好き、大好き…。
 告白して両想いになって…、好きだって言った分だけ好きだって言われて…。
 けど、好きだからしたいコトとか好きだって気づいたからやりたいことって…、こういうことなのかなぁって、久保ちゃんのカオ見ながら考えたりすることがある。
 だから、手をつないでキスして…、それからエッチなことして…、

 それがすんだら次はって…、ちょっとだけ聞きたくなる時があった。

 そんなことに次なんてのはないのかもしんねぇけど…、両想いになったら、まずそういうことすんのが当たり前みたいなカンジだったから…、
 それするために好きになったのかなぁって…、逆のこととか想ったりして…、
 好きだからしてるんだってわかってても、当たり前みたいに抱きしめてくる久保ちゃんの胸を押し返したくなった。

 「・・・・あっ」
 「…って、なに驚いてんの?驚くのは拒否されちゃった俺の方だと思うけど?」
 「べ、べつに拒否とかそういうつもりなかったから、驚いたに決まってんだろっ」
 「無意識でやったってコト?」
 「う…、まぁ…」
 「ふーん、それってちょっとショックかも」
 「なんで?」
 「無意識で拒否しちゃうほど、俺のことキライになったってコトだよねぇ?」
 「えっ?」
 「もしかして、飽きた?」
 「そ、そんなワケ…」

 「あるっしょ?」

 久保ちゃんは反射的に胸を押し返した俺のことを、そう決め付けたみたいに言った。
 もうキライになって飽きたら…、抱きしめられたくなくなったんだって…。
 けど…、もしホントにキライになったなら、そんな風に言われて壊れそうに鳴ってる心臓のワケがわからない。
 キライって言われたんじゃなくても…、キライになったんだろうってそう言われただけで…、鼓動がどんどん痛いくらいに早くなって…、

 ・・・・・・・・それから次に恐くなった。
 
 当たり前みたいにキスもなにもかもされたくなくて…、ずっとこのままだったら、好きだからこんなに胸が痛いのに久保ちゃんにバイバイを言われるかもしれない。
 そんな風に想ったら…、抱きしめ合えなくてキスできないと…、久保ちゃんに抱かれないと…、好きだってキモチがわかってもらえないのかもって気がした。
 好きだって言ったら…、それだけじゃぜんぜん足りなくて…。
 けど、抱きしめられると好きだってキモチが…、なぜかわからなくなる。
 だから…、キライで飽きたからだって言った久保ちゃんの言葉に違うって言い返せなかった。

 「返事がないってことは、そういうイミで取っていいってことだよね? なら、ちょっと今から出かけてくるから」
 「ど、どこへ?」
 「さぁ?」
 「久保ちゃんっ!!」

 部屋から出て行こうとしてる久保ちゃんの背中を追いかけたけど、目の前でバタンと大きな音を立ててドアが閉まって…、
 名前を何度も何度も呼んだのに…、一度も振り返らずに背中だけを見せたまま、久保ちゃんは俺を置いていなくなる。
 こんなことなら、いつもみたいに抱かれてれば良かったって想ったけど…、
 あのまま抱かれてたら…、やっぱり今みたいに胸がズキズキしてたかもしれなかった。好きだって、大好きだってキモチは変わらないのに…、そのキモチばかりが胸の奥に詰まっていくみたいで…、

 身体の奥に熱さをカンジるだけじゃ…、足りなくなってたから…。

 けど…、でも…、その痛みから逃げたいと想ったことはなかった。
 胸の奥のキモチを考えたりしなくても…、一緒にいたいってココロがいつだって叫んでるのに離れるコトなんかできなかった。
 けれど、背中なんか見送りたくなくても…、久保ちゃんがドアを閉めたからそれ以上は入れない。久保ちゃんの胸を自分で押し返したのに、閉められたドアを見たらいつもよりも好きなキモチがたくさんになった気がして苦しかった。
 だから、久保ちゃんがもしもこのままいなくなったら…、たぶん胸がもっともっと痛くなって好きなキモチでいっぱいになって、それだけで胸がいっぱいになって…、
 
