けど、それまで・・・・・・」

 ココロの中になにもかもが溶けてくカンジのあたたかさは…、たぶんそのあたたかさにあったかい気持ちが混じってるからで…、
 だから、あったかいってコトをカンジたくなるのかもしれない。


 一人でいるコトに…、凍えてしまう前に…。


                            『温室』 2003.10.28更新

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