さっきからずっと…、背中に視線が突き刺さってる。けど、その視線が誰の視線かってのは、部屋ん中にいるから当たり前に久保ちゃんだ。 べつに睨んでるとかそーいうんじゃねぇけど…、なーんか気になる久保ちゃんの視線が今朝からずっと俺の方に向いてんだよなぁ…。 さすがに、じーっと見られてると背中がゾクゾクするカンジ。 なに見てんだって振り返ってやろうかって思ったけど、なんとなく気になりすぎて振り返れない。 ・・・・・・・もしかして、気づかない内になんかやったとか? 気になり始めたら、色んなコトが頭ん中でグルグル回る。 ゲームやってる時にミスって、久保ちゃんのセーブデータ消したコトとか…、 冷蔵庫に入ってた、セブンの新発売のアイス食ったコトとか…、 久保ちゃんの使ってたカップ割ったコトとか…。 そ、それとも…、昨日は身体がだるかったから、ヤル気になってる久保ちゃんをほっぽってさっさと寝ちまったコトとか・・・・・。 うっ…、この線は結構濃厚だよな…。 だぁぁっ!! 心当たりがありすぎてマジでわかんねぇっ!!! あ…、でも、もしかしたら実は見られてんのは気のせいで、見てんのは俺じゃなくてテレビとか…、 なーんて思いながらチラッとだけソファーの影から後ろを見たら、 ・・・・・・久保ちゃんとバッチリ目があった。 「・・・・・・・っ!!!」 げっ…、な、な、なんかマジで恐ぇぇぇっっ!!!!マジ顔な上に目が細くなくて、メガネかけてんのにフツーの大きさになってるっ!!! ゆ、雪は降ってねぇよな・・・・。 とか思いながら、俺はなんとなく久保ちゃんの前に置いてある灰皿を見る。そしたら、決定的にコレだってのを思いつけなかったけど、いつもと違うトコを発見した。 「く、久保ちゃん…」 「なに?」 「どっか具合でも悪いのか?」 「なんで?」 「だってさ、まだ起きてから一本もタバコ吸ってねぇじゃんっ!」 「それはそうだけど、なんでそれで具合悪いってコトになんの?」 「なんかヘンじゃんかっ。タバコを吸わない久保ちゃんなんて、久保ちゃんじゃねぇしっ」 「そんなにヘン?」 「ヘンっ!」 「そう?」 「それに、何回言っても禁煙なんかしようとしたことねぇのに、なんで禁煙なんかする気になったんだよ?」 机に置かれた灰皿はいつも吸殻いっぱいになってんのに、今日はキレイで灰も落ちてない。だから、部屋もケムリでいっぱいになったりしてなかった。そんな部屋を不思議そうに俺が見回すと、久保ちゃんはちょっと笑ってソファーのそばまで歩いてくる。 それに気づいた俺が視線をまた久保ちゃんの方に向けると、久保ちゃんはゆっくりと上から俺の顔をのぞき込んできた。 すると目と目が近くで合って…、なぜかまた背中がぞくぞくっとする。 そのぞくぞくするのをカンジながら久保ちゃんを見つめてたけど、ゆっくりと唇と唇の間の距離が縮まっていくと…、 キスする時の感触を思い出して、たまらなくなって目を閉じた。 「く、久保ちゃん…、まだ昼だし…」 目を閉じてるのにそんなセリフを言って…、自分からしようとしたんじゃないって言いワケする。でも、俺の腕は自然に久保ちゃんの首に回ってた。 完全にキスする体勢で…、もうどんなコトを言っても言い分けになんてならない。 けど…、どんなに待っても唇には何も触れてこなかった。 「・・・・・・・久保ちゃん?」 ちゅ…。 いつまでもキスしてこないから目を開くと、開いた瞬間に暖かい感触が唇じゃなくて額に当たる。予想外の出来事に俺が額を押さえてぼーっとしてると、そんな俺を見た久保ちゃんは微笑みながら髪を撫でてきた。 「あー、やっぱ熱あるから、今日はおとなしくベッドで寝てなさいね?」 「はぁ? 熱って誰が?」 「時任が…。今、体温が37度9分くらいだから」 「…って、なんで体温計で計ってねぇのにわかんだよ?」 「毎日、記憶するくらいカラダで計ってるからに決まってるでしょ? 体温のついでに、身長と体重も教えてあげよっか?」 