 なにも入らなくなって…、息もできなくなるかもって気がした。

 なのに、ごめんって言ってあやまって抱かれたら元通りになるってわかってても…、ドアを開けて久保ちゃんを追いかけられないでいるのは…、
 たぶん…、好きってキモチがワガママすぎるからなのかもしれない。
 好きなのに好きだけじゃ足りなくて…、抱かれても抱かれてもなにかが足りなくて…。好きだから抱かれてるのに…、抱かれてるとココロと身体がバラバラになりそうだった。
 ひざを自分の腕で抱きしめるようにして抱えて…、そうしてソファーにすわると部屋にしみついてるセッタの匂いがしてきて…、

 今は煙なんてないのに…、ちょっとだけなにかが目に染みた。

 だからそれを治すために目をこすったけど…、ぜんぜん治らなくて…、
 どうしようかって思ってると…、廊下の方から妙な音が聞こえてきた。
 その音の原因を確かめるために廊下にでると、さっき出かけたはずの久保ちゃんがいて…、なぜかベッドのある部屋の前でドアノブをいじってる。
 なにやってんのかって想ってたら、しばらくして久保ちゃんは一本のカギを俺の前に差し出した。

 「そのドアのノブ付け替えたから、今度からカギ付きね?」
 「カギって…、なんで?!」
 「抱かれるのがイヤなら、ちゃんとカギかけてないとムリヤリ襲っちゃうかもよ?」
 「・・・・・・・・」
 「好きだから色々したいコトとかあるけど…。時任にキライって言われて、平気でいられるほど神経太くできてないから…」
 「久保ちゃん…」

 「だから、もうなにもしないから…、これ以上、嫌わないでいてくれる?」

 嫌わないでって…、そう言いたかったのはホントは俺だったのに…、
 なのに…、それを言ったのは俺じゃなくて久保ちゃんで…、
 そう言わせたのは自分なんだってわかってるのに…、ゴメンも言えなかった。
 嫌わないでなんて言われなくても、久保ちゃんをキライになんてホントに少しもなってなくて…、
 これからもキライになるはずなんか…、少しもあるはずなんかない。
 だからゴメンの変わりに好きだって言いたくて…、でも胸の中で好きだってキモチがいっぱいすぎてつまってなにも言えなくて…、

 差し出されたカギを見てると、目の前がかすんで見えなくなっていく気がした。

 だから、俺は唯一ベッドのある部屋のカギをポケットに収めるんじゃなくて…、頭を撫でてくれてる久保ちゃんの手に押し付ける。すると、久保ちゃんは俺のカオを見て優しすぎるくらい優しく微笑むと…、さっきみたいに俺のことを抱きしめてきた。

 「このカギ…、ホントにもらっていいの?」
 「やるっつってんだから、さっさと受け取れっ、バカっ」
 「うん…、ありがとね」
 「あ、ありがとうとか言うなっ」
 「うーん…、ならさ」
 「な、なんだよっ」

 「ありがとうの数だけ…、好きの数だけキスしない?」

 
 好きになって…、好きだって大好きだって言って言われて…。
 それからキスして抱きしめて…、抱きしめられて抱かれて…。
 けど、それで終わりじゃなくてその先も、好きだってキモチが胸にいっぱいになってもあふれてくるように…、きっとちゃんとあるから…、
 だから、好きが大好きになるように…、その想いを抱きしめるように…、
 海よりも深くキスをして…、壊れるくらい強く強く抱きしめ合っていよう。
 こんなに不安が胸に押し寄せてくるのも…、こんなにも胸が痛むのも…、
 
 君が好きだって…、大好きだって証拠にしかならないのだから…。

                            『好きなヒト』 2003.7.29更新

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