「か、カラダって、そんなんでどうやって計ってんだっ!!」 「・・・・・・どうやって計ってるか知りたい?」 「う・・・・・っ、やっぱいいっ! 遠慮しとくっ!」 「そう、残念だなぁ」 「マジ顔で残念がんなっ!」 さっきまでヘーキだったけど…、熱があるって言われたら頭がクラクラしてきた。それに、もう背中から見つめられてねぇのに背中もまだゾクゾクしてっから、ゾクゾクすんのは久保ちゃんのせいじゃなくて熱のせいだったらしい。 なんとなく頭もぼーっとしたままだったから、俺は全部を熱のせいにして首に腕を回したまま久保ちゃんの肩に顔を埋めた。 「ベッドまで行くのはメンドイから、ここで寝る…」 「心配しなくても、ベッドまで連れてってあげるよ」 「・・・・・うん」 「ん〜、ちょっと熱が上がってきたかも…。一応、昨日の夜、咳してたからクスリは飲ませたんだけどねぇ」 「クスリって、そんなモン飲んだ覚えねぇけど?」 「口移しだったからじゃないの?」 「げっ…」 「『もっとチューして…』とかいいながら、俺に抱きついたの覚えてない?」 「そ、そ、そんなコト言うわけねぇだろっ!!!! 久保ちゃんのウソつきっ!!」 「ホントなんだけどなぁ」 「ウソだっ!!!ぜったいにウソだぁぁぁっ!!!!」 俺がウソだって叫ぶと、久保ちゃんはホントなのになぁってもう一度言ってから俺のカラダを両腕で抱き上げて…、そして俺をリビングから寝室まで運びながら、また熱を測るみたいに俺の額にキスする。 なんか…、久保ちゃんに抱っこされて運ばれてんのが恥ずかしくなってきたけど、ゆらゆら揺られてんのが気持ちいいから首に回した手を離さなかった。 そんなカンジで久保ちゃんに運ばれてる途中でふとテーブルを見ると、吸殻の入ってない灰皿が良く見える。 そしたら、さっきまでわからなかったワケが見えてきた。 「あのさ…、もしかしてタバコ吸ってねぇのって…」 「ん?」 「・・・やっぱ、なんでもない」 昨日、その気になってる久保ちゃんをほっぽって寝たけど…、久保ちゃんはあっさりとあきらめて何も言わなかった。 それはたぶん…、そん時から俺がカゼひいてるって気づいてたからで…、 タバコを吸わないのも、夜に俺が咳してたからで…、 じっと俺のコト見てたのも、心配しててくれたから…、 なんかそういうのがわかったら…、ホントは俺のカラダの方が体温高いんだけど、久保ちゃんのカラダがいつもよりあったかかった…。 「久保ちゃん…」 「なに?」 「久保ちゃんがカゼひいたら、俺が看病してやる…」 「うん、アリガトね」 「クスリも口移しでもなんでも、飲ませてやっから…」 「口移し、ねぇ?」 「せっかく俺様がクスリを飲ませてやろうっつってのに、なんか不満でもあんのかよっ」 「うーん、不満はないんだけど、クスリよりもチューしてくれた方が治りそうだなぁって…」 「・・・・・・一生カゼひいてろっ、バーカっ」 久保ちゃんはベッドに俺を寝かしつけると、うつした方が早く治るからって今度は唇にキスしてくる…。けど、俺は久保ちゃんにうつしたりして治りたくなかったから、そう言いながら手のひらで久保ちゃんの口をふいだ。 じっと久保ちゃんの瞳を見つめながら…。 そしたら久保ちゃんは優しく微笑んで、口をふさいでる俺の手のひらにキスした。 「カゼが治ったら、できなかった分もたくさんしようね…」 「うん…」 一人きりじゃなくて二人なんだって、それは二人でいるから当たり前で…、 けど、二人でいても二人でいることをカンジてなきゃイミがない。 背中合わせでいても…、その背中から伝わってくる暖かさを、そこにいるってコトをちゃんとカンジてなきゃ二人でなんかいられない。 それはたぶん…、当たり前だから一緒にいるんじゃなくて…、 一緒にいたいから一緒にいるんだってコトを忘れたら…、手をつないでるイミもなくなるから…、 だから、自分から腕を伸ばして抱きしめてたい。 一緒にいたいんだってコトが…、ちゃんと君のココロに伝わるように…。 |